名画に見る
男のファッション
中野 京子 角川書店
本書は、2010年から共同通信社の配信で各地方新聞に10回連載した後、しばらく時をあけて角川書店の『本の旅人』誌に2年ほど書き継いだ原稿をまとめた一冊です。
西洋絵画に描かれた男たちのファッションを取り上げてこれほどまでに興味深い書をまとめる著者の鋭い着眼点と達意の文章には脱帽です。
30枚の絵画を通して、各時代に流行した最先端ファッションを取り上げ、その成り立ちや時代背景、エピソードを、中野京子さんがいつもながらの軽妙でテンポの良い語り口で説明しておられます。男性ファッションや服飾史にまったく興味がなくても、楽しく読むことができます。
中野さんは「作家、ドイツ文学者」と紹介されていますが、ドイツ以外のヨーロッパの国々の歴史についても大変お詳しく、その上、各時代の風俗や服飾についても造詣が深いのには本当に驚かされます。
現代の目から見れば異装としか形容できない身なりをまとった男たちが描かれた30の絵画を、見事に印刷された図版とともに著者はひとつひとつ丁寧に解説しています。
15世紀には男性のトンガリ靴プーレーヌが大流行。労働に不向きなこのデザインはだからこそ上流階級が自らの地位を誇示するために開発されたとのこと。トンガリ部分の長さは階級の違いによって厳格に差が決められていたほどだとか。
17世紀オランダはプロテスタントであるがゆえに黒を基調とした地味な服装がはやったが、ラフと呼ばれる襟巻を白にすることでアクセントをつけていたそうです。
女性が優勢な18世紀ロココ時代にはカツラが流行する一方で男性的なヒゲの流行は皆無となったという相関関係の妙も初めて知りました。
内容紹介
ナポレオンはナルシスト!? 長ズボンやシマシマ服の謎とは!? 500年前もやんちゃな兄ちゃんはとんがり靴!? 名画のファッションから人々の心情をとことん探る! 『怖い絵』でおなじみ、中野節が今回も炸裂!
惜しげもなく脚線美を披露する男たち、でもその上は…?ゴムもホックもファスナーもない時代、もし不器用だったら…?美術ファンもファッションマニアも納得!絵画30点に秘められた当時の人々の飽くなき思い!
「短パンで脚線美を誇示してハイヒールを履く心情」「結婚記念の肖像画でコスプレをしている理由」「男性らしさを強調する下着の秘密」―絵画30点に描かれた当時の男性ファッションの流行と、男の美への執念を、大ヒット「怖い絵」シリーズの中野京子が鮮やかに斬る。男たちが暑さにも痒みにも耐え頑張る様子には、古今東西まさに“オシャレは我慢”だと実感!美術ファンもファッションマニアも楽しめます。
著者紹介
中野 京子(なかの・きょうこ)
北海道生まれ。早稲田大学講師。専門はドイツ文学・西洋文化史。著書に「名画の謎」シリーズ(文藝春秋)、「怖い絵」シリーズ(角川文庫)、「名画で読み解く 王家12の物語」シリーズ(光文社新書)、「印象派で近代を読む」(NHK新書)など多数。連載に、日経新聞夕刊「プロムナード」(木曜)、北海道&東京新聞夕刊「橋をめぐる物語」など。
目次
軍服、命
―ジャック・ルイ・ダヴィッド『アルプス越えのナポレオン』
エリマキトカゲ…ではない
―フランス・ハルス『聖ゲオルギルス市民隊幹部の宴会』
ダンディ、かくあるべし
―ジョバンニ・ボルディーニ『ロベール・ド・モンテスキュー伯爵の肖像』
お下がりでも貴重品
―伝ピエトロ・アントニオ・ロレンツォーニ『大礼服姿の少年モーツァルト』
聖書時代のパンク
―レオナルド・ダ・ヴィンチ『洗礼者ヨハネ』
派手なスイス傭兵
―伝ヨハネス・ルドルフ・マヌエル『傭兵』
お洒落な丹前
―ヨハネス・フェルメール『地理学者』
若者しか似合わない
―ヘンリー・ウォリス『チャタートンの死』
悪趣味のきわみ
―ティツィアーノ・ヴェチェリオ『皇帝カール五世と猟犬』
道化は目立つべし
―ヒエロニムス・ボス『愚者の船』〔ほか〕
参考図書
「絶筆」で人間を読む 画家は最後に何を描いたか (NHK出版新書)
- 作者: 中野京子
- 出版社/メーカー: NHK出版
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関連サイト
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