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世界通史の金字塔的古典1

 

      世界史(上)

        W・H・マクニール

[訳]増田 義郎 / 佐々木 昭夫 中公文庫

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

 

 

  学校時代に教科書で学んだ歴史、つまり年号、出来事、固有名詞の羅列と違って、マクニールの歴史が断然に面白い理由は、著者の意図が首尾一貫して読者に伝わる点にあります。つまり、あくまで客観的事実に基づきながらも、そこに物語性があるということです。

では、マクニールの意図はどこにあるのでしょうか?読者によって感じ取るものは千差万別でしょうが、強く感じたのは、人類を一つの単位で捉え、文明進化のダイナミズムを表現する、という意図でした。マクニールの定義では、文明は、社会的分業がどこまで複雑化しているかという指標で測ることができます。メソポタミアで農業が生まれ、河川流域での自然の恵みを生かした農業から、灌漑による農業へ拡大し、灌漑事業のための統治システムや階級が生まれ始める。その時代から現代にいたるまでの、人類が「食糧確保」の営み中心から開放され、時間を物質的・精神的に充実させる方向へと歩んできたプロセスが、抽象的概念ではなく、史実を通じて、読者の頭の中にイメージされるように書かれています。
 ですので、各地域に生じた文明の中心点は、どう相互に影響を与え合ったのか?文明間の違いは何で、その違いが文明、あるいは人類全体の進化にどうつながったのか?こうした点をとても大事に書いています。本の章立てが、第一部「ユーラシア大文明の誕生とその成立」第二部「諸文明間の平衡状態」第三部「西欧の優勢」第四部「地球規模でのコスモポリタニズムのはじまり」の四部構成になっていることが、マクニールの意図を何よりも、雄弁に物語っています。
 意図が明確なことに加え、膨大な知識を基に、文明や変化の本質をとらえたスッキリした表現も、面白さの所以でした。
 マクニールは、人間の「思想」が文明を形成し、文明が「思想」を準備する、という循環関係に、強い興味関心を持っていたのではないでしょうか。マクニールは、イスラム教や儒教が余りにも完成され圧倒的優勢な思考体系であったために、それが社会的な思考の多様性と、文明の発展可能性を閉じてしまい、保守的で変化のない数百年をもたらしたと指摘しています。西欧中心で進化論的な立場との批判もあるかもしれませんが、西欧の優勢を経て、現在の様々な状況(先進国の物質的な繁栄、環境破壊、イスラム教と欧米文明の衝突…)がある訳ですので、こうした分析の視点は欠かせないかと思います。

考えることと、自らの手で新たな未来を創り出すこと。この人類特有の能力を、歴史を通じて描こうというのが、本書の目的ではないかと感じましたし、またそこに最大の面白さを感じました。

 内容紹介

世界の各地域を平等な目で眺め、相関関係を分析しながら歴史の歩みを独自の史観で描き出した、定評ある世界史。ユーラシアの文明誕生から紀元一五〇〇年までを彩る四大文明と周縁部。

世界で四十年余にわたって読みつづけられているマクニールの「世界史」最新版完訳。
人間の歴史の流れを大きく捉え、「きわめて特色ある歴史上の問題」を独自の史観で鮮やかに描き出す。
地図・写真多数収録。年表つき。 

著者等紹介

ウィリアム・H・マクニール

1917年カナダ・ヴァンクーヴァ生まれ。シカゴ大学歴史学を学び、1947年コーネル大学で博士号取得、同年以来、長い間シカゴ大学歴史学を教えた。現在では引退し、コネティカット州のコールブルック在住。シカゴ大学名誉教授。
増田義郎[ますだ・よしお]
1928年、東京に生まれる。1950年、東京大学文学部卒業。専攻は文化人類学、イベリア及びイベロアメリカ文化史。
佐々木昭夫[ささき・あきお]
1933年、東京生まれ。東京大学文学部、同大学院(比較文学比較文化)に学ぶ。東北大学名誉教授。

目次

第四版への序文 
序 文 
第I部 ユーラシア大文明の誕生とその成立 紀元前500年まで 
1 はじまり 
2 文明のひろがり 紀元前1700年までの第一次の様相 
3 中東のコスモポリタニズム 紀元前1700 ― 500年 
4 インド文明の形成 紀元前500年まで 
5 ギリシャ文明の形成 紀元前500年まで 
6 中国文化の形成 紀元前500年まで 
7 蛮族の世界の変化 紀元前1700 ― 500年 

第II部 諸文明間の平衡状態 紀元前500 ― 後1500年 

ギリシャ文明の開花 紀元前500 ― 336年 
9  ヘレニズム文明の伸展 紀元前500 ― 後200年 
10 アジア 紀元前500 ― 後200年 
11 インド文明の繁栄と拡大 100 ― 600年 
12 蛮族の侵入と文明世界の反応 200 ― 600年 
13 イスラムの勃興 
14 中国、インド、ヨーロッパ 600 ― 1000年 
15 トルコとモンゴルの征服による衝撃 100 ― 500年 
16 中世ヨーロッパと日本 1000 ― 500年 
17 文明社会の外縁部 1500年まで 

 

参考図書

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

 

 

マクニール世界史講義 (ちくま学芸文庫)

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世界史 I ── 人類の結びつきと相互作用の歴史

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世界史 II──人類の結びつきと相互作用の歴史

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 関連サイト

ビジネスに「世界史の教養」が不可欠な根本理由 | リーダーシップ・教養 ...


https://toyokeizai.net/articles/-/271897 キャリア・教育 › リーダーシップ・教養・資格・スキル
 
2019/03/22 - 多くの人にとって「世界史」というのは高校の科目としての受験世界史のことだと思います。東大など一部の大学を除くと、世界史の入試問題は、「マムルーク朝」とか「ライスワイク条約」とか「地丁銀制」といった歴…
 
 

世界史はなぜ「年号暗記」ではなく「数珠つなぎ」で学ぶべきか |ビジネス+IT


https://www.sbbit.jp/article/cont1/35612 
2018/10/30 - 世界史の教養は、映画、小説、音楽、美術などさまざまなコンテンツを楽しむ上でも、このグローバル時代を生きる上でも、欠かせないものだ。世界史を知れば、人生がより豊かになる。しかし、一般的な世界史の教科書には「わかりにくさ」という ...
 
 

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http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2010/03/post-92f6.html 
2010/03/05 - 800ページで世界史を概観できる名著。 「シヴィライゼーション」という文明のシミュレーションゲームがある。暇つぶしのつもりで始めたのに、暇じゃない時間まで潰されてしまう危険なゲームだ。マクニール「世界史」もそう。それからどうなる?