宇宙のはじまり
多田将のすごい授業
多田 将 イースト新書
ノーベル賞学者梶田隆章博士グループの研究の一翼を担う新進気鋭学者の講演集です。素粒子物理学者である著者の「宇宙のはじまり」の簡単な説明では、「宇宙は膨張している→『宇宙のはじまり』では物質は一か所にまとまっていた→ものすごいエネルギー密度(超高温)だったはず→加速器で超高エネルギー状態をつくりだせば、これすなわち宇宙のはじまりの再現」という話になります。
ただ、「宇宙のはじまり」といっても「星ができた」「銀河ができた」ではなく、最初の一瞬の素粒子レベルの話です。
宇宙138億年の歴史からすれば、約38万年目(本書では宇宙誕生から10の13乗秒後)の「宇宙の晴れ上がり」(=電子が陽子につかまる)だって一瞬だし、「陽子がまとまって原子核になった」(宇宙誕生から1秒~100秒後)、さらに「クォークが陽子に閉じ込められた」(宇宙誕生から1億分の1秒~1万分の1秒後)、さらに「弱い力と電磁力が生まれた」(宇宙誕生から1000億分の1秒後)などー素粒子ドラマは一瞬のうちに進みます。
このような素粒子ドラマの時間を遡りながら、現在の宇宙に物質が存在する理由となる「対称性の乱れ」を説明した小林・益川理論や、力を伝える媒介粒子(ゲージ粒子)の質量の違いを説明する「ヒッグス粒子」の意義などが語られています。
第3章のQ&Aでは、既に巨大な円形加速器があるにもかかわらず、なぜILC(直線加速器)が欲しいのかも説明しています。陽子なら円形でも十分加速できるが、いろいろな素粒子が詰まっているので、衝突させた時の破片の分析が大変。そこで陽子の代わりに構造が単純な電子を加速して衝突させたいが、陽子に比べて質量ははるかに小さいくせに電荷は同じという電子を円形で加速するとエネルギーの無駄が大きいので直線で加速する必要がある、ということらしいです。
内容紹介
なぜ人間は宇宙に存在するのか?
人気の素粒子物理学者が物質の起源に迫る120分の超絶講義。
宇宙はどのように誕生し、今の姿になったのか? 140億年後を生きる人類は、加速器という装置を作り出し、宇宙が生まれた瞬間――100兆分の1秒後にまで迫っている。なぜそんなことができるのか、人気素粒子物理学者がその仕組みをわかりやすく解説。ラーメンをフーフーする理由とは? マカダミアナッツチョコのナッツだけを人類は食べることができない? スキーに行った修学旅行生は夜、何をしているのか?――宇宙誕生の謎を巧みな比喩と共に描き出す。
著者紹介
多田 将(ただ・しょう)
1970年大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。著書に『すごい実験――高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』(共にイースト・プレス)がある。
目次
はじめに
第1章 宇宙のなかの光と温度
素粒子ニュートリノを300km飛ばす実験;人間よりも大きなもの;人間よりも小さなもの ほか
第2章 宇宙のはじまり
過去を見るとは、物質の高温の状態を見ること;宇宙の過去を再現できる装置;ゼットンの炎より熱いLHC ほか
第3章 宇宙と物質のQ&A
もし物理学のすべての謎が解明されたら、どうなると思いますか?物理学はどうなるのですか?;宇宙人はいると思いますか?;宇宙人は地球の存在に気づいていないのですか? ほか
あとがき
参考図書