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絶滅の人類史

      絶滅の人類史

なぜ「私たち」が生き延びたのか

     更科 功  NHK出版新書

絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)

 

 本書は、 人類はどのように分化し、どのように進化し、何故ホモ・サピエンスのみが生き残っているのか、これらをデータに基づいて解説しています。そして、700万年前チンパンジーの共通祖先と分かれてサヘラントロプス・チャデンシスから始まる木から降りた人類の歴史が一貫した流れの中で記されていて、人類史を把握するのにコンパクトな一冊です。

 序章の前(14ページ)の「主な人類」の繁栄期間を表記した年表は、本書を読み進めるうえで、たいへん参考になります。アウストロピテクス、ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)、ホモエレクトゥス(ジャワ原人や北京原人)、そしてホモサピエンス等の多くの登場人類の関係性をあらためて知ることができます。
 そして、全く聞いたこともなかった多くの人類が存在していたこと、それらの人類の誕生と絶滅の延長の中で我々が誕生したことを知ると、その壮大さに驚き、そしてこの貴重な命の有難さを感じることができると思います。

 本書の中では、「進化の過程では『優れたものが勝ち残る』のではなく『子供を多く残した方が生き残る』のである」という部分が一番印象的でした。それと共に人類は進化と共に脳の大きさが小さくなっているというのにも驚きました。
 一方、まだまだ人類の歴史は未知の世界であり、現在我々が認識する人類の歴史も推察の域を出ていない部分が多々あることも再認識できました。

内容紹介

ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を殺した?
初期人類の謎から他の人類との交雑まで。人類史研究の最前線をエキサイティングに描く!
700万年に及ぶ人類史は、ホモ・サピエンス以外のすべての人類にとって絶滅の歴史に他ならない。彼らは決して「優れていなかった」わけではない。むしろ「弱者」たる私たちが、彼らのいいとこ取りをしながら生き延びたのだ。常識を覆す人類史研究の最前線を、エキサイティングに描き出した一冊。

メディア掲載レビュー

人類の進化史が語る「私たち人間が存在するのは偶然なのか」

 この地球上で何十億年も続いた生物進化はその枝先の一端に人間という生物を生み出した。人間の由来と進化についてチャールズ・ダーウィンが思索をめぐらした一九世紀以来さまざまな学説や憶説が飛び交った。人間がこの世に存在するのは必然の結果なのか、それとも偶然の産物にすぎないのか――この大きな疑問は科学のみならず宗教・思想・政治の次元にまで広がっていった。 

 私たちは人間は他のすべての生きものたちとは本質的に異なる別格の存在だと考えがちだ。しかし、本書を読むと、現代人(ホモ・サピエンス)にいたる道程は偶然と危険に満ちていて、人類進化の途上で生まれては消えていった数々の近縁な「人間たち」がかつていたことを知る。もちろん人間の歴史をたどる上で科学的根拠は不可欠だ。本書は近年急速に蓄積されてきた祖先人類の化石資料の知見や化石DNAの新しいデータをふまえて、われわれ現代人がどのような進化史をたどってきたのかをわかりやすく解説している。

 今から七〇〇万年前、類人猿たちにより森林から草原へと追い立てられた最初期の人類は直立二足歩行を獲得した。見晴らしがよい草原で生きることになった祖先人類たちは、つねに肉食動物に襲われる危険に直面することになる。しかし、四〇〇万年前に出現したアウストラロピテクス属の人類は一夫一婦制を通じて子どもをたくさん産むことにより、外敵に襲われるリスクを回避しようとしたと著者は説明する。そして二四〇万年前には現代人に連なるホモ・ハビリスが出現する。集団的な社会生活と道具の使用による文化進化はホモ属の大脳をさらに発達させた。

 三〇万年前、ヨーロッパに出現したネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は、同じころアフリカに現れたホモ・サピエンスとは時代的に共存もした姉妹種である。身体的に屈強でより大きな大脳をもつネアンデルタール人が最終的にホモ・サピエンスによって絶滅に追いやられるまでの経緯は本書の中でもとりわけ興味深い物語だ。ひょっとしたら私たちホモ・サピエンスは今ここにいなかったのかもしれない。

 仮説としての物語はそれを支持する証拠があるかどうかでその可否が判定される。断片的に残されたさまざまなデータを紡ぐことにより錯綜した人類進化の歴史を編み上げるためには客観的な論証がたいせつであることを著者は随所で強調する。これからも、新しい知見が得られるたびに、人類進化の物語は書き換えられていくにちがいない。

評者:三中信宏

(週刊文春 2018年3月8日号掲載)

著者紹介

更科 功(さらしな・いさお)
1961年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)現東京大学総合研究博物館研究事業協力者。専門は分子古生物学で、主なテーマは「動物の骨格の進化」。著書に『化石の分子生物学』(講談社現代新書、 講談社科学出版賞受賞)、『爆発的進化論』(新潮新書)など。

目次

はじめに
序章 私たちは本当に特別な存在なのか
第1部 人類進化の謎に迫る
 第1章 欠点だらけの進化
 第2章 初期人類たちは何を語るか
 第3章 人類は平和な生物
 第4章 森林から追い出されてどう生き延びたか
 第5章 こうして人類は誕生した
第2部 絶滅していった人類たち
 第6章 食べられても産めばいい
 第7章 人類に起きた奇跡とは
 第8章 ホモ属は仕方なく世界に広がった
 第9章 なぜ脳は大きくなり続けたのか
第3部 ホモ・サピエンスはどこに行くのか
 第10章 ネアンデルタール人の繁栄
 第11章 ホモ・サピエンスの出現
 第12章 認知能力に差はあったのか
 第13章 ネアンデルタール人との別れ
 第14章 最近まで生きていた人類
終章 人類最後の1種
おわりに

 

 

参考図書

 

 

 

関連サイト

 
ホモ=サピエンス - 世界史の窓
更科功『絶滅の人類史なぜ私たち」は生き延びたか』2018 NHK出版新書 p.182-185>. 用語の注意. 種であることは、同種であれば交尾可能ということであり、そこからわかるように、現在地球上に存在するヒトはすべてホモ=サピエンスである。「人種」 ...