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お薦めの本を紹介します

脳には妙なクセがある

脳には妙なクセがある

       池谷 祐二  扶桑社

脳には妙なクセがある

脳には妙なクセがある

 

 

 本書は、 脳にまつわるエピソードがとにかく満載で、さらに著者の語り口調が軽妙なため分かりやすく、読み進めるのが楽しいです。とにかくこれだけのお話しが、コンパクトに集約されているだけで価値があるかと思います。
 本書に含まれる内容は、いわゆる大脳生理学のような脳専門のお話しだけではなく、心理学や哲学、日常生活と幅広くリンクしたものが多いので、なるほどと思わず唸ってしまい、これからの生活に活かせるものも豊富にあります。
また、巻頭に簡単な脳のマップがついておりますが、これがまた単純明快でわかりやすく、本書を読み進めるときの手助けになります。

著者の人生における姿勢は、「楽しく、ごきげんに生きるために」というものですが、これだけの小ネタを活かせれば、たしかに毎日がごきげんになりそうです。そして、著者の執筆姿勢は真面目で真摯です。

 難点をあげれば、本書が扱っている「脳」という分野はまだまだ未知なところが多く、これからもたくさんの治験が見出されるものです。なので、著者も本書の中で、「新たな進展が発表されることを期待します」という主旨の発言が多いです。

 内容紹介

コミュニケーション最強の武器となる笑顔は、“楽しい”を表すのではなく、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果。脳は身体行動に感情を後づけしているのだ。姿勢を正せば自信が持てるのもその一例。背筋を伸ばして書いた内容のほうが、背中を丸めて書いたものよりも確信度が高いという――。とても人間的な脳の本性の「クセ」を理解し、快適に生きるため、気鋭の脳研究者が解説する最新知見。

脳科学の視点から「よりよく生きるとは何か」を考える一冊!

著者紹介

池谷 裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年 静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。東京大学薬学部教授。2002~2005年にコロンビア大学に留学をはさみ、2014年より現職。専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している。また、2018年よりAIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本学術振興会賞日本学士院学術奨励賞などを受賞。 また、老若男女を問わず、これまで脳に関心のなかった一般の人に向けてわかりやすく解説し、脳の最先端の知見を社会に有意義に還元することにも尽力している。主な著書は、『海馬』(糸井重里氏との共著 朝日出版社新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(朝日出版社講談社ブルーバックス)、『ゆらぐ脳』(木村俊介氏との共著 文藝春秋)、『脳はなにかと言い訳する』(祥伝社新潮文庫)、『のうだま』『のうだま2』(上大岡トメ氏との共著 幻冬舎)、『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社新書新潮文庫)『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)、『脳はみんな病んでいる』(中村うさぎ氏との共著 新潮社)など。

目次

はじめに
(1)脳は妙にIQに左右される
脳が大きい人は頭がいい⁉
脳は大きければ大きいほど知的か?/IQが120を超える図抜けた脳のヒミツ/運動が得意な生徒ほど、勉強の成績もよい?/脳の衰えを錯覚する理由
(2)脳は妙に自分が好き
他人の不幸は蜜の味
不安の脳回路が活性化するとき/他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳/脳は自分を「できる奴」だと思い込んでいる/クセになる快感を生む場所/弱気な社長はあまりいない/「プライド」と「pride」の違い/「誇り」と「喜び」とは別の感情である
(3)脳は妙に信用する
脳はどのように「信頼度」を判定するのか?
幸せな気分に浸っているときこそ要注意/脳はどのように信頼度を判定するか/「ざまを見ろ」に至るプロセス/整理整頓の極意は「使えるものは捨てる」/「もったいない」はどこから生まれてくるか/「痛そうな写真」を見るとどうなるか
(4)脳は妙に運まかせ
「今日はツイテる!」は思い込みではなかった!
人差し指が短い人は株で儲ける⁉/巨万の富を稼ぐトレーダーには男性ホルモンの影響が/運勢はいつ決まるのか/決断能力を調べる「最後通牒ゲーム」/社会通念や思い込みといった信念も「真実」を生み出す/脳科学の発見は哲学を超えるか?/新たな技術革新を恐れない
(5)脳は妙に知ったかぶる
「○○しておけばよかった」という「後知恵バイアス」とは?
それほど「やっぱり」ではない/避けようにも避けられない「後知恵バイアス」の不思議/所持効果という奇妙な現象/損するとわかっていても宝くじを買ってしまう/動揺するとどうなるか
(6)脳は妙にブランドにこだわる
オーラ、ムード、カリスマ……見えざる力に動いてしまう理由
有機栽培というブランド/音楽評論家たちを困惑させたリパッティ事件/脳はブランドに反応する⁉/苦労して稼いだ10万円、宝くじで当たった10万円
(7)脳は妙に自己満足する
「行きつけの店」しか通わない理由
脳は感情を変更して解決する/サルにも自己矛盾を回避する心理がある/レタスか新キャベツ、どちらを買うか/思いきって冒険脳を開放しよう/用意されていた絶対価値を推量する回路
(8)脳は妙に恋し愛する
「愛の力」で脳の反応もモチベーションも上がる⁉
意中の人の左側に座る「シュードネグレクト」効果/鳥にも左側重視の傾向がある/恋をすると脳の処理能力が上がる⁉/母親の経験は子どもに遺伝する⁉/よい環境に恵まれた生活がなぜ大切か
(9)脳は妙にゲームにはまる
ヒトはとりわけ「映像的説明」に弱い生き物である
脳トレは本当に有効か?/ワーキングメモリを向上させるトレーニング/脳研究と心理学、哲学にあった溝を狭めたMRI/いかにも本当らしい説明を信じる/プレゼンの決め手!
(10)脳は妙に人目を気にする
なぜか自己犠牲的な行動を取るようにプログラムされている
人前でオナラをしないのはなぜか?/協調性のあるサカナ/なぜ私たちは人の物を盗まないのか?/自己犠牲の清き(?)精神/協力か逃亡か――「ジレンマゲーム」/罰はなぜ存在するのか/「泣いて馬謖を斬る 」という二律背反の葛藤/無根拠に歪んだ、人間らしさ
(11)脳は妙に笑顔を作る
「まずは形から」で幸福になれる⁉
コミュニケーションの最強の武器とは/笑顔を作るから楽しいという逆因果/ボトックスの意外な効果/ヒトはなぜ笑うのか/姿勢を正せば自信が持てる⁉/日本語は気合いで、英語は身体で元気を出す/甘い記憶、苦い思い出/ダーウィンが指摘した表情の先天性
(12)脳は妙にフェロモンにかれる
汗で「不安」も「性的メッセージ」も伝わる⁉
汗を介して不安が他人に伝わる⁉/セクシー・フェロモンは実在するか?/性的妄想は女性にバレている⁉/香りの刺激は直接脳に届く/コーヒー豆の香りを嗅ぐと、どうなるか/1000年以上にわたるコーヒーの芳香の秘密
(13)脳は妙に勉強法にこだわる
「入力」よりも「出力」を重視!
もっとも効果的な勉強法とは?/記憶力向上効果のある「カロリス」とは?/ビル・ゲイツが惚れ込んだ「センスキャム」
(14)脳は妙に赤色に魅了される
相手をひるませ、優位に立つセコい色?
アイスコーヒーよりホットコーヒーに親近感/スポーツの成績は赤色で勝率が高まる⁉/パソコンのモニター枠を赤色にすると仕事の能率が低下する/「勉強部屋に赤色系のカーテンは厳禁」の信憑性
(15)脳は妙に聞き分けがよい
音楽と空間能力の意外な関係
「RとL」、発音下手の理由/新生児は母国語と外国語を聞き分けている/怖いくらい通じるカタカナ英語のすすめ/音痴の人は空間処理能力が低い⁉/オーケストラ楽団員たちの空間能力
(16)脳は妙に幸せになる
歳をとると、より幸せを感じるようになる!
幸福感は年齢とともにどう変化するか?/年齢とともに変化するネガティブバイアス/悪しき感情が減っていく
(17)脳は妙に酒が好き
「嗜好癖」は本人のあずかり知らぬところで形成されている
ウィスキーは二日酔いがひどい⁉/アルコール摂取時の脳内メカニズム/なぜ酒を飲んだとき「でっかくなった気分」になるのか?/アル中の親からアル中の子が生まれる/「ただなんとなく」……の裏側
(18)脳は妙に食にこだわる
脳によい食べ物は何か?
ビタミン剤を飲むと犯罪が減る⁉/胃腸の具合が脳の状態とリンクしている⁉/健全な精神は健康な胃腸に宿る/脳のパフォーマンスを向上させる「ドコサヘキサエン酸(DHA)」/脳によい・わるい、12の栄養素、最新リスト
(19)脳は妙に議論好き
「気合い」や「根性」は古くさい大和魂
問題解決には議論し合うほうがよい?/効果的なリーダーシップとは/本番で実力を発揮するには?/脳科学にみる「気合い」「根性」の有用性
(20)脳は妙におしゃべり
「メタファー(喩え表現)」が会話の主導権を変える
ヒトはネアンデルタール人と交配してきた⁉/血統書付き現代人/人種差別はなぜ、なくならないのか/「奇跡の遺伝子」が生み出したものとは/言語に秘められた二つの役割/「目覚まし時計は拷問だ」というレトリック/メタファー(喩え表現)を利用する/ジョークを楽しんでいるときの脳
(21)脳は妙に直感する
脳はなぜか「数値」を直感するのが苦手
無意識の自分はなかなかできる奴である/「ひらめき」と「直感」の違いとは?/論理的思考と推論的思考/「直感がアテにならない」というレアケース/ヒトの脳の弱味とは
(22)脳は妙に不自由が心地よい
ヒトは自分のことを自分では決して知りえない
80%以上はおきまりの習慣に従っている/自由意志は脳から生まれない/自分の力で決定したつもり/無意識の自分こそが真の姿である/“脳の正しい反射”をもたらすものとは/そもそも脳にとって自由とは何か/意識に現れる「自由な心」はよくできた幻覚/どの脳部位が何を担当しているかを示す脳地図/「自己認識された自分」と「他者から見た自分」
(23)脳は妙に眠たがる
「睡眠の成績」も肝心!
睡眠時間が短いことは自慢にならない/短眠タイプの遺伝子/怠惰思考のすすめ/就寝前は記憶のゴールデンアワー/「地道な努力型」か「要領よく一夜漬け型」か?/睡眠中は記憶の整理と定着が交互に行われている/バラの香りで記憶力がアップ⁉
(24)脳は妙にオカルトする
幽体離脱と「俯瞰力」の摩訶不思議な関係
生命倫理を揺るがす人造生物の誕生/「神」の脳回路を刺激したら何が起こるか?/神を科学で解剖することは冒涜か?/催眠術にかかりやすい人、まったくかからない人/催眠は、いわば人工認知症/「自分」という存在とは?/幽体離脱の脳回路とは?
(25)脳は妙に瞑想めいそうする
「夢が叶った」のはどうしてか?
瞑想と脳の親密な関係/集中することはよいことか?/「20分の瞑想を5日間」でどう変化するか/体の動きと「未来イメージ」との妙な関係/「老ける」とは夢を持てなくなること?
(26)脳は妙に使い回す
やり始めるとやる気が出る
「身体が痛むとき」と「心が痛むとき」/ヒトの思考はどこから派生しているか/「心」は脳回路における身体性の省略/すでにあるシステムをリサイクルする脳/脳は何のために存在するのか?/脳に言語が生まれたのは、いつ?/心はどこにあるのか/ヒトの心がどれほど身体や環境に支配されているか/何事も始めたら半分は終了⁉/身体運動を伴うとニューロンが10倍強く活動する
 
おわりに
参考文献一覧
索引一覧

参考図書

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?

脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?

 

 

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

 

 

生きているのはなぜだろう。 (ほぼにちの絵本)

生きているのはなぜだろう。 (ほぼにちの絵本)

 

 

 関連サイト

野生動物医学にも脳科学の視点を! ――池谷裕二『脳には妙なクセがある ...


https://www.bookbang.jp/review/article/547349 
2018/02/06 - 私は獣医師である。毎日、動物の命と向き合って暮らしているが、診療の対象にしているのは、犬や猫でも、牛や馬でもない。ワシやフクロウなどの猛禽(もうきん)類、しかも野生だ。様々な原因で傷ついた絶滅の危機に瀕する猛禽類を治療し、 ...
 

 

『脳には妙なクセがある』をきっかけにサイエンス本の世界にどっぷり浸かる ...


https://honz.jp/articles/-/13518 
2012/08/12 - 記憶力を強くする』、『進化しすぎた脳』などのヒット作で知られる脳研究者の著者による、脳科学の最新知見がこれでもかと盛り込まれたエッセイ集である。349Pの本書の巻末に参考文献として挙げられている論文の数は207にも上り、著者 ...
 
 
 
2017/05/22 - 池谷裕二脳科学者)×出口治明ライフネット生命会長)[第4回] ... 重里氏との共著)『進化しすぎた脳』『脳はなにかと言い訳する』『のうだま』『のうだま2』(ともに上大岡トメ氏との共著)『単純な脳、複雑な「私」』『脳には妙なクセがある』など。