地図で読む戦争の時代
描かれた日本、描かれなかった日本
今尾恵介 白水社
掲載された地図は、130点以上になり、その地域は、日本全国、領有をめぐって揺れる北方領土、尖閣諸島、満洲国、日本統治下の朝鮮・台湾、それにドイツ、ロシア、ポーランド、インドに及びます。
テーマは四つに分かれて「戦争の傷痕」、「植民地と領土」、「秘匿される地図」、「軍事施設のその後」になります。その中で取り上げた事例としては、広島の被爆地区は「タテ縞」であらわされ、軍事秘密にされた地域は公園に書き換えられ、等高線もトンネルは消され、あげくのはてには空白になる。陸軍の東京砲兵工廠跡が後楽園の東京ドームとなり、歩兵第一連隊兵舎跡が東京ミッドタウンになってます。
内容紹介
蛇行を繰り返す線路、忽然と現われる円形の区画、広大な空き地。地図に描かれた戦争の痕跡を古今内外の地図をもとにさぐっていく本書は、植民地や領土問題を考える上でも示唆に富む。
「地形図を作り始めたのは、どの国でもたいてい陸軍である。もちろん海図は海軍が作った。陸であれ海であれ、国を守るために正確な地図が必要であることは当然である。しかし一方で、他国を侵略するにも、先立つものは地図であった。」(本書「はじめに」より)
軍港や飛行場などの軍用地、重要な工場や発電所、ダム、鉄道操車場といった場所の地図は、敵国の目から隠すために、ときに別のものとして描かれたり、まったくの空白とされることもあった。
とはいえ、正確に描かれた地図のなかでこのような改描は逆に目立つことも多い。呉や佐世保、横須賀といった地の空白が意味するものは、歴史を知るわたしたちにとっては明らかだ。
この本では、さまざまな用途や時代の地図をもとに、日本がかかわった「戦争」の痕跡をさぐっていく。
軍用地や軍用鉄道は戦後どのような変遷を遂げたのか。また、日本の支配下にあった朝鮮や台湾、満洲国の地図はいかに描かれていたのか。
地図から日本の歩みが立体的に浮かび上がる。掲載地図130点以上。領有をめぐって揺れる尖閣諸島や北方領土の地図も掲載。
著者紹介
今尾恵介(いまお・けいすけ)/1959年神奈川県生まれ。地図研究家。明治大学文学部中退。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。音楽出版社勤務を経て、1991年より執筆業を開始。地図や地形図の著作を主に手がけるほか、地名や鉄道にも造詣が深い。主な著書に、『地図で読む戦争の時代』『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み』(白水社)、『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)など多数。現在(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査
目次
地図に表わされた戦争の傷痕 (地形図に描かれた空襲―名古屋
市街地に残る幅広い傷跡 建物疎開―蒲田、京都ほか
植民地と領土を地図に見る (朝鮮の干拓地に記された日本の県名
台湾の農村を縦横に走る稠密な線路網 ほか)
地図が隠したもの―秘匿される地図 (描かれなかった等高線―横須賀
毒ガスは地形図の空白で作られた―広島 ほか)
軍事施設はその後どうなったか(軍用地はその後どうなったのか―東京砲兵工廠(後楽園)、成増飛行場
軍用鉄道の生まれ変わり―新京成電鉄、東急こどもの国線、西武拝島線 ほか)