本書は、 脳にまつわるエピソードがとにかく満載で、さらに著者の語り口調が軽妙なため分かりやすく、読み進めるのが楽しいです。とにかくこれだけのお話しが、コンパクトに集約されているだけで価値があるかと思います。
本書に含まれる内容は、いわゆる大脳生理学のような脳専門のお話しだけではなく、心理学や哲学、日常生活と幅広くリンクしたものが多いので、なるほどと思わず唸ってしまい、これからの生活に活かせるものも豊富にあります。
また、巻頭に簡単な脳のマップがついておりますが、これがまた単純明快でわかりやすく、本書を読み進めるときの手助けになります。
著者の人生における姿勢は、「楽しく、ごきげんに生きるために」というものですが、これだけの小ネタを活かせれば、たしかに毎日がごきげんになりそうです。そして、著者の執筆姿勢は真面目で真摯です。
難点をあげれば、本書が扱っている「脳」という分野はまだまだ未知なところが多く、これからもたくさんの治験が見出されるものです。なので、著者も本書の中で、「新たな進展が発表されることを期待します」という主旨の発言が多いです。
コミュニケーション最強の武器となる笑顔は、“楽しい”を表すのではなく、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果。脳は身体行動に感情を後づけしているのだ。姿勢を正せば自信が持てるのもその一例。背筋を伸ばして書いた内容のほうが、背中を丸めて書いたものよりも確信度が高いという――。とても人間的な脳の本性の「クセ」を理解し、快適に生きるため、気鋭の脳研究者が解説する最新知見。
はじめに
(1)脳は妙にIQに左右される
脳が大きい人は頭がいい⁉
脳は大きければ大きいほど知的か?/IQが120を超える図抜けた脳のヒミツ/運動が得意な生徒ほど、勉強の成績もよい?/脳の衰えを錯覚する理由
(2)脳は妙に自分が好き
他人の不幸は蜜の味
不安の脳回路が活性化するとき/他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳/脳は自分を「できる奴」だと思い込んでいる/クセになる快感を生む場所/弱気な社長はあまりいない/「プライド」と「pride」の違い/「誇り」と「喜び」とは別の感情である
(3)脳は妙に信用する
脳はどのように「信頼度」を判定するのか?
幸せな気分に浸っているときこそ要注意/脳はどのように信頼度を判定するか/「ざまを見ろ」に至るプロセス/整理整頓の極意は「使えるものは捨てる」/「もったいない」はどこから生まれてくるか/「痛そうな写真」を見るとどうなるか
(4)脳は妙に運まかせ
「今日はツイテる!」は思い込みではなかった!
人差し指が短い人は株で儲ける⁉/巨万の富を稼ぐトレーダーには男性ホルモンの影響が/運勢はいつ決まるのか/決断能力を調べる「
最後通牒ゲーム」/社会通念や思い込みといった信念も「真実」を生み出す/
脳科学の発見は哲学を超えるか?/新たな技術革新を恐れない
(5)脳は妙に知ったかぶる
「○○しておけばよかった」という「後知恵バイアス」とは?
それほど「やっぱり」ではない/避けようにも避けられない「後知恵バイアス」の不思議/所持効果という奇妙な現象/損するとわかっていても宝くじを買ってしまう/動揺するとどうなるか
(6)脳は妙にブランドにこだわる
オーラ、ムード、カリスマ……見えざる力に動いてしまう理由
有機栽培というブランド/音楽評論家たちを困惑させた
リパッティ事件/脳はブランドに反応する⁉/苦労して稼いだ10万円、宝くじで当たった10万円
(7)脳は妙に自己満足する
「行きつけの店」しか通わない理由
脳は感情を変更して解決する/サルにも自己矛盾を回避する心理がある/レタスか新キャベツ、どちらを買うか/思いきって冒険脳を開放しよう/用意されていた絶対価値を推量する回路
(8)脳は妙に恋し愛する
「愛の力」で脳の反応もモチベーションも上がる⁉
意中の人の左側に座る「シュードネグレクト」効果/鳥にも左側重視の傾向がある/恋をすると脳の処理能力が上がる⁉/母親の経験は子どもに遺伝する⁉/よい環境に恵まれた生活がなぜ大切か
(9)脳は妙にゲームにはまる
ヒトはとりわけ「映像的説明」に弱い生き物である
脳トレは本当に有効か?/ワーキングメモリを向上させるト
レーニング/脳研究と心理学、哲学にあった溝を狭めた
MRI/いかにも本当らしい説明を信じる/プレゼンの決め手!
(10)脳は妙に人目を気にする
なぜか自己犠牲的な行動を取るようにプログラムされている
人前でオナラをしないのはなぜか?/協調性のあるサカナ/なぜ私たちは人の物を盗まないのか?/自己犠牲の清き(?)精神/協力か逃亡か――「ジレンマゲーム」/罰はなぜ存在するのか/「
泣いて馬謖を斬る 」という二律背反の葛藤/無根拠に歪んだ、人間らしさ
(11)脳は妙に笑顔を作る
「まずは形から」で幸福になれる⁉
コミュニケーションの最強の武器とは/笑顔を作るから楽しいという逆因果/ボトックスの意外な効果/ヒトはなぜ笑うのか/姿勢を正せば自信が持てる⁉/日本語は気合いで、英語は身体で元気を出す/甘い記憶、苦い思い出/
ダーウィンが指摘した表情の先天性
(12)脳は妙にフェロモンに惹かれる
汗で「不安」も「性的メッセージ」も伝わる⁉
汗を介して不安が他人に伝わる⁉/セクシー・フェロモンは実在するか?/性的妄想は女性にバレている⁉/香りの刺激は直接脳に届く/コーヒー豆の香りを嗅ぐと、どうなるか/1000年以上にわたるコーヒーの芳香の秘密
(13)脳は妙に勉強法にこだわる
「入力」よりも「出力」を重視!
もっとも効果的な勉強法とは?/記憶力向上効果のある「カロリス」とは?/
ビル・ゲイツが惚れ込んだ「センスキャム」
(14)脳は妙に赤色に魅了される
相手をひるませ、優位に立つセコい色?
アイスコーヒーよりホットコーヒーに親近感/スポーツの成績は赤色で勝率が高まる⁉/パソコンのモニター枠を赤色にすると仕事の能率が低下する/「勉強部屋に赤色系のカーテンは厳禁」の信憑性
(15)脳は妙に聞き分けがよい
音楽と空間能力の意外な関係
「RとL」、発音下手の理由/新生児は母国語と外国語を聞き分けている/怖いくらい通じるカタカナ英語のすすめ/音痴の人は空間処理能力が低い⁉/オーケストラ楽団員たちの空間能力
(16)脳は妙に幸せになる
歳をとると、より幸せを感じるようになる!
幸福感は年齢とともにどう変化するか?/年齢とともに変化するネガティブバイアス/悪しき感情が減っていく
(17)脳は妙に酒が好き
「嗜好癖」は本人のあずかり知らぬところで形成されている
ウィスキーは二日酔いがひどい⁉/アルコール摂取時の脳内メ
カニズム/なぜ酒を飲んだとき「でっかくなった気分」になるのか?/アル中の親からアル中の子が生まれる/「ただなんとなく」……の裏側
(18)脳は妙に食にこだわる
脳によい食べ物は何か?
ビタミン剤を飲むと犯罪が減る⁉/胃腸の具合が脳の状態とリンクしている⁉/健全な精神は健康な胃腸に宿る/脳のパフォーマンスを向上させる「ドコサヘキサエン酸(
DHA)」/脳によい・わるい、12の栄養素、最新リスト
(19)脳は妙に議論好き
問題解決には議論し合うほうがよい?/効果的なリーダーシップとは/本番で実力を発揮するには?/
脳科学にみる「気合い」「根性」の有用性
(20)脳は妙におしゃべり
「メタファー(喩え表現)」が会話の主導権を変える
ヒトは
ネアンデルタール人と交配してきた⁉/血統書付き現代人/人種差別はなぜ、なくならないのか/「奇跡の遺伝子」が生み出したものとは/言語に秘められた二つの役割/「目覚まし時計は拷問だ」というレトリック/メタファー(喩え表現)を利用する/ジョークを楽しんでいるときの脳
(21)脳は妙に直感する
脳はなぜか「数値」を直感するのが苦手
無意識の自分はなかなかできる奴である/「ひらめき」と「直感」の違いとは?/論理的思考と推論的思考/「直感がアテにならない」というレアケース/ヒトの脳の弱味とは
(22)脳は妙に不自由が心地よい
ヒトは自分のことを自分では決して知りえない
80%以上はおきまりの習慣に従っている/自由意志は脳から生まれない/自分の力で決定したつもり/無意識の自分こそが真の姿である/“脳の正しい反射”をもたらすものとは/そもそも脳にとって自由とは何か/意識に現れる「自由な心」はよくできた幻覚/どの脳部位が何を担当しているかを示す脳地図/「自己認識された自分」と「他者から見た自分」
(23)脳は妙に眠たがる
「睡眠の成績」も肝心!
睡眠時間が短いことは自慢にならない/短眠タイプの遺伝子/怠惰思考のすすめ/就寝前は記憶の
ゴールデンアワー/「地道な努力型」か「要領よく一夜漬け型」か?/睡眠中は記憶の整理と定着が交互に行われている/バラの香りで記憶力がアップ⁉
(24)脳は妙にオカルトする
生命倫理を揺るがす人造生物の誕生/「神」の脳回路を刺激したら何が起こるか?/神を科学で解剖することは冒涜か?/催眠術にかかりやすい人、まったくかからない人/催眠は、いわば人工
認知症/「自分」という存在とは?/
幽体離脱の脳回路とは?
(25)脳は妙に瞑想する
「夢が叶った」のはどうしてか?
瞑想と脳の親密な関係/集中することはよいことか?/「20分の瞑想を5日間」でどう変化するか/体の動きと「未来イメージ」との妙な関係/「老ける」とは夢を持てなくなること?
(26)脳は妙に使い回す
やり始めるとやる気が出る
「身体が痛むとき」と「心が痛むとき」/ヒトの思考はどこから派生しているか/「心」は脳回路における身体性の省略/すでにあるシステムをリサイクルする脳/脳は何のために存在するのか?/脳に言語が生まれたのは、いつ?/心はどこにあるのか/ヒトの心がどれほど身体や環境に支配されているか/何事も始めたら半分は終了⁉/身体運動を伴うと
ニューロンが10倍強く活動する
おわりに
参考文献一覧
索引一覧
参考図書
関連サイト
2018/02/06 - 私は獣医師である。毎日、動物の命と向き合って暮らしているが、診療の対象にしているのは、犬や猫でも、牛や馬でもない。ワシやフクロウなどの猛禽(もうきん)類、しかも野生だ。様々な原因で傷ついた絶滅の危機に瀕する猛禽類を治療し、 ...
2012/08/12 - 記憶力を強くする』、『進化しすぎた脳』などのヒット作で知られる脳研究者の著者による、脳科学の最新知見がこれでもかと盛り込まれたエッセイ集である。349Pの本書の巻末に参考文献として挙げられている論文の数は207にも上り、著者 ...
2017/05/22 - 池谷裕二(脳科学者)×出口治明(ライフネット生命会長)[第4回] ... 重里氏との共著)『進化しすぎた脳』『脳はなにかと言い訳する』『のうだま』『のうだま2』(ともに上大岡トメ氏との共著)『単純な脳、複雑な「私」』『脳には妙なクセがある』など。