日露戦争史1
半藤 一利 平凡社
司馬遼太郎『坂の上の雲』が、英雄の活躍する小説として痛快であるのに対し、本作品は事実を重要視します。本書を読み進めると開戦に至るまでの重苦しさ、開戦以来の薄氷を履むような勝利、事実の持つ迫力に圧倒されます。そして、昭和の大敗戦に至る萌芽は、日露戦争に既に現れていたという事です。
ポーツマスで講和条約が結ばれた後、日比谷焼き討ち事件が起きました。一般には、日本が戦争に勝ったのに賠償金を取れなかった為、民衆の不満が爆発したとされています。しかし、戦争に勝ったというのは建前で、本当のところは、日本には戦争を継続する為の資金も兵士も底をついていた。勝って講和したのではなく、持久戦でボロボロになる前に引き分けに持ち込んだという方が正しかったのです。しかし、当時の日本政府には、真実を明らかにする事をしませんでした。そして、政府の心配を嗤うかのように、建前が暴走します。
本書によると、日露戦争の遠因は1900年の北進事変にあります。北進事変の解決のために清国に出兵した列強10か国のうち、事変解決後他の国がすでに清国から引き揚げた後もロシアは清国内に勢力を拡大していた。
ロシアが清国・韓国に居座って我が国を脅かすようでは困る。日露は長い交渉を経たが、ロシア側はその帝国主義的拡大路線を変更することなく、その主張は益々エスカレート、満州全域と39度以北の朝鮮を自己の勢力範囲とすると言うことを日本に対する最期通牒としました。
ここに到って、日本は当時英国と結んでいた日英同盟を背景に対ロ外交断絶するに至りました。そして、朝鮮こそ清国やロシアの進出から守るべき日本にとっての最後の砦であったということです。日清戦争前は朝鮮は清国の属国であったし、日露戦争が、なかったならば、朝鮮はロシアの属国になっていたとおもう。
内容紹介
国はどのように戦争に至るのか?人はなぜ戦争を始めるのか?近代日本に決定的な転機をもたらした日露戦争を詳細に描く大作。日本はなぜロシアと戦ったのか? 近代史に決定的な影響をもたらした日露戦争を描くノンフィクション。
日本は本当に勝ったのか?
太平洋戦争の真の敗因は日露戦争の“勝利”にある。この戦争を境にして、日本はそれまでと違う国に、日本人は別の人間になってしまった―そう考える著者が、日露開戦の背景から“勝利”までのプロセスを詳細に描いた長編ノンフィクション。第一巻は日英同盟、ロシアの背信、そして奇襲攻撃へ、開戦直後までの政府・軍部の攻防と国民の熱狂。日本人はこの戦争を境にどう変わり、今に至るのか?
大ベストセラー『昭和史』の著者による、現代日本に決定的な転機をもたらした日露戦争を詳細に描く大作。第一巻は開戦直後までの政治部中枢と軍部の攻防、そして国民の熱狂。
著者紹介
半藤 一利(はんどう・かずとし)
1930年、東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、取締役などを経て作家。著書は『日本のいちばん長い日』『漱石先生ぞな、もし』(正続、新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)など多数。『昭和史 1926‐1945』『昭和史 戦後篇 1945‐1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。2015年、菊池寛賞を受賞。
目次
プロローグ 明治三十七年二月四日
第1章 日英同盟が結ばれた日
第2章 不可解!ロシアの背信
第3章 世論沸騰「断乎撃つべし」
第4章 対露作戦計画成れり
第5章 いざ開戦、そして奇襲攻撃
第6章 旅順港外戦と鴨緑江突破戦
関連年表
第一巻のためのあとがき
参考図書
関連サイト
日露戦争史(1~3) 半藤一利著 太平洋戦争前史、巧みな話法で :日本経済 ...
https://www.nikkei.com/article/DGXDZO68354230V10C14A3MZC001/