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お薦めの本を紹介します

「知の巨人」立花隆の書棚

立花隆の書棚

立花隆

薈田 純一 写真

中央公論新社

立花隆の書棚

本書は、著名人の書棚をくまなく撮影して本にする、「〇〇の書棚」という中央公論新社のシリーズの一冊として企画されたもので、「 知の巨人」との異名を持つ立花隆さんの書棚を解説した本です。

また、特殊な撮影方法で撮影した書棚の写真は見応えがあります。そして、立花隆さんの書棚にある本の解説を中心にして、立花隆さんが、どのように「知の世界」を作り出していったかが分かります。

まず、本書を手にとって驚くのがそのボリュームです。それは、ハードカバーで、厚さ5cm以上で、ページ数は、650ページにも及びます。また、本書はただのブックガイドではなく、書棚を見ていくことで、立花隆さんの「知の歴史」の断片を知ることができます。

本書の「目次」には特徴が有ります。本書の「目次」は、章ごとにネコビル(一部、三丁目倉庫+立教大学研究室)のフロアを紹介しています。そして、そこに収められた蔵書にまつわる著者の解説内容が小見出しとなっています。

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立花隆とネコビル

それぞれが非常に興味深いテーマを取り上げています。本書の目次については、このブログの後の方に掲載してます。

本書で個人的に興味深かったのが「歴史は「今」から逆戻りで学ぶべき」の項目です。著者は、日本の歴史教育のあり方に疑問を呈し、著者の歴史を学ぶに際しての貴重な考えを以下のように書いてます。

 「高校の世界史では、一年生の夏休みまでずっとギリシャ・ローマを教えて、三年生の最後に第二次世界大戦までたどり着けるかどうかといったところです。日本史でも同じように古いことばかり教えているから、みな縄文時代・弥生時代はよく知っている(笑)。

でもそれでは駄目なのです。高校の教育改革の一つとして、『現代史』という教科を立ち上げるべきだと主張している人もいますが、これはぜひ導入するべきだと思います。

現代史がわからないと、現代そのものがわからない。ぼくが歴史を教えるときは、新しい時代から順番に教えます。まず、今の世界の状況を教える。次に、その少し前の状況を伝えて、なぜ今のような事態になったのかを教える。これを繰り返して、少しずつ歴史を逆戻りしていくのです。

それで、ぼくとしてはフランス革命辺りまで戻れば、十分じゃないかという気がしています。もちろん歴史が好きな人はいくらでも戻ればいい。でも縄文時代から始めてフランス革命まで進めるよりも、『今』からフランス革命まで戻るほうが、ずっと意味がある。過去200年がわかれば、『今』がわかるのです。」(636頁)

本書は、ページ数こそとても多く、手に取るのを躊躇してしまうかもしれません。しかし、写真が多く、ページあたりの文字数もそれほど多くないので、読了するのにかかる時間は見た目ほどではありません。また、書棚を撮影した写真を見るだけでも、本好きには楽しくなる本です。

先日(2021年4月30日)、立花隆さんがお亡くなりました。ご冥福をお祈り申し上げます。

出版社の内容紹介

知の巨人、立花隆の驚異の書棚を、分野ごとに撮影して紹介。哲学、宗教、分子物理学……、各分野の必読文献を列挙し、知の歴史にさまざまな角度から光を当てる。グラビア188ページを収載。

中央公論新社

著者等紹介

 立花 隆(たちばな・たかし)

1940年、長崎県生まれ。64年、東京大学仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。66年に退社。67年、東京大学哲学科に学士入学。その後、ジャーナリストとして活躍。83年、「徹底した取材と卓抜した分析力により幅広いニュージャーナリズムを確立した」として、第31回菊池寛賞受賞。98年、第1回司馬遼太郎賞受賞。

薈田 純一(わいだ・じゅんいち)

写真家。兵庫県神戸市生まれ。小、中学校時代を米国で過ごす。外国通信社勤務後、人物ポートレートや、“突然よみがえる日常では忘却された記憶”というべき「偶景」をテーマに撮影を始める。

 目次

まえがき

第一章 ネコビル一階
「死」とは何か
自分の体験から興味が広がる
日本近代医学の始まり
分子生物学は、こんなに面白い
春本の最高傑作
伝説の編集部
不思議な人脈
中国房中術の深み
フロイトはフィクションとして読む
サルへのインタビューを試みた
河合隼雄さんとの酒
アシモはラジコンに過ぎなかった
人間の脳とコンピュータをつないでしまう
医療、介護から軍事まで
原発事故現場に入ったロボットがアメリカ製だった理由
最初はアップルのMacを使っていた
ネットの辞典は使わない
汚れたラテン語の教科書
役に立つシソーラス
虫眼鏡より拡大コピー
ポパーの主著が見つからない
お坊さんで科学者の偉人
古本屋の商売
とにかく脳のことはわかっていない
壊れた脳がヒントになる
医学系の心理学と文科系の心理学がある
レポートそのものが売り物になる宇宙モノ
嘘が面白い
ブッシュの一日
アメリカにおける原発開発ブーム
最新の原発技術
東電ではなくGEに損害賠償を要求すべき
原発の安全性を証明する事件になるはずだった
太陽光発電の可能性
研究の自由は、現代社会で最も重要なもの
キュリー夫人の国
原発研究に積極的なロシア
中国が原発大国になる

第二章 ネコビル二階
土着宗教としてのキリスト教
真言宗の護摩焚きにそっくりだと思いました
聖母像の秘密
マリア信仰
寝取られ男ヨセフ
黒いマリア
日本とイエズス会宣教師の深い関係
現地人と親しくなるコツ
殉教者の歴史
インカの血統
偽書を楽しむ
途切れた天皇の系譜
自著はあまり読み返さないけれど

第三章 ネコビル三階
西洋文明を理解するには聖書は必読
個々の文章を読み込んでいくこと
神の存在を素朴に信じるアメリカ人
アーサー王伝説
本は総合メディア
イスラム世界を「読む」
神秘主義
井筒俊彦先生との出会い
ルーミーの墓所
コーランの最も有名なフレーズ
『古事記』『日本書紀』以外の系譜
パワースポットの源流
神、キリスト、そして聖霊
巨石文明とヴィーナス信仰
メーヌ・ド・ビランと日本の出版文化
ソクラテス以前の哲学
フリーマン・ダイソン
地球外生命体は存在する!?
困ります、岩波さん
ファインマン最大の仕事
くりこみ理論
科学を「表現する」天才
科学は不確かなものである
サイエンスについて語ることの難しさ
現実では起きないけれども……
アインシュタイン最大の功績
レーザーの世界
日米、「光」の競争
タンパク質の構造解析

第四章 ネコビル地下一階と地下二階
自動排水装置
取材は「資料集め」から
明治維新について書くなら必須の資料
貴重な『Newsweek』
大学は「自分で学ぶ」ところ
保存できなかった農協関係資料
本を書いた後に、資料が増えていく不思議
石油から、イスラエルと中東問題へ
モサドのスパイ、エリ・コーエン
本には書いていないエルサレム
パレスチナ報告
科学史が重要なわけ
日本の航空機製造の元祖
郷土史研究の名資料
野坂参三の秘密
重信房子に接触を試みた
ゾルゲと日本共産党
警察資料まで売っている古本屋
雑誌はなかなかいい資料
連続企業爆破事件はまだ終わっていない
機関誌へ寄稿していたビッグネーム
アメリカの新聞も危ない
西欧諸国における下水道の意味
スターリンとは何だったのか?
プーチンは帝国を作ろうとしている
旧岩崎邸の地下で起きた事件の真相
ぼくが煙草を吸わない理由
半藤一利さんと田中健五さんにはお世話になった

第五章 ネコビル階段
ブルゴーニュからヨーロッパを知る
近代国家の枠組みを相対化する
書棚は歴史の断面である
ゲーデルの功績に有用性はあるか
アジアは単純ではない
教科書的な本をまず手にとる
宗教学者としてのマックス・ウェーバー
政治家の質を見分ける本
親父の形見
政治家の自叙伝

第六章 ネコビル屋上
コリン・ウィルソンの多面的世界
男はみんなスケベだ
埴谷雄高の思い出
転向者の手記
共産党から連日のように批判記事を書かれた
火炎瓶の作り方
ワイン作りの思い出
その「赤い本」の日本語版

第七章 三丁目書庫+立教大学研究室
お気に入りはバーン=ジョーンズ
ロンドン風俗のすべてが描かれている
日本にも大きな影響を与えたラファエル前派
死ぬ前に見ておきたい絵
今、アメリカで最も有名な中国人画家
人間が人間を表現するということ
一休と森女の謎
日本の三大バセドウ病患者
「汝の欲するところをなせ」というタイトルのビデオ
携帯の電波が届かない執筆スペース
大学の教養課程で教えるべきは、「脳」について
どうしようもない人のどうしようもない本
特別な写真家土門拳
春画でも最高峰の葛飾北斎
錦絵なしに歴史は語れない
原書房の独特なラインナップ
角栄について新しいことが書かれた本はもう出ない
もう一度音を鳴らしてみたい
学生時代は映画館に入り浸っていた
河出書房の意外な姿
ヨーゼフ・ボイスの不思議な仕事
日記からわかる明治維新
新聞凋落!?
彼らにはたしかに「勢い」があった
古書店の在庫目録
昭和史の資料と戦闘詳報
伏字だらけの日本改造法案
盗聴と二・二六事件
ブーガンヴィルと啓蒙思想
キリスト教の歴史を知るための基礎資料
歴史は「今」から逆戻りで学ぶべき
時代が変われば、本を置く場所も変わる

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