数学嫌いな人
のための数学
数学というと、中学・高校で習った数式を解く問題をまず思い浮かべると思います。それは数学のごく一部であり、本質は論理です。
本書では、数学の起源から始まり、論理的な数学の歴史をたどりながら、社会・経済の発展に数学がどれほど重要な役割を担って来たかを解説しています。そして、今後、資本主義を生き抜くためには、日本人は数学に少しでも強くならなければならないということを主張しています。
数学嫌いになる人の大半は、因数分解や微分積分などの数式を操作する作業に面白味を見出せなかった人だと思います。本来、そういった数式の操作は数学の本質ではなく、ある事象を論理的に証明するための手段または途中経過に過ぎないのです。
この本の筆者が意図するところは、論理的に答えを導くことそのものが数学の醍醐味であり、それが解って初めて経済が本当にわかるということを示したいのだと思います。数式の操作だけが数学ではないんだと。
残念ながら論理学自体も難しく感じられる学問だと思うので、この本を読んで直ちに数学が好きになるかというと、そうでもないかもしれないです。とはいえ、数学の違う側面を知ることで嫌いだった数学に興味を持つ人が現れるかもしれないのは間違いないです。
内容紹介
数学の本質は論理である! 数学の基本で経済学の神髄が分かる。
本書は、日本人が苦手とする論理と数学について、学問が確立した歴史的背景や意義を交えながら論じた知的読み物である。アリストテレスの形式論理学やガウスの大定理、背理法、帰納法、必要十分条件、対偶、ケインズの一般理論についての知識を得られるが、その過程で数式はほとんど出てこない。最初の数十ページを読んだだけなら、歴史の本と間違ってしまうほどだ。『痛快!憲法学』で披露した小室節はここでも健在のようである。
まずChapter1では、数学が登場した歴史的背景について述べられる。古代イスラエルの宗教と論理学の関係、古代ギリシャの3大難問、大航海時代の新航路発見の意義などを読み進めていくうちに、数学の意義や考え方について学ぶことができる。Chapter2では、東西の論理の違いについて、興味深い話が紹介されている。「なぜ、日韓関係はよくならないのか」の部分を読めば、国際理解に関しても論理が重要な意味を持つことがわかる。
Chapter3は、数学の論理によって育まれた資本主義の考え方が述べられる。資本主義の考え方に、いかに数学が根づいているかを実感できる部分だ。Chapter4は、本書の肝というべき部分で、背理法、帰納法、必要十分条件、対偶などの証明の技術について述べられている。統計調査の注意点や困ったときの発想法なども述べられている。
最後のChapter5では、まとめとしてマクロ経済学の理論が登場する。ケインズと古典派の経済理論、リカードの大発見などを数学的視点からわかりやすく説明しており、マクロ経済の教科書が理解できなかった人にも理解しやすい。
300ページ以上におよぶ本であるが、著者の軽快な語り口と興味深いトピックのおかげで、さらりと読むことができる。数学嫌いを直し、論理的思考を身につけるために、ぜひ読んでおきたい1冊だ。(土井英司)
著者紹介
小室 直樹(こむろ・なおき)
1932年東京生まれ。京都大学理学部数学科卒業。大阪大学大学院経済学研究科、東京大学大学院法学政治学研究科修了(東京大学法学博士)。この間、ミシガン大学、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学各大学院で研究生活をおくる。
目次
1 数学の論理の源泉―古代宗教から生まれた数学の論理
2 数学は何のために学ぶのか―論理とは神への論争の技術なり
3 数学と近代資本主義―数学の論理から資本主義は育った
4 証明の技術―背理法・帰納法・必要十分条件・対偶の徹底解明
5 数学と経済学―経済理論を貫く数学の論理
参考図書