世界史を大きく
動かした植物
稲垣 栄洋 PHP研究所
本書では、14種類の植物が取り上げられています。これらの植物が世界史の中でどういう役割をはたしてきたか、ということにとどまらず、これら植物のそれぞれの物質的、栄養学的、生物学的特徴から、人類への影響について述べられています。そして、専門的になりすぎるのは避けられているようで、一般読者にとっても読みやすい、面白い内容に仕上がっています。
興味深かったのは、コムギとイネについてです。地球の激変にスピード対応しやすく小さな草(単子葉植物)としてイネ科植物は葉の繊維質が多く消化しにくなっています。しかも、成長点をたべられないように地面の際に分げつして育っているのです。
他方草原ではこのイネ科植物を食べなければ草原の動物は生きてはいけない。牛は4つもの胃袋で反芻しながら柔らかく砕いて微生物発酵をしながら栄養分を作り消化しています。イネ科植物は栄養分がすくないので多量に食べられるように胃がでかくなっています。
ヤギ・羊・シカ・キリンなど同様ですが、馬は胃より盲腸を発達させています。そして、人類は間接的にこのような動物の肉を食べでいるわけです。また、人類にとって最大の発見は、種子の落下しない「ヒトツブコムギ」でした。そして、これが農業のはじまりでした。
森の類人猿からアフリカ東部の人類の起源へと祖先は進化していきました。農耕が始まったのは砂漠地帯です。草原は食べ物が少ない、こんな厳しい環境で人類は進化を遂げてきました。実は農業は重労働です。コムギのおかげで食べ物のない場所に食べ物を作ることができるのです。また種子は長期保存できるので、これが「富」概念を生み、今日の貧富格差という経済学につながっていきます。
我々が今食べている作物も、当時は忌み嫌われていたり、観賞用としてだったりと、食用として定着するには紆余曲折があったんだと思いました。これからもこの植物史、人間との織り成す物語は続いていくだろうと思います。
著者が最後に記載しているが、「人間が植物を利用したのではなく、我々が植物に利用されたのかもしれない」という趣旨の言葉、その通りだと思います。
内容紹介
一粒の小麦から文明が生まれ、茶の魔力がアヘン戦争を起こした。植物という視点から読み解く新しい世界史。
私たちは人類の歴史について、よく知っている。少なくとも、そう思っている。しかし、本当にそうだろうか。人類は植物を栽培することによって農耕をはじめ、その技術は文明を生みだした。植物は富を生みだし、人々は富を生みだす植物に翻弄された。人口が増えれば、大量の作物が必要となる。作物の栽培は、食糧と富を生み出し、やがては国を生み出し、そこから大国を作りだした。富を奪い合って人々は争い合い、植物は戦争の引き金にもなった。
兵士たちが戦い続けるためにも食べ物がいる。植物を制したものが、世界の覇権を獲得していった。植物がなければ、人々は飢える。人々は植物を求め、植物を育てる土地を求めて彷徨った。そして、国は栄え、国は亡び、植物によって、人々は幸福になり、植物によって人々は不幸になった。
歴史は、人々の営みによって紡がれてきた。しかし、その営みには植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ。さあ、人類と植物が紡いだ壮大なドラマの始まりである(本書の「はじめに」より)。
著者紹介
稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
一九六八年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、現職。
主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(以上、PHPエディターズ・グループ)など多数。
目次
はじめに
第1章 コムギ--一粒の種から文明が生まれた
木と草はどちらが進化形?
双子葉植物と単子葉植物の違い
イネ科植物の登場 ほか
第2章 イネ--稲作文化が「日本」を作った
稲作以前の食べ物
呉越の戦いが日本の稲作文化を作った!?
イネを受け入れなかった東日本 ほか
第3章 コショウ--ヨーロッパが羨望した黒い黄金
金と同じ価値を持つ植物
コショウを求めて
世界を二分した二つの国 ほか
第4章 トウガラシ--コロンブスの苦悩とアジアの熱狂
コロンブスの苦悩
アメリカ大陸の発見
アジアに広まったトウガラシ ほか
第5章 ジャガイモ--大国アメリカを作った「悪魔の植物」
マリー・アントワネットが愛した花
見たこともない作物
「悪魔の植物」 ほか
第6章 トマト--世界の食を変えた赤すぎる果実
ジャガイモとトマトの運命
有毒植物として扱われたトマト
赤すぎたトマト ほか
第7章 ワタ--「羊が生えた植物」と産業革命
人類最初の衣服
草原地帯と動物の毛皮
「羊が生えた植物」 ほか
第8章 チャ--アヘン戦争とカフェインの魔力
不老不死の薬
独特の進化を遂げた抹茶
ご婦人たちのセレモニー ほか
第9章 サトウキビ--人類を惑わした甘美なる味
人間は甘いものが好き
砂糖を生産する植物
奴隷を必要とした農業 ほか
第10章 ダイズ--戦国時代の軍事食から新大陸へ
ダイズは「醤油の豆」
中国四千年の文明を支えた植物
雑草から作られた作物 ほか
第11章 タマネギ--巨大ピラミッドを支えた薬効
古代エジプトのタマネギ
エジプトに運ばれる
球根の正体 ほか
第12章 チューリップ--世界初のバブル経済と球根
勘違いで名付けられた
春を彩る花
バブルの始まり ほか
第13章 トウモロコシ--世界を席巻する驚異の農作物
「宇宙からやってきた植物」
マヤの伝説の作物
ヨーロッパでは広まらず ほか
第14章 サクラ--ヤマザクラと日本人の精神
日本人が愛する花
ウメが愛された時代
武士の美学 ほか
おわりに
参考文献
参考図書
関連サイト
『世界史を大きく動かした植物』 稲垣栄洋著 : エンタメ・文化 : 読売新聞 ...
https://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20180910-OYT8T50031/