読書日記

お薦めの本を紹介します

バンザイ!ベーブ・ルース

大戦前夜のベーブ・ルース

  野球と戦争と暗殺者

ロバート・K・フィッツ [ 訳 ]  山田美明  原書房  

 

大戦前夜のベーブ・ルース: 野球と戦争と暗殺者

大戦前夜のベーブ・ルース: 野球と戦争と暗殺者

 

 

本書は、1934年に行われた全米野球チームのアジア遠征を通じ、アメリカと日本を和解させようとした絶望的な試みの物語です。互いに異なる文化を持つ二つのチームは、野球を愛する心から一時的に結びついたものの、やがて両国が戦争に突き進んでいくにつれ、悲劇的に引き裂かれていきます。その過程は、国際的な陰謀、スパイ活動、暗殺未遂、そしてもちろん野球にまつわるさまざまなエピソードに彩られています。
1932年、5.15事件。1933年、国際連盟脱退。
かつてない緊張の中、時の駐日大使ジョゼフ・グルーは国務長官に書簡を宛てる。「現在の国情を見るかぎり、世論を刺激する重大な事件が勃発すれば、日本はどんな犠牲も厭わず過激な行動に出るかもしれません」。
 そんな渦中に、ベーブ・ルースがやってきた。そして受け取る熱烈歓迎。とあるアメリカの新聞はその光景を受けて報じた。
「外交官や海軍軍人は石油や制海権についてさまざまに論じているが、日本の大衆はアメリカと和解するための共通の地盤を見つけた。野球とベーブ・ルースである」。
しかしそんな和平のシンボルの努力も虚しく、両国は開戦の時を迎え、すると一転、その彼が鬼畜米英の象徴と化する。
 決死の突撃を前に、とある日本兵は片言の英語でこう叫んだという。
「トゥ・ヘル・ウィズ・ベーブ・ルース!」
 まるで両国の国力の差を示唆するかのような、全米チームの行脚の記録としても鮮明な筆致で書き綴られてはいる。そうした身体性のリアリズムを凌駕する方法として日本が見出した「野球道」探求というコントラストも見事。そうした華やかな興行の背後に垂れ込める軍部の台頭をめぐる描写も、要点をかいつまんでバランスよく記述されているように思います。
 警察を追われ、実業家としての再起を期して新聞社を買い取り、社運をかけて日米野球開催にこぎつけ成功に導くも、「明治天皇の名前を戴いた球場でベーブ・ルース率いる全米プロ野球チームの試合を行い、明治天皇を冒涜」したことを理由に瀕死の襲撃を受けた人としての正力松太郎、本書における像を切り出してみると、どこか日本のパブリック・イメージと乖離している気がしないでもないが、外国人から見れば、案外そんなものなのかもしれない。ちなみにこの暗殺未遂犯、憂国の士としてのセルフ・アピールが効いたのか、わずか懲役3年の判決で済みました。
しかし、本書最高のカタルシスは、エピローグとしての1949年、サンフランシスコ・シールズの来日、マッカーサー曰く「史上最大の外交」にこそある。 チームの指揮を執り、34年にも選手として訪れていた親日レフティ・オドールはこう述懐する。
「日本に着いたばかりのころはひどかった、みな元気がなく、私が『バンザイ!』と叫んでも返事をしない。何の反応もなかった。ところが1か月後に日本を去るときは、日本中が歓声を上げ、再び『万歳!』と叫んでいた」。

「日本も沢村も戦争に邁進した。日本の何百万もの軍人や民間人が、家族や生活を犠牲にして国のために戦った。沢村はまさにその象徴だった。だが戦後になると、沢村の人生には違う意味が付与されるようになった。積極的な戦争支持者としてではなく軍国主義の犠牲者として、戦争で夢や生活を打ち砕かれたあらゆる世代の国民の象徴となったのである」。
 日本の戦中戦後大衆史としての見事なまとめ方。もちろん野球にまつわるエピソードも彩られています。

 特にベーブ・ルースらの全米野球チームを歓迎するために、銀座のパレードに50万の人が集まり熱狂したことや、全国各地で試合の様子が詳細に描かれています。そして、多くの写真も掲載され当時の雰囲気がいくらか感じることができます。また、日本の近現代史にも触れられており、単なる野球史の範疇を越えて、日本近現代史も知ることができます。

内容紹介

  野球と戦争の知られざる昭和史 

 

昭和9年、国際連盟も脱退し孤立を深める日本に、戦争回避へ一縷の望みを託した大リーグ親善選抜チームが来日した・・・。正力松太郎の思惑、ベーブ・ルースらの活躍極右テロリストの暗躍、沢村栄治の悲運などを重ね合わせて激動の時代を活写した力作ノンフィクション!

アメリカ野球学会が野球関連の優れた書籍に贈るシーモア・メダル受賞作。

著者紹介

ロバート・K.フィッツ : 1965年、フィラデルフィア生まれ。ペンシルベニア大学卒業。ブラウン大学でPh.D取得。18世紀アメリカの奴隷史を研究。近年は日本の野球史について積極的に執筆。Banzai Babe Ruth(『大戦前夜のベーブ・ルース』)で、アメリカ野球学会(SABR)が野球関連の優れた書籍に贈るシーモア・メダルを受賞(2013年度)。

 

目次

序章

第1部

第一章 正力松太郎の賭け

第ニ章 日本遠征計画

第三章 レフティ・オドール 

第四章 嵐

第五章 説得

第六章 ジミー堀尾

第七章 スパイ

第八章 「昭和維新

第九章 出港

第2部

第10章「日本は今、きわめて深刻な事態にあります

第11章 万歳!万歳!

第12章 歓迎会

第13章 神宮球場 開幕戦

第14章   全日本チームの善戦

第15章 函館 仙台

第16章 東京

第17章 極右

第18章 「日本はすばらしい国です」

第3部

第19章 暗殺計画

第20章 野球道

第21章 陸軍士官候補生

第22章 沢村栄治、奇跡の好投

第23章 失敗

第24章 名古屋 大阪 小倉

第4部

第25章 ビクトル・スタルヒン

第26章 怪行動

第27章 グッバイ!サヨナラ!

第28章 上海 マニラ

第29章 成果ー日本プロ野球創設と「敵意」

第5部

第30章 正力松太郎襲撃事件

第31章 真珠湾

第32章 「日本はこの戦争に勝てません」

第33章 「ジャップこそ地獄に堕ちろ!」 

第34章 沢村の悲劇ー三度の徴兵と死

第35章 再出版

謝辞

訳者あとがき

参考文献

付録(打撃成績 / 投手成績 / 試合結果)