「昭和天皇実録」を読む
原 武史 岩波新書
本書は、2014年10月から2015年1月にかけて4回にわたり、岩波書店で「『昭和天皇実録』を読む」と題して行った講義をもとにしてます。また、『昭和天皇実録』の目的は、「一人の天皇の事績を顕彰し、後世に伝えることを目的と」されています(4頁)。
本書では、等身大の昭和天皇「裕仁」の実像を知ることができます。特に、宗教と母親の皇太后(貞明皇后)に興味を持ちました。宗教との関連について、冒頭で真言宗の僧侶やキリスト教徒である野口幽香などに触れられ(15頁)、昭和天皇への仏教やキリスト教の影響が示唆されています。特に1945-52年の占領期においてはキリスト教との接近が示されています。
戦前・戦中期においてこれほどまで母親の皇太后(貞明皇后 )に影響されたことを、初めて知りました。貞明皇后との関係は、昭和天皇(当時は摂政)の後宮廃止案や、貞明皇后による神功皇后への接近や、貞明皇后の影響が強い女官 今城誼子の罷免など、肉親でありつつ政治的影響力もあり得る貞明皇后(秩父宮との関係や祭祀の重視など)と昭和天皇との距離は、まだ、あまり知られていない日本近代政治史の流れがあるように思えました。
また、皇太后は、政治に関与していたことが、天皇裕仁に戦争終結を決断させることを逡巡させたことを本書で知ることができました。 そして、一撃論で降伏を無意味に延ばしただけでなく、全く見込みがなくなった終戦間近にも、対米英に対する徹底抗戦を主張していた皇太后に促され、宇佐と香椎宮に敵国撃破の勅使を派遣したことを昭和天皇は悔やみ、特に香椎宮は勅使派遣後一週間で距離的に近い長崎に原爆を投下されたことから、神道を捨てることでカトリックに帰依することで深い反省を示すことも検討した、とまで原さんは書いています。
内容紹介
昭和天皇の生誕から死去までを年代順に記述した「昭和天皇実録」。その細部を丁寧に読みこむと、これまで見えてこなかった「お濠の内側」における天皇の生活様態が明らかになってくる。祭祀への姿勢、母との確執、戦争責任と退位問題、キリスト教への接近……天皇と「神」との関係に注目し昭和史・昭和天皇像を刷新する。
『昭和天皇実録』とは、宮内庁において平成2年より24年の歳月をかけ編修され、平成26年8月、本文60巻が天皇皇后両陛下に奉呈されました。 明治34年の御誕生から昭和64年の崩御に至るまでの89年間、「激動の時代」を生きた天皇の御事蹟、そしてそれにまつわる日本の政治、社会、文化などを余すところなく記述。 そこにはこれまで知られていなかった昭和天皇の生きた御姿とその時代が、生き生きと記されています。
著者紹介
原 武史(はら・たけし)
1962年、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社、東京社会部記者として昭和天皇の最晩年を取材。東京大学大学院博士課程中退。東京大学社会科学研究所助手、山梨学院大学助教授を経て、明治学院大学国際学部教授。専攻は日本政治思想史。著書に『「民都」大阪対「帝都」東京』(講談社選書メチエ、サントリー学芸賞受賞)、『大正天皇』(朝日文庫、毎日出版文化賞を受賞)、『昭和天皇』(岩波新書、司馬遼太郎賞受賞)、『滝山コミューン1974』(講談社文庫、講談社ノンフィクション賞受賞)ほか。
目次
序論 「神」と「人間」の間
―何がよみとれるのか
第1講 幼少期の家庭環境
―明治時代
第2講 「和風」と「洋風」のはざまで
―大正時代
第3講 実母との確執
―昭和戦前・戦中期
第4講 退位か改宗か
―占領期
第5講 象徴天皇制の定着
―独立回復期
あとがき
宮城図
表 太平洋戦争期における天皇の映画鑑賞一覧
参考図書
関連サイト
晩年を取材した記者が「実録」から読み解く新たな昭和天皇像|NEWS ...
https://www.news-postseven.com/archives/20151028_358670.html