サイズの生物学
本書は、動物生理学者が動物のサイズと時間等の関係について考察した中公新書のロングセラーです。
「体の小さい人の動作はきびきびと機敏で、見ていて気持ちがいい。大きな人の動作は、ゆったりと悠揚迫らぬものがある。動物の動きにしてもそうで、ネズミはちょこまかしているし、ゾウはゆっくりと足を運んでいく。体のサイズと時間の間に、なにか関係があるのではないか」と考えた著者が、動物のサイズと様々な現象について分析し、纏めています。
動物のサイズが、寿命や行動速度、行動範囲などなど、いろいろなことに影響を与えており、それがゾウリムシのような単細胞生物からゾウやクジラなどの大きな生物まで一定の規則にあてはめられることは実に興味深いです。
環境が変われば生き方も変わるのと同じで、各々の生活リズムがそれぞれの大きさを形作ることに納得します。
時間については、体重の1/4乗に比例する、即ち、体重が16倍になると時間が2倍になるのだという。この法則は時間の関係する現象に広くあてはまります。例えば、赤ん坊が母親の胎内にいる時間、大人になるまでの時間、寿命のような一生に関わる時間、息をする間隔、心臓が打つ間隔の時間等、日常活動に関わる時間でも同じです。
そして、それが時間に関係ある現象全てに当てはまるのだとすれば、二つの現象を割り算すれば一定値になります、つまり、どんな動物でも、一生に息をする回数、一生に心臓が打つ回数は同じになります。因みに、心臓が打つ回数は20億回である。更に、サイズに関する分析は、エネルギー消費量、食事量、生息密度、行動圏、走る・飛ぶ・泳ぐ速度へも及びます。
ゾウもイヌもネコもネズミも自分たちの感覚の時間(=生理的時間)で生きている(しかし、物理的時間は同じだから、仮にゾウとイヌとネコとネズミを10mの高さから落としたら、みな同じ時間で地面に達する!)、不思議な面白い話です。
動物だけではなく、植物、昆虫、サンゴ、ウニ等の棘皮(きょくひ)動物まで幅広く取り上げられています。
内容紹介
動物のサイズが違うと機敏さが違い、寿命が違い、総じて時間の流れる速さが違ってくる。行動圏も生息密度も、サイズと一定の関係がある。ところが一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量は、サイズによらず同じなのである。本書はサイズからの発想によって動物のデザインを発見し、その動物のよって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書であり、かつ人類の将来に貴重なヒントを提供する。
時間とは、もっとも基本的な概念である。自分の時計は何にでもあてはまると、なにげなく信じ込んで暮らしてきた。そういう常識をくつがえしてくれるのが、サイズの生物学である。(7頁より)
〇一生のうちにする呼吸や心臓の鼓動の回数は、ゾウもネズミも一緒?
〇大きな動物は小さく、小さな動物は大きくなる環境ってどんなところ?
〇走る、飛ぶ、泳ぐ。一番エネルギーがいる移動方法はなに?
著者紹介
本川 達雄(もとかわ・たつお)
1948(昭和23)年宮城県生まれ。東京大学理学部生物学科卒。琉球大学助教授など経て、東京工業大学大学院生命理工学研究科教授を歴任.東京工業大学名誉教授.理学博士.専攻,動物生理学。著書に『ゾウの時間 ネズミの時間』『時間』『歌う生物学』『サンゴとサンゴ礁のはなし』『世界平和はナマコとともに』ほか。
目次
第1章 動物のサイズと時間
第2章 サイズと進化
第3章 サイズとエネルギー消費量
第4章 食事量・生息密度・行動圏
第5章 走る・飛ぶ・泳ぐ
第6章 なぜ車輪動物がいないのか
第7章 小さな泳ぎ手
第8章 呼吸系や循環系はなぜ必要か
第9章 器官のサイズ
第10章 時間と空間
第11章 細胞のサイズと生物の建築法
第12章 昆虫―小サイズの達人
第13章 動かない動物たち
第14章 棘皮動物―ちょっとだけ動く動物
あとがき
付録
参考図書
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