読書案内

お薦めの本を紹介します

天、共に在りー中村哲さんのアフガニスタン三十年の闘いー

天、共に在り

アフガニスタン三十年の闘い

中村哲 NHK出版

天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い

お名前.com  

中村哲さんが亡くられて約1年になります。 アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで2019年12月4日、日本人医師で民間活動団体(NGO)「ペシャワール会」現地代表の中村哲さんらを乗せた車が武装集団に銃撃され、中村哲さんらは、亡くられました。

本書では、中村哲さんの生い立ちをはじめ、現地活動三十年をを振り返り、どうしてアフガニスタンで活動を始めたのか、その後、どうして医療活動以上に、井戸を掘り、用水路を拓(ひら)くことに力を傾けはじめたのか、そのいきさつを紹介してます。

中村哲さんは、1983年にソ連駐留・内戦化のアフガニスタンへ、ハンセン病患者救済のために医師として赴任します。
医師としての使命感だけで、そうした自己犠牲的な任務に赴くことができるものだろうか。中村哲さん自身、キリスト教との出会いがなければ、自分のこれまでの活動はなかったと語っています。
「野の花を見よ。・・・栄華を極めたソロモンも、その一輪の装いに如かざりき」(マタイ伝)
これを中村哲さんは「ただ道を求めよ。天は汝らと共におわします」と読んだといいます。また、書名『天、共にあり』の由縁でもあります。強い信仰というものが持つ底知れぬ力を感じます。
赴任した中村哲さんは、十分な医療施設もない、器具もない、スタッフもいないなかで、着実にハンセン病患者治療の成果をあげていきます。そして、驚くことに病棟に「靴屋」をつくり、腕っこきの靴職人を引き抜いてきて、現地の技術でサンダルをつくって配布すると、足の切断手術が激減するという予防効果を得ることが出来ました。

これは、援助物資として先進国から靴をおくっても、すぐに売ってしまう人々を見ていて中村哲さんの熟慮したうえでの方法でした。この一事のなかに、中村哲さんの人となりがあらわれています。目的(ハンセン病患者を減らす)のためなら「医者の領分」などというものにはこだわりません。
ソ連撤退後も内戦状態がつづくアフガニスタンを2000年、大旱魃がおそいます。ハンセン病患者以外の診療にも活動を広げていた中村哲さんのもとに、死にかけた幼児を抱いた若い母親たちがつめかけてくるようになります。外で列をなして待つ間に我が子が胸の中で亡くなってきます。
この惨状を前に中村哲さんは、「もう病気治療どころではない」と決意します。まずは飲料水確保のための「井戸掘り事業」を開始します。「ペシャワール会」の資金・人的援助のもと、数ヶ月で274ヵ所で井戸を復活させ人々を救いました。この活動は、アメリカによる「アフガン報復爆撃」の間も続けられ、2006年までに1600ヶ所に達し、多くの村々を救いました。
中村哲さんは、さらに、旱魃で砂漠化していく農地を回復させなければ、人々がこの地で生きていくことはできないと考え、砂漠に農業をよみがえさせるために大用水路の工事に着手します。

全長25キロに及ぶ難工事。これを、土木技術などまるでもっていない医者が、独学で学びながら成し遂げてしまいます。中村哲さんの活動に賛同する多額の基金が日本から寄せられ、日本人の若者が参加し、多くのアフガニスタンの役人、実業家、技術者、労働者が力の限りを尽くして用水路を完成させていきます。
中村哲さんは、夢中で三十年を駆け抜けてきました。自分のなしたことの偉大さを誇ったりはしません。縁あって協力者となってくれた人々への感謝がくりかえし語られます。

中村哲さんの献身的な奉仕には、たいへん頭が下がりました。本当に惜しい人を亡くしました。本書は何度も、繰り返し読みたい本です。ひとりでも多くの方に読んで頂けたらと思います。

 

内容紹介

困っている人がいたらいやら手を差し伸べるーそれは普通のことです。

第1回 城山三郎賞受賞
第4回 梅棹忠夫 山と探検文学賞受賞

1984年よりパキスタン、アフガニスタンで支援活動を続ける医師・中村哲。治療のために現地へ赴いた日本人の医者が、なぜ1600本もの井戸を掘り、25.5キロにもおよぶ用水路を拓くに至ったのか?「天」(自然)と「縁」(人間)をキーワードに、その数奇な半生をつづった著者初の自伝。

ー「終章」より

「信頼」は一朝にして築かれるものではない。利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは、武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。私たちにとって、平和とは理念ではなく現実の力なのだ。私たちは、いとも安易に戦争と平和を語りすぎる。武力行使によって守られるものとは何か、そして本当に守るべきものとは何か、静かに思いをいたすべきかと思われる。

(引用元:NHK出版

著者紹介

中村哲(なかむら・てつ)

1946年福岡県生まれ。医師・PMS(平和医療団・日本)総院長。九州大学医学部卒。84年にパキスタンのペシャワールに赴任。91年よりアフガニスタン東部山岳地帯に診療所を開設し、98年に基地病院PMSを設立。2000年からは水源確保のための井戸掘削とカレーズ(地下水路)復旧を行う。03年より09年にかけて灌漑用水路を建設。マグサイサイ賞「平和と国際理解部門」、第61回菊池寛賞、第24回福岡アジア文化賞大賞など受賞多数。著書に『ペシャワールにて』『医は国境を越えて』『医者 井戸を掘る』『医者、用水路を拓く』(以上、石風社)など。

目次

第1部 出会いの記憶 

1946~1985

第一章 天、共に在り

第二章 ペシャワールへの道
第2部 命の水を求めて 

1986~2001

第三章 内戦下の診療所開設

第四章 大旱魃と空爆のはざまで
第3部 緑の大地をつくる 

2002~2008

第五章 農村の復活を目指して

第六章 真珠の水―用水路の建設

第七章 基地病院撤収と邦人引き揚げ

第八章 ガンベリ沙漠を目指せ
第4部 沙漠に訪れた奇跡 

2009~

第九章 大地の恵み―用水路の開通

第十章 天、一切を流す―大洪水の教訓

終章 日本の人々へ

アフガニスタン・中村哲 関連年表

 

 

 参考図書

 

  

kazamori.hatenadiary.jp

 

 下の記事では中村哲さんの功績を知ることができます。

www.kazamoriblog.com

 関連サイト

下の番組(2020年12月放送)では、中村哲さんと日本人の若者たちとの絆が描かれてます。

www.nhk-ondemand.jp