あなたに伝えたい
政治の話
三浦瑠璃 文春新書
本書は、著者の政治ブログ「山猫日記」の数年分を纏めたものや各誌に掲載された評論を軸に、加筆修正を施したものです。本書で的確にポイントを突いた議論は、納得出来る点が多いです。安倍政権の長期化についての著者の見解によると、積極的政策（選挙に影響しない）と消極的政策（選挙に影響する）の巧みな使い分けを指摘するが、その通りであると思いました。
特にアベノミクスによる金融政策については、確実にデフレ脱却と雇用の促進（失業率の減少）を実現したことは高く評価してます。
安倍政権の長期化の理由は、ロシアでプーチン政権が長期化している理由と共通します。プーチン以外に強いリーダーシップを発揮できる指導者が不在であることと、いかなる対立候補者よりもプーチンが大統領としての豊富な経験値で優るからです。
同じことが自民党総裁選挙にも当てはまります。新しい首相に日本の将来を委ねるのではなく、安倍政権による現状維持がよいと判断し、すべてを安倍氏に託す自民党代議士たち。これは今の日本国民の政権選びの考え方そのものです。豊富な経験値を持つ安倍氏に任せておけばとりあえず安心だという人任せな発想です。これが一層安倍政権の傲慢と忖度政治を助長させる要因になってます。
こういう雰囲気に国民が陥ったのは、2011.3.11の東日本大震災が国民全体に及ぼした精神的影響によるものが大きいと思われます。突然の想定外の大震災に対し、無為無策で対応に遅れたために、国民に無能と審判され、突然の幕引きとなった民主党菅政権。この出来事以来、日本国民はひたすら安定と現状維持のみを求め、自民党政権を支持するようになってしまったのです。
戦後レジームからの脱却を求める安倍政権にとって、最後のチャレンジは憲法改正です。自民党改正案が示されて久しい。政府の意向は、自衛隊を軍隊と認めて憲法に明記し、自衛権を明記して自衛のための戦争を正当と認めて世界に示すことです。改正のポイントは第9条の平和主義・戦力の不保持・交戦権の否認に向けられています。著者もその点にポイントを絞って議論しています。
それにしても「朝まで生テレビ」での著者の発言は相手のパネリストの論点を明確にして自己の意見を述べる著者の姿勢は謙虚で好感が持てるし、何より信頼出来る。本書からもその姿勢は伺われる。
内容紹介
なぜ安倍政権は長期化するのか?トランプ以降の外交の行方は?加計問題の本質は?9条改正が避けられない理由とは?さまざまなメディアで注目を集める気鋭の国際政治学者が、日本政治のリアルを問う。
さまざまなメディアで大活躍の気鋭の国際政治学者が、この国の疑問にリアルに答えます!
「ライバル不在」だけではない 安倍政権が長期化した理由
9条改正 なぜ憲法学者の議論はズレているのか?
破綻するまで変われない? アベノミクスをめぐって
加計問題の本質は不公平で非効率な「官僚支配」
人材が欠乏しているのか? メディアが悪いのか?
米中二強時代に耐える日本外交の姿勢とは
などなど、日本政治の今と明日を見定める上で必読です。
著者紹介
三浦瑠璃(みうら・るり)
1980年、神奈川県生まれ。国際政治学者。幼少期を茅ヶ崎、平塚で過ごし、県立湘南高校に進学。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表取締役。博士論文を元にした『シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)でデビュー。近著に『21世紀の戦争と平和――徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)。「朝まで生テレビ! 」、「ワイドナショー」などテレビでも活躍する一方、旺盛な執筆、言論活動を続ける。第18回正論新風賞受賞。
目次
プロローグ なぜ安倍政権は続くのか?
「平和」をリアルに考える
歴史問題はどこまで進んだか?
どうして9条を変えなくてはならないのか
アベノミクスを採点する
人材がいないのかメディアが悪いのか
トランプ以後の日本外交
終わりに
参考図書
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2019/06/06 - 本記事は6／5付の公式メールマガジン三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」
2019/03/13 - 2015年に出版された前著『日本に絶望している人のための政治入門』（文春新書）は安倍長期政権の初めの3年間を対象とし、その間に垣間見えた政権の性格、政治の対立軸を扱っていました。しかし、『あなたに伝えたい政治の話』を上梓 ...
