ヒトラーの秘密銀行
いかにしてスイスはナチ大虐殺から利益を得たのか
アダム・レポー [訳]鈴木 孝男 KKベストセラーズ
本書は、戦争資金に絡んだドキュメントです。スイスはヒットラーの金庫番となり資金の調達と占領地とホロコーストなどで奪った資産のマネーロンダリングも引き受けていたと言います。スイスはドイツ側と連合国側のスパイ合戦の場でもあったようです。
「スイスは、一週間のうちの六日間をナチス・ドイツのために働き、残りの一日を連合国の勝利のために祈りを捧げる」(3頁)と対戦中に言われていました。
ユダヤ人もこぞってスイスの銀行に預金をしていたけれど、アウシュビッツなどのホロコーストで殺された人々に死亡証明書がない事を理由に預金を凍結したままだと言わわれています。つまり利息とともに合法的にネコババを決め込んでいるのです。
ドキュメントとは言え、よくぞここまで調べたものだと感心致します。それでも、なお諸般の事情で、話を濁されている部分が沢山あるようにおもいます。戦後これだけの時間が経っても、明かせないほどいかがわしい事実が隠されているのでしょう。
スイスの銀行、とりわけスイス国立銀行は、ナチスが占領国の国庫から没収した金塊のみならず、殺害されたユダヤ人たちから奪った金塊をも受け入れていました。その方法は、即金で買い上げるか、または、ナチスに代わって資金洗浄(マネーロンダリング)を行った後、他の中立国に送るかのいずれかだったことが、秘密扱いを解かれた機密文書から判明しています。
スイスの銀行は、第三帝国に軍需物資の購入資金を外貨で提供しました。また、ナチスの経済官僚が略奪品をスイスの「セーフヘイブン(安全な避難場所)」に送るためのパイプ役を果たしました。さらに、ナチスやスペインやポルトガルに設立したダミー会社に資金を提供することによって、その国外諜報活動の資金面での後ろ盾にもなっていました。
また国際決済銀行(通称BIS)では、ヨーロッパの戦場で互いに戦火を交えているナチスと連合軍が、なんと大戦期間中を通して手を握っていました。
「スイスの銀行によるナチス政権への財政的援助がなかったら、第二次大戦は数年早く終息していたであろう」との説には、かなりの説得力があります。
……確かに、他の中立諸国のなかにも、第三帝国と経済関係を維持し、援助の手を差し伸べた国はありました。スペイン、ポルトガルはタングステンの、トルコはクロムの、またスウェーデンは鋼鉄の供給者でした。
しかし、トルコはその後、ナチスとの外交関係を断ち、スウェーデンは四三年の秋、デンマークとともに、デンマークのユダヤ人数千を対象とした船舶による大規模な救出活動を展開し、全員を保護しています。
ナチスの戦争遂行能力の維持に、スイスほど大きな貢献を果たした中立国はないでした。ナチスの軍需物資調達資金は、いったいどこから来たのでしょうか。それはスイスの銀行です。マドリード、リスボン、アンカラ、ストックホルムに、ライヒスマルク(1924年~1945年のドイツ通貨)を受け取るものなどいませんでした。
また、リスボンやストックホルムに銀行はあっても、ポルトガルのエスクードやスウェーデンのクローナなどは、国際的に通用する貨幣ではありませんでした。ですので、ナチスの取引相手は強いスイスフランを求めたのであり、それを提供したのがスイスの銀行だったのです。
内容紹介
スイスの銀行の金庫室には、ナチス親衛隊最高指揮官・ヒムラーが毒を仰いでから50年余が経過した今もなお、ホロコーストからの利益が転がり込んでいる…。50年余り経って暴かれた新事実を検証するノンフィクション。
本書は、スイスが大戦中にとった行動とその周囲に存在した当時の状況を白日の下にさらし、その素顔の一端を垣間見せる。内容は、国家レベルの皮相的な分析にとどまらず、観察の視点を、当時を生き抜いたひとりひとりの人間にまで降ろしていく。一方的にスイスを非難するだけではなく、スイス国境警察部長による、政府の指示に背いてまでの人道的措置や、スイス人によるユダヤ人難民に対する救援活動といった事実も見落としてはいない。
スイス銀行
1998年のスイスユニオンバンクとの合併までの名称であるスイス銀行、現UBSを指すか、またはスイス金融市場監査局が管轄しスイス銀行法に基づいて運営されているスイスを拠点とした銀行の総称、もしくは通称である。
著者等紹介
アダム・レボー(Adam LeBor)
イギリス生まれのジャーナリスト。ハンガリーの首都ブタペストを拠点に活動する。フィナンシャル・タイムズ紙、エコノミスト誌、タイム誌、モノクル誌、その他多くの媒体に寄稿。これまでに7冊のノンフィクションの著書を発表。『Hitler's Secret Bankers』(邦訳『ヒトラーの秘密銀行』)はスイスのナチス協力に関する草分け的な書であり、『The Believers:How America Fell for Bernard Madoff's $65 Billion Investment Scam』(邦訳『バーナード・マドフ事件』)では史上最大級の金融詐欺事件の全容を解明するなど、経済マスコミ・金融史学界が尻込みするテーマを果敢に追及している。
鈴木 孝男(すずき・たかお)
カリフォルニア州立ロングビーチ校卒。翻訳家。訳書に「癒すための覚醒法」(青弓社)、「21ビジネスはこうなる」(シュプリンガー・フェアラ―ク東京)など。
目次
プロローグ
ナチスの戦争遂行能力の維持に、スイスほど大きな貢献を果たした中立国はない
1章 裏切られた信頼
2章 大陸の略奪
3章 大量殺戮の台所
4章 カネこそがすべて
5章 誰のための「安全な場所」なのか
6章 ナチス企業の偽装工作
7章 ボートは満員
8章 スパイたちの巣
9章 悪魔との取引
10章 過去の清算
註
訳書あとがき
参考図書