読書案内

お薦めの本を紹介します

許されざる帰還~陸軍特攻隊の悲劇(振武寮の地獄)~

  特攻振武寮~帰還兵は地獄を見た~

大貫健一郎(元陸軍少尉)・渡辺 考(NHKディレクター) 朝日文庫
特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た (朝日文庫)

特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た (朝日文庫)

 

ロングセラーになっている「不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したかー」を読んで、この本の単行本が基になっていると書いてあったので、文庫本として出版されたのを機会に、手に取ってみました。

 

 

 特攻隊員の経験を持つ大貫健一郎さんが、近年の特攻隊を美化する動きに強い違和感を抱き、高齢の身をおして自身の経験の教訓を世に残そうと、NHKディレクターの渡辺さんと協力して本書が出来ました。


戦況が逼迫する中迫り来る米軍相手にジリ貧になる日本軍。中身の無い官僚的軍人幹部らのご都合主義や建前論に振り回される隊員達の姿が、脚色もなく赤裸々に語られています。ほとんど強制に近い志願の実態やにわか仕立てで、まだ飛行機乗りとしての練度が低い年若い隊員達が、なぜ死なねばならぬのかと自問し葛藤するその心の揺れ動きを克明に描いてます。

大貫さんは途上米軍機に襲われ命からがらの不時着しました。その他に、整備不良による待機、不時着、故障帰還、そして人間的に当然起こりうる疑惑の帰還等で、それら全ての「生還した」彼らを待っていたのが「振武寮」でした。そこでは、隔離され面罵され竹刀で叩かれました。
出撃に際して渡された拳銃には二発の弾が予めこめられていたという。不時着したらエンジンを撃ち機を燃やせ。そしてもう一発で自殺せよと。
国家が求める自己犠牲の象徴として「とにかく死んでくれ」生きていては困る「軍神」。戦争の不条理と言うしかない。大貫さんの、死におもむいた戦友への哀悼が胸を打ちます。

 内容紹介

この本を読んでいなければ、『不死身の特攻兵』も生まれませんでした。
【解説・鴻上尚史

 戦争末期の福岡に特攻帰還兵が収容された「振武寮」という施設がありました。

外出は一切禁止、「卑怯者、死んだ連中に申し訳ないと思わないのか」

「そんなに死ぬのがいやか」など屈辱的な言葉を投げかけられ、竹刀で滅多打ちにされる。幽閉生活の中で、兵士たちは「自分たち特攻帰還者は生きてはいけない存在なのだ、次は絶対死んでみせる。」、そう思わせるための精神教育をするための施設でした。

 著者の大貫健一郎氏は、ここに実際に幽閉されていた特攻隊員の生き残りの一人です。特攻隊員として出撃するまでの苦しみ、将来の夢を持ったまま亡くなった戦友たちの無念、特攻作戦そのものへの疑問。そして、戦後を生き続ける苦悩。決して美化してはいけない。

 「特攻」を経験した元兵士の貴重な記録です。

 本書は、二本のテレビドキュメンタリー(ETV特集「許されなかった帰還~福岡・振武寮~」、NHKスペシャル「学徒兵 許されざる帰還~陸軍特攻隊の悲劇~」が基になっています。

著者紹介

大貫健一郎(おおぬき・けんいちろう)

1921年福岡県生まれ、台湾育ち。拓殖大学卒。42年10月、陸軍小倉歩兵第14連隊入隊。43年6月、特別操縦見習士官制度に志願合格し、10月、大刀洗陸軍飛行学校本校に入校する。44年8月、陸軍特攻隊の一員に選ばれる。45年4月、特攻機で沖縄に向かうも不時着、その後「振武寮」に軟禁された。菰野陸軍飛行基地で終戦を迎える。戦後は建設機械リース業の会社を興し、1986年引退。2012年3月逝去。享年90歳。

渡辺 考(わたなべ・こう)

1966年東京都生まれ。早稲田大学卒。NHKディレクター。制作したテレビ番組に、NHKスペシャル「学徒兵 許されざる帰還~陸軍特攻隊の悲劇~」などがあり、ギャラクシー賞橋田賞など受賞多数。

目次

序章 幽閉された軍神

一章 「特殊任務を熱望する」

二章 第二二振武隊

三章 知覧

四章 友は死に、自らは生き残った

五章 振武寮

六章 敗戦、そして慰霊の旅

終章 知覧再訪

解説 鴻上尚史