読書案内

お薦めの本を紹介します

頭の中にある"人類最大の謎"に挑む

       つながる脳科学

   「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
 理化学研究所脳科学総合研究所センター編 講談社

 

 生命科学の中でも、脳科学はもっともホットな分野のひとつです。本書は、理化学研究所脳科学総合研究センターの利根川進センター長をはじめとする、メンバー9名による共著です。同センターは脳科学に関する学際的な研究の必要性の高まりを受けて1997年に設立され、本書は、センター設立20周年を機に、現在までの脳研究でどこまでのことが分かり、或いはまだ分かっていないことについて、「つながり」をキーワードに明らかにしたものです。

第1章は1987年にノーベル賞を受賞した利根川進センター長が担当。初期アルツハイマー病とシナプス後部にあるスパインという構造との関係を、マウスでの実験で明らかにした成果を説明しています。第2章は、動物のエピソード記憶に着目しながら、脳における時間と空間と経験と記憶の関係について迫っています。第3章は、ニューロン同士のコミュニケーションについて。シナプスの信号伝達が前部から後部だけでなく後部から前部に強度のコントロールをリクエストしていること、そして、グリア細胞の一種のアストロサイトがシナプス間の強度バランスを調整していることが述べられています。第4章では、ショウジョウバエの脳を使った実験から、匂いのような外界からの刺激を脳がどのように処理しているのかについての仮説について説明しています。

第5章は臨界期のより汎用的なモデルの追求及びヘブ則という仮説と恒常性の可塑性について考察してます。足し算のモデルだとうまくいかないが、掛け算のモデルだと2つのモデルに競合が働かずに上手くいくといいます。ディープラーニング研究と脳科学との関連性に基づいた話もあります。第6章は神経回路との関係について。特に、恐怖記憶と脳のメカニズムについて、マウスでの実験とそこから推測できることについて解説しています。工学分野の予測誤差に対応する信号が実際の脳においても生じているといいます。第7章は蛍光たんぱく質やオプトジェネティクスの脳科学での利用に関する研究を紹介してます。第8章では、ネプリライシンというタンパク質分解酵素やカルシウムシグナルなどの解説を行いながら、心の病の治療法についての研究を紹介しています。ミトコンドリアDNAが心の病のメカニズムとも関係あるというのは興味深いです。第9章では、親子の関係について、マウスを用いた脳科学の実験でからわかってきたことについて語られています。

脳は知能や本能や記憶や判断において不可欠な器官であり、まさに人間が人間として活動するにおいて中心的な役割を果たします。本書にも何か所かで触れられているように、現代では人工知能においても脳のモデルが応用されています。本書を読みながら、この分野はまだまだ発展途上であり、今後も次々いろいろな成果が発表されることになると思いました。

内容紹介


頭の中にある“人類最大の謎”に挑む

ものごとを考え、記憶し、日々の出来事に感情を揺さぶられる……
謎めいていた脳のはたらきが、明らかになりつつある。
グリア細胞ニューロン、進化と可塑性、場所細胞と空間記憶、情動と消去学習、海馬と扁桃体とエングラムセオリー――
頭の中には、さまざまな「つながり」があった!?
9つの最新研究から、心を生み出す脳に迫る!

著者等紹介

理化学研究所脳科学総合研究所センター

(りかがくけんきゅうしょ・のうかがくけんきゅうセンター)

1997年、理研和光地区に設置された脳科学研究機関。通称「BSI」(Brain Science Institute)。創立以来、国内外から研究者が結集し、世界をリードする脳研究の拠点となっている。工学、計算理論、心理学まで含めた学際的かつ融合的学問分野を背景に、研究対象は、脳内の分子構造と神経回路の解明、認知・記憶・学習のしくみの理解、脳回路の数学的理解、脳疾患の発症機序の解明等まで幅広くカバー。「心」を生み出す「脳」の解明を目指し、学際的かつ融合的な研究を推し進めている。

利根川(とねがわ・すすむ)

日本の生物学者マサチューセッツ工科大学教授、ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、理化学研究所脳科学総合研究センターセンター長、理研-MIT神経回路遺伝学研究センター長。京都大学名誉博士。 1987年、VJ遺伝子再構成による抗体生成の遺伝的原理の解明によりノーベル生理学・医学賞を受賞した。

目次

はじめに

本書で紹介する脳のつながり

第1章 記憶をつなげる脳 
理化学研究所脳科学総合研究センター センター長 利根川進
第2章 脳と時空間のつながり 
システム神経生理学研究チーム チームリーダー 藤澤茂義
第3章 ニューロンをつなぐ情報伝達
シナプス可塑性・回路制御研究チーム チームリーダー 合田裕紀子
第4章 外界とつながる脳
知覚神経回路機構研究チーム チームリーダー 風間北斗
第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み
神経適応理論研究チーム チームリーダー 豊泉太郎
第6章 脳と感情をつなげる神経回路
記憶神経回路研究チーム チームリーダー Joshua Johansen
第7章 脳研究をつなげる最新技術
細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー 宮脇敦史
第8章 脳の病の治療につなげる
精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤忠史
第9章 親子のつながりを作る脳
親和性社会行動研究チーム チームリーダー 黒田公美

おわりに

さくいん

参考図書

脳科学の教科書 こころ編 (岩波ジュニア新書)

脳科学の教科書 こころ編 (岩波ジュニア新書)

 

 

脳科学の教科書 神経編 (岩波ジュニア新書)

脳科学の教科書 神経編 (岩波ジュニア新書)

 

 

大人のための図鑑 脳と心のしくみ

大人のための図鑑 脳と心のしくみ

 

 

 関連サイト

つながる脳科学 | 一般のみなさま | 理化学研究所神経科学研究センター ...


https://cbs.riken.jp/jp/public/tsunagaru/ 
講談社ブルーバックスから2016年に出版された『つながる脳科学』。理研CBSの前身であるBSIの研究者9名が、それぞれが取り組む研究分野の最前線を分かりやすく解説します。全9章のなかから3章を連載でお届けします。 ブルーバックス公式サイトはこちら ...
 
 
2016/12/17 - 脳科学はあらゆる学問との繋がりが欠かせなくなっている。研究が進んだことで様々な脳の部位ごとの繋がり、その脳の各部位における細胞同士の繋がり、さらには脳の機能が私たちの行動や感情とどう繋がっているかなどが次第に明らかに ...
 
 

1. 国内外における脳科学研究の現状と問題点について:文部科学省


http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/attach/1236327.htm 
 › ... › 研究計画・評価分科会(第29回) 配付資料
 
また、脳科学研究は、ライフサイエンスにおける生命システムの統合的理解の鍵であり、「脳の10年(Decade of the Brain)」、「脳の世紀」等の標語のもとに一定の財政支援が行われてきた。こうした支援にも支えられ、「人間とは何か?」という哲学的な課題を ...
 
 
 

宮川剛教授×新井紀子教授対談とインタビュー - つながるコンテンツ ...


https://article.researchmap.jp/tsunagaru/2010/01/
researchmapの中でもなんと1100人を超えるメンバーが集まり、融合的な最先端研究を促進しているコミュ「包括脳ネットワーク」──この世話人で、遺伝子改変マウスによる脳科学研究で知られる──researchmapつながるコンテンツ - 藤田保健衛生大学 宮川 ...