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米国史の最暗部に迫る犯罪ノンフィクション「花殺し月の殺人」―インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

花殺し月の殺人

     インディアン

    連続怪死事件と

        FBIの誕生

 デイヴィッド・グラン

[訳]倉田真木 早川書房

 

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

 

 

  本書は、約100年前に20人以上犠牲となったオクラホマ州での殺人事件の話です。100年前とは言え大きな事件ですが、著者によるとアメリカ人でも大半が知らない事件らしいです。
 1870年代、白人たちの都合で他の地域から追い出されたオセージ族と言うアメリカ先住民がオクラホマ州の一画に移住します。痩せて農耕には向かないため、白人にとっては無用と思われた土地ですがオセージ族が移住後に石油が発見されます。
 当時のオセージ族には賢いリーダーがおり移住するにあたり地下資源等々にも権利が及ぶような条件で契約していました。そのため全米の石油発掘業者が事業を行う際オセージ族に掘削権のリース料を払う形になりオセージ族全体に莫大な金が転がり込むようになりました。
 移住から40数年後、オセージ族は全米でも屈指の富裕層となっていた(アメリカ人が自動車を持つ割合は10人に1人に対しオセージ族は1人あたり平均で10台保有していた)。有色人種や先住民に強い差別がある時代のアメリカで、オセージ族は白人を使用人に雇い、人によっては白人と結婚している者もいました。
 事件の始まりはオセージ族のある姉妹の長女(アナ)の失踪から始まります。失踪から一週間後、アナは頭を拳銃で撃たれた死体となって発見されます。さらに時を同じく別のオセージ族の男性がアナと同じように頭を拳銃で撃たれて死亡します。
 その後、別の犯罪で捕まった男がアナの離婚した元夫(白人)からの依頼でアナを殺したという自供をする。元夫は逮捕されるが何も証拠はない上に自供した犯罪者との接点もなく釈放されます。理由は分からないが嘘の自供でした。
 殺されたアナの妹(モリ―)は地元有力者である男の甥(白人)と結婚しており、その有力者である叔父の力で検察を動かしさらなる捜査を実施するも容疑者不明で迷宮入りとなります。そして数か月後アナとモリ―の母親も謎の病気で死亡します。母は毒により殺されたのではないかとモリ―は疑いを持ちます。
 先住民族に無関心な司法当局を動かす為、資金力だけはあるモリ―たちは犯人探しに懸賞金を賭け、大牧場の経営者でお金持ちの叔父は都会から凄腕の私立探偵を雇うなどするも捜査は進展しません。さらには他のオセージ族、親先住民的な弁護士、ワシントンで連邦当局に働きかける事を約束をした石油業者の男など、次々に不審な死が続きます。

 この本は3部構成で、第1部はモリ―の身の回りで起こる不審死とオセージ族周辺の社会情勢、モリ―やオセージ族に関係する人物紹介です。第2部は司法省捜査局(FBIの前身)局長フーヴァーの野心により派遣される捜査官の紹介と事件捜査から解決にいたるまで活躍と事件の真相、そして裁判です。第3部は事件解決後、残った謎に著者が迫る内容です。
 金はあってもまともな国民として扱われない先住民に対し、極悪非道な白人たちと先住民から搾取するインチキ極まりない制度、正義のかけらもない地元司法関係者が絡むアメリカの暗黒史。
 本書では、登場人物たちの供述や発言が嘘にまみれ、誰が誰を殺したか完全にははっきりとしない複雑な犯罪です。著者は資料に基づいた事実のみを真面目に書いており、自分の推測は入れておらず至って硬派な内容です。
 本書を読む際の気を付けることは、本の最初に【主な登場人物】として12人ほど紹介されてはいますが、その程度では全く足りないほど登場人物が多く、メモしながら読んだほうが良いかもしれません。

 内容紹介

米英で50万部!
スコセッシ&ディカプリオ映画化!
アメリカ探偵作家クラブ賞(最優秀犯罪実話賞)受賞 
ニューヨーク・タイムズ》40週連続ベストセラー
ウォール・ストリート・ジャーナル》ほか、年間ベストブック17冠

 

1920年代、禁酒法時代のアメリカ南部オクラホマ州。先住民オセージ族が「花殺しの月の頃」と呼ぶ5月のある夜に起きた2件の殺人。それは、オセージ族とその関係者20数人が、相次いで不審死を遂げる連続殺人事件の幕開けだった―。私立探偵や地元当局が解決に手をこまねくなか、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーは、テキサス・レンジャー出身の特別捜査官トム・ホワイトに命じ、現地で捜査に当たらせるが、解明は困難を極める。石油利権と人種差別が複雑に絡みあう大がかりな陰謀の真相は?米国史の最暗部に迫り、主要メディアで絶賛された犯罪ノンフィクション。アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)受賞!

著者等紹介

デイヴィッド・グラン(David Grann)
アメリカのジャーナリスト(1967年、ニューヨーク出身)。《ニューヨーカー》のスタッフ・ライターを務める。《ニューヨーク・タイムズ・マガジン》、《ウォール・ストリート・ジャーナル》、《アトランティック》などにも寄稿。ジョージ・ポーク賞ほか受賞歴多数。著書『ロスト・シティZ』(2009)は《ニューヨーク・タイムズ》ベストセラーの1位となり、25カ国語に翻訳されている。他の著書にThe Devil and Sherlock Holmes(2010)。本書(2017)は、《ニューヨーク・タイムズ》ベストセラー・リストに40週連続でランクインするなど大きな話題を呼び、全米図書賞の最終候補に選ばれたほか、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀犯罪実話賞を受賞した。

倉田 真木(くらた・まき)
翻訳者。訳書にキャンベル『千の顔をもつ英雄』(共訳。ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、アハート『ザ・ギフト』、アリソンほか『リー・クアンユー、世界を語る』ほか多数。

目次

クロニクル1 狙われた女

失踪
神の御業か人の所業か
オセージ・ヒルズの王

ほか
クロニクル2 証拠重視の男

不品行省
潜入したカウボーイたち
不可能の除外

ほか
クロニクル3 記者

ゴーストランド
未解決事件
ふたつの世界に足を置き

ほか

謝辞

訳者あとがき

写真クレジット

主要参考文献

原注

記録文書と未公開の参考文献

参考文献について

参考図書

若い読者のためのアメリカ史 (Yale University Press Little Histories)

若い読者のためのアメリカ史 (Yale University Press Little Histories)

 

 

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

 

  

FBIの歴史

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 関連サイト

『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』 - HONZ


https://honz.jp/articles/-/44753
2018/05/18 - 本書『花殺し月の殺人──インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』は、2017年にダブルデイ社から刊行された、デイヴィッド・グランの最新ノンフィクション、Killers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI の翻訳で ...
 
 

[書評]『花殺し月の殺人』 - 高橋伸児|論座 - 朝日新聞社の言論サイト


https://webronza.asahi.com/culture/articles/2018061500002.html 
2018/06/27 - 花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』(デイヴィッド・グラン 著 倉田真木 訳 早川書房) ... 後にFBIの“創始者”として有名になる若きフーヴァーは捜査局を近代的に改革しようとして、指紋による鑑識技術など科学捜査に ...
 
 

現実に起こった恐るべき連続殺人事件『花殺し月の ... - NEWSポストセブン


https://www.news-postseven.com/archives/20180608_695179.html 
 › コラム
 
2018/06/08 - ミステリー編】現実に起こった恐るべき連続殺人事件『花殺し月の殺人』. facebook · twitter 0 · LINE; コメント 0. 『花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』デイヴィッド グラン 早川書房. 『花殺し月の殺人――インディアン連続 ..
 
 

『花殺し月の殺人』 デイヴィッド・グラン著 : エンタメ・文化 : 読売新聞オンライン


https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20180709-OYT8T50050/ 
2018/07/16 - 実話に見る底知れぬ闇 一九二〇年代のアメリカ、ネイティブ・アメリカンの保留地で二十余件もの不審死が相次ぐ。事件解決のためやがてFBI連邦捜査局)となるBI(司法省捜査局)が乗り出す。派遣されたのはテキサス・レンジャーの.