人間をみつめて
本書は、著者が自然科学の知識に基づきながらも、独自の思想から宇宙のなかの存在としての人間にまで考えをめぐらすエッセイです。人間の脳について、人間の外と内にある自然について、使命感、生きがいについてなどの記述が興味深いです。
精神科医である著者は、精神病の人の心は普通の人の心の世界をつきつめたかたちであらわしているにすぎないと考えます。そして、病む人や苦しむ人と同じ高さで共に考えようとします。
この本は、神谷さんの「優しさ」がそのまま凝縮されたような本です。神谷さんの優しさは、つらい体験をした人に「頑張れ」などと言う残酷な優しさとは異なります。例えるならば、苦しんでいる人に饒舌に話しかけたり、励ましたりするのではなく、その人の手をじっと握ってくれる優しさです。
何回読み直してもそのたびに、生きてる神谷さんと話している気持ちになります。
内容紹介
ひとりの精神科医として、ハンセン病、心やめる人々に接してきた著者が、生の本質を問い直す、永遠の書。
ハンセン病療養所での治療体験から、人間の真実の姿、心とは何かを見つめ続けたひとりの精神科医の魂の記録。同名書のエッセンスを大きい活字で初めて新書の形でお届けする生誕100年記念企画。
著者紹介
神谷美恵子(かみや・みえこ)
1914年、岡山市生まれ。津田英学塾卒業後、コロンビア大学入学。44年、東京女子医専卒業後、東京大学医学部精神科、大阪大学医学部神経科を経て、57‐72年、長島愛生園勤務、ハンセン病患者の治療に尽くす。その後、神戸女学院大学、津田塾大学教授。79年逝去。
目次
第1章 いのちとこころ
いのちを支えるもの―外なる自然について
脳とこころ(1)―内なる自然について
脳とこころ(2)―新しい脳のもたらしたもの
人格について
知性について
こころのいのち
第2章 人間の生きかた
自発性と主体性について
反抗心について
欲望について―何がたいせつか
生存競争について
使命感について
第3章 人間をとりまくもの
科学と人間
病める心をみつめて―罪の問題
死について
自我というもの
人間を越えるもの
愛の自覚
参考図書