知性とは何か
佐藤 優 祥伝社
著者は日本の政治が反知性主義化していることに危機意識を持っていると云う。佐藤氏が定義する反知性主義とは、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」です。そして、歴史修正主義やナショナリズム、更には国語力を始めとする学力の低下等、将来の日本にとって禍根を残しかねない問題に対して警鐘を鳴らし、知性を復権する為に必要な行動について著者なりの対応策を提示したのが本書です。
著者の危機意識は、日本人の知的基礎体力の弱体化であり、「売れる本」が優先される出版界の現状とも関係があるとします。また知性と言葉の関係についても触れられており、特にネットによる「話し言葉」が「書き言葉」を衰退させることによる知力への影響も懸念しています。
沖縄人が見たスコットランド独立運動という視点も興味深い。歴史の見方は複数あり、どちらの歴史観から事実を見るか、ということにより見え方が全く異なることも尤もな指摘です。沖縄に関しては、柄谷行人氏による柳田国夫氏の「沖縄観」の紹介もなされており、今後の沖縄の将来の選択肢を考える上で参考となります。
知性を維持向上するには、近年、教育において軽視されがちな基礎学力や教養を重視し、語学や言葉に対する感度を磨き、他人が蓄積してくれた知的資産である書籍から効率的に多くを学び、実証性、客観性を重視する習慣を身につけることで、正しく世界を視る、ということが著者の主張です。
内容紹介
ナショナリズム、歴史修正主義、国語力低下…日本を蝕む「反知性主義」。それに負けない強靱な「知性」を身につけるには?
いま、日本には「反知性主義」が蔓延している。反知性主義とは、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」だ。政治エリートに反知性主義者がいると、日本の国益を損なう恐れがあると、著者は主張する。
実際、その動きは安倍政権下で顕著だ。麻生副総理の「ナチスの手口に学べ」発言や、沖縄の基地問題を巡る対応などに、それは現われているといえるだろう。
本書では、この反知性主義が日本に与える影響を検証し、反知性主義者に対抗するための「知性」とは何かを考える。あわせて、本当の知性を私たちが身につけるための方法も紹介する。
著者紹介
佐藤優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア日本国大使館勤務等を経て、国際情報局分析第一課主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害罪で逮捕・起訴され、09年に執行猶予付有罪確定。13年6月に執行猶予期間満了。『国家の罠』(第59回毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(第5回新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『宗教改革の物語』など著作多数。
目次
はじめに
第1章 日本を席捲する「反知性主義」―安倍政権の漂流
第2章 歴史と反知性主義―ナショナリズムをどうとらえるか
第3章 反知性主義に対抗する「知性」とは?(1)言葉の重要性
第4章 反知性主義に対抗する「知性」とは?(2)反知性主義の存在論と現象論
第5章 どうすれば反知性主義を克服できるか?
第6章 知性を身につけるための実践的読書術
あとがき
参考図書
関連サイト
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