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第ニ次世界大戦中の日系人アメリカ人を救い、人権と建国の理念を守った政治家ーラルフ・カー

日系人を救った政治家

 ラルフ・カー

信念のコラロド州知事

アダム・シューレイガー

 [訳] 池田 年穂 水声社

日系人を救った政治家ラルフ・カー―信念のコロラド州知事

日系人を救った政治家ラルフ・カー―信念のコロラド州知事

 

 

 本書は、1939年初頭から1943年代初頭にかけて、アメリカの西部にあるコロラド州州知事を2期4年にわたって務めたラルフ・カーの政治家の話です。原著のタイトルは、『The Principled Poltician』で、プリンシプルズ(原理原則)に忠実だったカーをよく表しています。
 大きな借金をかかえたコロラド州だが、カーは州知事1期目に、増税することなく歳出を抑え、赤字を削減します。その手腕が評価され、2期目も務めることになります。ところが、1941年12月の真珠湾攻撃があり、アメリカ国内にはヒステリックなニッポンバッシングが吹き荒れます。


 第2次大戦中、アメリカ在住の日系アメリカ人は「敵性外国人」として強制収容の憂き目に遭います。一方、ドイツ系移民が強制収容されることはなかったのですから、これは黄色人種への人種差別の結果であったことは明らかです。
 ところが、コロラド州知事ラルフ・ローレンス・カーは、こうした連邦政府の方針や州の人々の総意に反対して、一貫して日系アメリカ人擁護の立場を崩しませんでした。そして、真珠湾攻撃のすぐ後ですら、ラジオで次のように発言し、日系アメリカ人への不当な怒りをおさめるよう、呼びかけました。

コロラド州民のみなさん、冷静に賢明な市民として振るまおうではありませんか。アメリカが人種の坩堝であるという事を思い出してください。アメリカに対する忠誠心を、その人の祖父が生まれた場所で計る事は出来ません。もとをたどれば、我々全てのアメリカ人は国境の向こう側からやってきたのではありませんか。」

そして、強制移住が始まった後も、

「現在、日本語を話す人達は皆、大変つらい立場にある。我々はアメリカのシステムを守るために、そして国境を越えた同胞関係を維持するために、力を合わせなければならない。(中略)もし我々がこれらの人々(日系アメリカ人)に人道的親切や理解を与えなかったら、彼らの権力章典の保護を拒否したら、公聴会や不品行の告訴なしに48州のいずれにも住む権利を与えなかったら、我々はアメリカのシステム自体をつぶしていることになる。もし戦争におけるコロラド州の役目が日系人10万人を受け入れることであるなら、コロラドは彼らの面倒を見る。」と発言します。

 そして、いよいよ実際に日系人収容者がコロラドにやって来た時、彼らをボコボコにしようと暴徒が集まってきたのを察知したカーは、わざわざ飛行機で現地に飛んで体を張って暴力を止めます。そして、次のように発言します。

「彼ら(日系アメリカ人)に危害を与えるのなら、私に与えなさい。小さな町で育った私は、人種差別による恥辱や不名誉を知り、それを軽蔑するようになった。なぜならそれ(そのような行為)は、幸せ(な生活)を脅かすものだからだ、あなたの幸せ、あなたの幸せ、そしてあなたの幸せを。」


 こうした一貫した日系アメリカ人擁護(それはアメリカの建国の理念を守るための言動でもあったわけですが)のために反感を買い、上院議員になる希望と政治生命そのものを断たれました。


 問題だと思うのは、日本人の大半がラルフ・ローレンス・カーのことを知らないことです。ユダヤ人は、今でも杉原千畝の恩を忘れていません。ですから、日本人だって、日系アメリカ人のことを体を張り、自身の政治生命を断たれてまで守った男のことを忘れてはならないのです。

内容紹介

 
「〈ニッポン人〉を傷つけるなら、まず〈私〉を傷つけよ!」
第二次世界大戦中、政治的キャリアを犠牲にしても、合衆国憲法に則って日系人を擁護した政治家がいることを、いま、どれほどの人が知っているだろうか……。

《ラルフ・カーはアメリカの杉原千畝である。(……)第二次大戦中、合衆国民を差別することは憲法に反するという確固とした信念から各州が嫌がった日系人を引き受け、収容にも反対した。(……)カーは頑固な男だったのだろう。でも信念を貫く時は頑固さが必要である。(……)いざというとき、いかに生くべきか、カーは我々に教えてくれる。》——藤崎一郎(前駐米大使)

 

著者等紹介

アダム・シュレイガー(Adame Schrager)
1969年、米国イリノイ州に生まれる。ミシガン大学、ノースウエスタン大学大学院で、アメリカ史とジャーナリズム論を修め、テレビの政治担当記者兼プロデューサーとして、エミー賞を二〇回以上も受賞している 。

池田 年穂(いけだ・としほ)
1950年、横浜市に生まれる。現在、慶應義塾大学教授。専攻は移民論、移民文学、アメリカ社会史。ユエンフォン・ウーン『生寡婦』(風響社、2003年)の翻訳でカナダ首相出版賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。

目次

序文 前駐米大使 藤崎一郎

ハーブ・イノウエの体験

ー日本語版へのまえがきに代えて アダム・シューレイガー

 

プロローグ

一九三八年夏
一九三九年一月一〇日
一九三九年一一月‐一九四〇年
一九四一年‐一二月初め
一九四一年一二月
一九四二年一月
一九四二年二月前半
一九四二年二月後半
一九四二年三月前半
一九四二年三月後半
一九四二年四月
一九四二年五月‐六月
一九四二七月‐八月
一九四二年九月
一九四二年一〇月
一九四二年一二月‐一九五〇年九月

エピローグ

 

訳者あとがき

参考図書 

日系人のコロラド (柏艪舎ネプチューンノンフィクションシリーズ)

日系人のコロラド (柏艪舎ネプチューンノンフィクションシリーズ)

 

 

アメリカの汚名:第二次世界大戦下の日系人強制収容所
 

 

ストロベリー・デイズ―― 日系アメリカ人強制収容の記憶

ストロベリー・デイズ―― 日系アメリカ人強制収容の記憶

 

 

記者たちの日米戦争

記者たちの日米戦争

 

 

 関連サイト

政治生命を犠牲にしてまで日系人の強制収容に反対したコロラド州知事 ...


http://blog.livedoor.jp/kaigainoomaera/archives/35976616.html 
2014/01/28 - ... た。 第二次世界大戦中に公然と日系アメリカ人擁護を主張した数少ないアメリカ人政治家の. ... Fulcrum Publishing,2008 が、2013年7月に移民学者の池田年穂の翻訳で「日系人を救った政治家ラルフ・カーー信念のコロラド州知事」として水声社から出版された。 .... 日系人を救った政治家ラルフカー信念のコロラド州知事 ...
 
 
 

人権と建国理念を守ろうとした 孤高の政治家、ラルフ・カー 3人 ... - よみタイム


https://www.yomitime.com/122410/0901.html 
2010/12/24 - 当時のコロラド州知事、ラルフカー氏(1887~1950)である。FCIでは「ニッポン人の歴史、再発見」をテーマに、あまり知られていない「日系人強制収容所」の実情やカー知事の人物像に迫ったドキュメンタリー番組を放送する。今回の番組を ...
 

【宮家邦彦のWorld Watch日系人受け入れたデンバー - 産経ニュース


https://www.sankei.com/column/news/190214/clm1902140005-n1.html 
2019/02/14 - 当地日米関係者によれば、それは1941年の真珠湾攻撃当時、同州知事だったラルフカーのおかげだという。当時米国内では極端な排日主義が吹き荒れていたが、カー州知事は米国市民権を持つ日系2世米国人の基本的人権侵害と不当な ...