読書日記

お薦めの本を紹介します

原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃を伝える

チェルノブイリの祈り 未来の物語

スベトラーナ・アレクシエービッチ (訳)松本妙子 岩波書店 
チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

 

この本は、チェルノブイリ原発事故の事実関係を解明しようとした本ではなく、チェルノブイリ原発周辺で暮らしていた人々が被曝により人生を狂わされたことを描いてます。

 著者のアレクシエービッチ氏が、精力的かつ誠実に取材を行っていて、多くの人々の証言により、悲しみが伝わってきます。

チェルノブイリ原発事故から10年後。現地を訪れた著者は300人もの人にインタビューを重ねて本書を著しました。著者は、「自分自身へのインタビュー」で本書のねらいをこう語っています。
「この本はチェルノブイリについての本じゃありません。チェルノブイリを取り巻く世界のこと、私たちが知らなかったことについての本です。(略)この未知なるもの、謎にふれた人々がどんな気持ちでいたか、なにを感じていたかということです。この本は人々の気持ちを再現したものです。事故の再現ではありません。」

登場人物はさまざまであります。
汚染された土地から避難することを拒否して、先祖の土地で死ぬことを選ぼうとする人々。行方不明の被災者を探し続ける女性。民族紛争で故郷を追われてチェルノブイリに住み着いた若者たち。原子炉に対峙して冷却作業に従事した研究者たち。黙々と汚染された土をすくい取った作業員。彼らは放射能に効くと聞いて毎晩ウオッカで酔いつぶれていた。伝染病の拡散を防止するために残された犬や猫や牛を射殺する猟師たち。燃え盛る原発の炎を美しいと眺めていた人々に放射能の危険性が知らされたのは2日後だった。子供たちは疎開先で「被爆した子供は身体が光る」と裸にされるいじめを受けた。障害をもって生まれた子供の母親の苦悩は続いている。これ以外にも、物理学者、ジャーナリスト、党の地区委員会の幹部などの声が紹介されています。

本書を読みながら福島原発事故の被災者のことを考えずにはいられません。住まいと仕事を奪われて慣れない土地で暮らし、また、風評被害に悩む農業・漁業従事者がいます。果てしない除染作業、等々。本書の単行本は、福島第一原発事故以前に出版されてます。著者アレクシェービッチは「私は未来のことを書き記している」と本書で述べてます。彼女の、いや本書に登場する人々の言葉に耳を貸さなかった結果が福島第一原発の事故であった、と思えてなりません。これは重大な警告を含んだ重い悲しみの書であります

内容紹介

 1986年の巨大原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃とは何か。本書は普通の人々が黙してきたことを、被災地での丹念な取材で聞き取る珠玉のドキュメント。汚染地に留まり続ける老婆。酒の力を借りて事故処理作業に従事する男。戦火の故郷を離れて汚染地で暮らす若者。四半世紀後の福島原発事故の渦中に、チェルノブイリの真実が甦る。

著者紹介

スベトラーナ・アレクシエービッチ

 1948年ウクライナ生まれ。国立ベラルーシ大学卒業後、ジャーナリストの道を歩む。民の視点に立って、戦争の英雄神話をうちこわし、国家の圧迫に抗い続けながら執筆活動を続ける。2015年ノーベル文学賞受賞。

 翻訳された著書に「アフガン帰還兵の証言」、「戦争は女の顔をしていない」、「ボタン穴から見た戦争」など。 

目次

   孤独な人間の声

   見落とされた歴史について

第一章 死者たちの大地

   兵士たちの合唱

第二章 万物の霊長

   人々の合唱

第三章 悲しみをのりこえて

   子どもたちの合唱

   孤独な人間の声

事故に関する歴史的情報

エピローグに代えて

訳者あとがき

岩波現代文庫版訳者あとがき

解説 広河隆一