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日本の領土問題を考察する

       日本の領土問題

        北方四島竹島尖閣諸島

保坂 正康 東郷 和彦 角川oneテーマ21

 

 著者の一人保坂正康氏は昭和史の大家です。事実を冷静に把握することに努め、文書史料を丁寧に押さえると同時に、文書史料から漏れた同時代に生きた人々の証言をも地道に収集をもしてきた点には、頭が下がります。また、文章が分かりやすいです。

 もうひとりの著者東郷和彦氏は、現場でソ連・ロシア相手に交渉をしてきた外務官僚であり、今は大学教授です。第二次世界大戦終戦時に外務大臣を務めた元外交官の東郷茂徳は祖父にあたります。

 本書前半は、東郷和彦北方四島竹島尖閣諸島という三つの領土問題について史料と現場の経験をふくめて大雑把ではありますが、明快に書いています。後半ではそれを前提にして東郷氏が保坂氏の胸を借りるかたちで対談が進められ、単に過去の話のみならず、今後の解決の糸口について提案をいくつかしています。

そして、三つの領土問題は、それぞれ国の立場によって性格を異にしているという説明です。

 北方四島の本質は、ロシアにとっては経済・軍事的権益をめぐる「領土問題」ですが、日本にとってはむしろ先の大戦末期のソ連から受けた屈辱を晴らし決着をつけるための「歴史問題」です。

 韓国にとって獨島問題の本質は権益にかかわる「領土問題」でなく日本から受けた屈辱にかかわる重大な「歴史問題」ですが、日本にとって竹島問題は漁業権益をめぐる「領土問題」にすぎない。つまり、韓国は1905年の竹島併合を1910年の韓国併合の布石としてとらえてます。

 そして、尖閣諸島問題は、本質的に、中国にとっても、日本にとっても本書が書かれた頃までは「領土問題」であって、「歴史問題」ではない。また、中国が尖閣諸島について領有権を主張し始めたのは、1971年、海底に油田があることがわかって後のことです。

 国の立場によって、それぞれの領土の問題の見え方が異なります。このことをまずは理解してこそ、相手に通じることばを発することもでますし、適切なタイミングを見極めることもできます。

内容紹介

ロシア、韓国が実効支配している北方四島竹島、そして中国の干渉が強まっている尖閣諸島
この三つの領土問題は、今すぐ対処しないと、永遠に解決できなくなってしまうかもしれない。
それはなぜか?
昭和史研究の泰斗・保阪正康と、外務省で対ソ交渉の最前線にいた京都産業大学世界問題研究所所長・東郷和彦が、
わが国の領土問題をめぐる歴史的、外交的背景を徹底分析。さらに問題解決の具体的な手がかりと選択肢を大胆に提言する。
領土問題こそが、今まさに先送りできない問題なのだ。

著者紹介

保坂 正康(ほさか・まさやす)

ノンフィクション作家。評論家。1939年生まれ。同志社大学文学部卒業後、出版社勤務を経て著述活動に入る。近現代史(特に昭和史)の事象、事件、人物を中心にした作品や医学・医療を検証する著作を発表するほか、「昭和史を語り継ぐ会」を主宰、1972年『死なう団事件』で作家デビュー。2004年個人誌『昭和史講座』の刊行により菊池寛賞受賞。2017年『ナショナリズムの昭和』で和辻哲郎文化賞を受賞。近現代史の実証的研究をつづけ、これまで約4000人から証言を得ている。『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『昭和史の大河を往く』シリーズなど著書多数。

東郷 和彦(とうごう・かずひこ)

京都産業大学教授。世界問題研究所所長。1945年生まれ。東京大学教養学部卒業後、外務省に入省。主にロシア関係部署を中心に勤務し、条約局長、欧亜局長、駐オランダ大使を経て2002年に退官。その後、ライデン大学プリンストン大学、ソウル国立大学ほかで教鞭をとり、09年ライデン大学で博士号。10年より現職。

目次

まえがき なぜ今、領土問題を考えるのか 東郷和彦

第一部 外交交渉から見た領土問題 東郷和彦
第一章 二十五年間の交渉に敗北した北方領土問題
北方領土問題の本質的な意義/歴史的屈辱が生んだ領土問題/冷戦期の交渉 北方領土問題はどういう形で残ったか/
冷戦後の平和条約交渉/交渉の本質は何だったのか/日本の一発勝負案とロシアの妥協案/一九九一年の海部・ゴルバチョフ声明/
一九九三年の東京宣言/二〇〇一年のイルクーツク声明/二〇〇六年から二〇〇九年にいたる交渉/交渉敗北の原因/とりあえずのまとめ

第二章 新しい議論が期待される竹島問題
竹島問題の本質的な意義/同時進行した日露戦争韓国併合竹島領有/日韓の差異を埋める二つの提言
/冷戦期の交渉 竹島問題はどういう形で形成されたか/国交回復以降の竹島領土論争の特徴/日韓で新しい歴史議論が始まるか/竹島問題がおかれている現状/とりあえずのまとめ

第三章 武力衝突の危険をはらむ尖閣諸島問題
尖閣諸島問題の本質的な意義/尖閣諸島の歴史的経緯/尖閣諸島の戦後処理/尖閣諸島問題の紛争化/中国側における「次世代おくり」/
一九九〇年代以降の尖閣諸島の政治問題化/尖閣問題がはらむ危険性/とりあえずのまとめ
第二部 対談 領土問題を解決に導く発想と手がかり 保阪正康東郷和彦
第四章 領土問題を考える前提
領土問題の難しさ/なぜ今、領土問題なのか/領土交渉に関する三つの原則/ガラパゴス化する日本の領土要求

第五章 現実的対応が求められる北方領土
プーチンの「ユーラシア共同体」構想/これからのプーチン・メドベージェフ関係/メドベージェフの失望/プーチンからのシグナル/
第一の手がかり…一九五六年日ソ共同宣言/第二の手がかり…共同経済プロジェクトから共同統治へ/四島一括の呪縛からの解きほぐし/
日本はこれから浮上するか/状況を動かす第一の発想…国際司法裁判所への提訴/状況を動かす第二の発想…重光葵の二島返還論

第六章 日韓共存、交流の道を探る竹島
半世紀以上にも及ぶ実効支配の既成事実/竹島を自国領だと認識していたか/韓国の「独島憧憬主義」/
解決への第一の手がかり…北方四島の環境整備の応用を/解決への第二の手がかり…学者間の対話の推進を/
竹島共存の道と近現代史教育/状況を動かす発想…竹島主権の放棄と経済権益の確保

第七章 抑止力と対話が必要な尖閣諸島
尖閣諸島がはらむ危険性/問題を棚上げしようという提案/九〇年代からの七つの動き/菅内閣の不勉強と致命的失敗/
解決への第一の手がかり…武力衝突に備える/解決への第二の手がかり…中国との対話チャネルの構築/
状況を動かす第一の発想…尖閣諸島のエネルギー日中共同開発/状況を動かす第二の発想…尖閣問題の国際司法裁判所への提訴

あとがき 領土をどう考えるか 保坂正康

主な参考文献

参考図書

歴史でたどる領土問題の真実 (朝日新書)

歴史でたどる領土問題の真実 (朝日新書)

 

 

 

北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 (朝日新書)

北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 (朝日新書)

 

 

「国境」で読み解く日本史 (知恵の森文庫)

「国境」で読み解く日本史 (知恵の森文庫)

 

 

 関連サイト

保阪正康 東郷和彦『日本の領土問題北方四島竹島尖閣諸島』 ... 近年、日本の領土問題に関する報道が取り上げられることが多くなった。2010 年の中国 ... と昭和史の評論家である保坂正康氏と同氏による上記の論考を踏まえた対談から構成され. ている ...
 
 

日本の領土Q&A | 外務省 - Ministry of Foreign Affairs of Japan


https://www.mofa.go.jp/mofaj/territory/page1w_000013.html 
北方領土問題についての日本の立場は,どのようなものですか? に移動 - また,北方四島日本への帰属が確認されるのであれば,実際の返還の時期, 態様については柔軟に対応する考えです。 北方領土問題に関する情報はこちら.
 
 
 

【社説】日本人として知っておきたい領土問題 - 日本政治.com


http://nihonseiji.com/special/ryodo 
いま、日本の国境周辺は、かつてない緊張感に満ちています。しかし、関係国がお互いに自国の領有権を主張するばかりで、その争点がなかなか見えてこないのが現状です。日本人として知っておきたい領土問題のポイントを整理しました。
 
 

日本の領土問題


http://nippon.nation.jp/ 
日本の領土問題. 北方領土問題. 北方領土問題の解説の多くは日本政府の政治的立場を宣伝しているものです。しかし、ここでは日本政府の政治的立場に反するかもしれない北方領土問題関連情報も、真実で有るならば、遠慮なく掲載しています。ただし、情報 ...