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北朝鮮の急所を抉り出すノンフィクション

北朝鮮  核の資金源

  「国連捜査」秘録

       古川 勝久  新潮社

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録

 

 

内容紹介

「最強制裁」を掲げるこの日本も、抜け穴だらけだった。
テロ国家は決して孤立などしていないのだ──。 
国連制裁の最前線で北朝鮮を追いつめた男、衝撃の告発。

厳しい国際包囲網の中、なぜ彼らは核兵器や米国にまで届くミサイルを開発できるのか。
国連安保理の最前線で捜査にあたった著者が直面したのは、
国連安保理常任理事国の足もとにまで張り巡らされた犯罪ネットワーク、
それを駆使して戦闘機やミサイルすら密輸する非合法ビジネス、
そして組織の中核で暗躍する日本人の存在だった──。

北朝鮮の急所を抉り出すスクープノンフィクション! 

 かつてこれほどまでにアメリカ国民が北朝鮮という極東の小国に、強い関心と恐怖を抱いたことはなかったのではないか。そもそもアメリカの対外的な関心のほとんどは、これまで中東に向けられていた。実際、1994年にクリントン政権が軍事行動の準備まで行い、カーター元大統領の電撃訪朝により収束した「朝鮮半島・核危機」の際も、国民の関心はこれほどではなかったように思う。いよいよ北朝鮮の開発した長距離弾道ミサイルアメリカ本土に到達するかもしれない、という危機感は、日本人が想像する以上にアメリカを覆っている。
 2017年夏、私が取材で訪れたサウスダコタ州では、広大な敷地に約900の核シェルターが建ち並び、販売されている。販売会社の社長によると現在問い合わせが殺到していて、売り上げは去年の10倍なのだそうだ。ワシントンDC近郊の街で30人以上の人に話を聞いてみたが、ほぼ全員が北朝鮮問題に高い関心を示し「恐怖を感じている」と話した。彼らが口々に憤るのは「なぜここまで北朝鮮を放置し、核・ミサイル開発を許してしまったのか」という点である。オバマ政権では、北朝鮮の挑発に対して「報酬を与える」のではなく、国連による制裁を強化するという「戦略的忍耐」の姿勢を取り続けた。では「幾度となく強力な制裁を受けてきたにもかかわらず、なぜ北朝鮮核兵器アメリカにまで届く長距離弾道ミサイルを、開発することができたのか」――。私も含めて誰もが抱くこの疑問が、古川氏の本書によって氷解する。
 2011年から16年まで、古川氏は国連安保理北朝鮮制裁委員会直属の「専門家パネル」に所属し、国連による制裁を回避するような事案の捜査を行ってきた。専門家パネルの任務は、制裁の強化を通じて北朝鮮に核・ミサイル開発をさせないための国際的な環境を作り出すこと。いわば、各国が具体的にどのような対応をし、北朝鮮がどのように制裁を逃れているかを捜査して報告する立場ということになる。
 驚いたのは、専門家パネルがこれほどまでに現場に足を運び、時に身の危険を感じるほどの捜査を行っているという事実である。実際、本書は古川氏が国連制裁決議違反事件の首謀者である北朝鮮の海運会社「オーシャン・マリタイム・マネジメント」とつながっている日本企業のオフィスに捜査をかける場面から始まる。さながらスパイ映画のようなドキドキ感だ。しかも、国連安保理決議で国連加盟国に専門家パネルによる捜査活動への協力を義務付けているにもかかわらず、各国政府はなかなか肝心な情報を提供しようとしない。自国の利益やメンツなど理由は様々だが、制裁を見逃すどころか正当化する国まである。時に古川氏は休暇をとり身銭を切って、自らの立場を秘匿してまで捜査をして真実に近づこうとする。
 アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中米と世界中に足を運び捜査をする古川氏が直面する制裁履行の実情。それは、各国の制裁に対する関心の低さや、経済的な利害から制裁逃れを助長するような行為ばかりでなく、北朝鮮と深いつながりを持たない国でさえ行われていない、制裁に向けた国内法の整備だ。例えば「安保理決議の完全履行を」と国連加盟国に呼びかけ、いまやアメリカと足並みをそろえて北朝鮮への圧力強化を唱道する日本である。古川氏によれば、日本もまた安保理決議を十分に理解していないが故に、国内法の整備が遅れて制裁を確実に履行できていないのだという。そうした各国の現状を横目に見ながら、北朝鮮は次々と制裁回避手段を講じ、世界中から市販品を買い集めて長距離弾道ミサイルを作り上げている。
 金正男氏暗殺事件など、日本人もよく知るニュースと制裁違反企業の関連など、スリリングな捜査の描写にぐいぐいと引き込まれながらも、あまりにも問題解決にほど遠い「抜け穴」の実態に暗澹たる気持ちになる。制裁強化の裏側で何が起きているのかを記した本書は、制裁実施の障害になっていると報道される中国やロシアの存在に留まらない問題を明らかにし、本当にやるべきことを、日本はもとより世界に突き付けている。

長野 智子(ながの・ともこ キャスター)
波 2018年1月号より

著者紹介

古川 勝久 (ふるかわ・かつひさ)
国連「北朝鮮制裁委員会」専門家パネル元委員(2011.10~2016.4)
1966年シンガポール生まれ。90年慶應義塾大学経済学部卒業。
日本鋼管株式会社勤務後、 93年より平成維新の会事務局スタッフとして勤務。
98年米国ハーバード大学ケネディ政治行政大学院(国際関係論・安全保障政策)にて修士号取得、
98-99年米国アメリカンエンタープライズ研究所アジア研究部勤務。1999年読売論壇新人賞優秀賞受賞。
2000年より米国外交問題評議会アジア安全保障部研究員、01年よりモントレー国際問題研究所研究員を経て
2004年から11年まで科学技術振興機構社会技術研究開発センター主任研究員。

目次


はじめに 新橋にいたエージェント

1 北のフロント企業を炙り出せ
パワーゲームの最前線へ
なぜ核とミサイルの開発を続けるのか
日本の事件を検証する
フロント企業ネットワーク
韓国国内にも拠点が、ほか

2 懲りない中国
テイラーメイドの移動式発射台
全否定する中国
加勢するロシア
ICBMを運ぶ「林業用トラック」、ほか

3 台湾というブラックホール
台湾はアンタッチャブル
オーストリアの協力者
パスポート・ロンダリング
市販品で弾道ミサイルを、ほか

4 「抜け穴」は霞が関でつくられる
大井埠頭での大捕物
日本企業に北京から指示が
検査方法の盲点
「縦割り」「丸投げ」が生む抜け穴、ほか

5 化学兵器はシリアを目指す
武器密輸企業「朝鮮鉱業開発」の影
フロント企業を使い分け
シリアの惨劇の共犯者
暗躍する外国人エージェントたち、ほか

6 中東・アフリカを席巻する「旧式兵器」
北朝鮮兵器が重宝される理由
技術者もセットで“輸出"
兵器を売る、アフターケアも売る
軍事企業の社長は「将軍」、ほか

7 スカッド・ミサイルを解体せよ
偽装工作の気配
法治国家ゆえのハードル
悪夢の解体作業
隠蔽をはかる非常任理事国エジプト、ほか

8 盗まれるマザーマシン
核・ミサイル開発の必需品
制裁を嘲笑う「蓮河機械」
ロシア「謎の合弁企業」
制裁強化に備えた休眠会社、ほか

9 核とミサイル「最新技術」の情報源
弾道ミサイルのセット販売
狙われたウクライナ
アクセス自在の科学技術コミュニティ
基礎研究の名のもとに、ほか

10 食い荒らされるマレーシア
日本生まれの工作員
「真っ当な会社」の裏の顔
金正男暗殺事件が炙り出したもの
マレーシアの北朝鮮利権、ほか

11 制裁違反者は今日も世界を飛び回る
あらゆる会社がペーパーカンパニー
中国企業も食いものに
合法取引の衣をまとって
名指しされた制裁違反者たち、ほか

12 キューバ発「戦闘機密輸船」の黒幕
狙われた退役戦闘機
コンテナの中から戦闘機が
開き直るキューバ
主犯はウラジオストクにいた、ほか

13 三つの顔を持つ男
OMMネットワーク壊滅作戦
決断を迫られたメキシコ
疑惑の貨物船に乗り込む
三つの顔を持つ男、ほか

14 抜け穴だらけの制裁強化
境港沖に現れた「お尋ね者」
中ロが日本を断固支持する理由
「やらない理由」を探す日本
強がる中国の落とし穴、ほか

15 浮かび上がった日本人
「外国船偽装船団」を摘発せよ
シンガポールの不審な協力者
ネットワークの起点は日本
崩壊の痕跡、ほか

おわりに 見せかけの制裁の果てに

世界中に巣食う北朝鮮シンジケート一覧
弾道ミサイルリスト
国連組織図
北朝鮮の「核とミサイル」開発をめぐる主な出来事

参考図書

新版 北朝鮮入門

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独裁国家・北朝鮮の実像――核・ミサイル・金正恩体制

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北朝鮮はいま、何を考えているのか (NHK出版新書 537)

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関連サイト

古川勝久北朝鮮 核の資金源―「国連捜査」秘録―』 | 新潮社


https://www.shinchosha.co.jp/book/351411/
2017/12/22 - 国連安保理の最前線で捜査にあたった著者が直面したのは、世界中に巣食う犯罪ネットワーク、それを駆使しての数々の非合法ビジネス、そして組織の中核で暗躍する日本人の存在だった――北朝鮮の急所を抉り出すスクープノンフィクション ...
 

北朝鮮は決して孤立などしていない 古川勝久・インタビュー - ブックバン


https://www.bookbang.jp/review/article/544589 
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