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河合隼雄の「ファンタジーを読む」

ファンタジーを読む

  <子どもとファンタジー

          コレクションⅡ

      河合隼雄 河合俊雄

           岩波現代文庫

 

 

 本書は、心理学者の川合隼雄さんによる児童文学評を、息子さんである河合俊雄さんが編纂さんした一冊です。本書では、色々なファンタジー作品を読み解き、人間の「たましい」に目を向け、人間の多面性、強さ、弱さ、奥深さなど、色々な面が見えてきます。理論一辺倒では見えてこない人間の複雑きわまる「たましい」の問題を考える参考となります。

 また、本書は心理学の視点から児童文学のファンタジーについて論じられています。そして、「児童文学の名作を読むと、心を洗われたように感じたり、癒しを感じたりする。あるいは生きてゆくための勇気を与えられたように感じるときもある。」という箇所には共感します。そして、たくさんの人に児童文学の効用を受けてみてほしいです。何より、河合先生の優しく鋭い語り口で、珠玉の児童文学を10作品も体験できるのがすごく幸せです。

 心理学やファンタジーに興味のない方も、是非読んでみて下さい。「ゲド戦記」を始めとする名作に興味がわくと思います。

 内容紹介

ファンタジー文学は空想への逃避ではなく,時に現実への挑戦ですらある.それは妄想ともつくり話とも違う.すぐれたファンタジー文学は,読み手自身のファンタジーを呼び起こし,何らかの課題をもって読み手に挑戦してくる――.心理療法家が,ストー,ゴッデン,リンドグレーン,ギャリコ,ピアス,ノートン,マーヒー,ル=グウィンを読む.(解説=河合俊雄)(全6冊)


この巻はコレクションI『子どもの本を読む』の続編です.Iと同様,ここに取り上げられている8人の作家の原作も併せてお読みになることをお勧めいたします.
「素晴らしいファンタジーは,常に何らかの課題をもって読者に挑戦してくる,とも言えるのである.それは物語としてはちゃんと完結していても,完結した後もなお読者の心を動かし続ける力をもっているのである.」
――「なぜファンタジーか」より
本書は光村図書の季刊誌『飛ぶ教室』23号(1987年8月)から38号(91年5月)まで14回にわたって連載された「子どもの本を読む――「ファンタジー」編」をもとに91年単行本として楡出版から,96年に講談社(+α文庫)から刊行されました.河合隼雄著作集第4巻(94年)では,紙数の都合でカニグズバーグマクドナルド,ボスコが割愛されました.文庫化に当たっては著作集版を底本としました.

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児童文学の名作を読むと、心を洗われたように感じたり、癒やしを感じたりする。あるいは生きてゆくための勇気を与えられたように感じるときもある。

ここに取り上げたどの作品もそのようなものばかり、おせっかいと言われるのを覚悟の上で、誰にでも「こんな本読まないと損だよ」とすすめたくなってくる。

                ◇ 

大人はどうしても、この世のシステムや仕組や、いわゆる常識というものにとらわれるので、たましいのことが見えにくい。その点、子どもの目は端的に「たましいの現実」を見る。

子どもの目で見た現実がそのまま語られるので、児童文学はたましいのことに深く関係しているのだ。

                ◇  

このように考えるので、私は心理療法家の必読の書として、児童文学を読んでいる。
それは暇つぶしとか余技などというものではない。
たましいのことについて知るのは、知的ないとなみではなく、自分の存在全体にかかわることである。
(本文より抜粋・引用)

 

著者等紹介

河合 隼雄(かわい・はやお)
1928年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒業。1962年よりユング研究所に留学、ユング派分析家の資格取得。京都大学教授、国際日本文化研究センター所長、文化庁長官を歴任。2007年7月逝去 。著書には『こころの処方箋』(新潮社)、『河合隼雄著作集』(全14巻・岩波書店)、『ウソツキクラブ短信』『こどもはおもしろい』(以上、講談社)、『昔話の深層』『魂にメスはいらない』『日本人とアイデンティティ』『あなたが子どもだったころ』『明恵 夢を生きる』『子どもの本を読む』(以上、講談社+α文庫)などがある

河合 俊雄(かわい・としお)
1957年奈良県生まれ。京都大学教育学研究科博士課程修了。ユング派分析家資格取得。甲南大学助教授、京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻助教授(心理臨床学講座)を経て、現在、京都大学こころの未来研究センター教授。主な著書に、『心理臨床の理論』(岩波書店)、『京都「癒しの道」案内』(朝日新書、共著)、『発達障害への心理療法的アプローチ』(創元社、編著)などがある。

目次

1 キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
2 ルーマー・ゴッデン『人形の家』
3 A・リンドグレーン『はるかな国の兄弟』
4 ポール・ギャリコ『七つの人形の恋物語
5 フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』
6 メアリー・ノートン床下の小人たち
7 M・マーヒー『足音がやってくる』
8 ル=グウィン影との戦い ゲド戦記1』
9 ル=グウィンこわれた腕環 ゲド戦記2』
10 ル=グウィンさいはての島へ ゲド戦記3』

参考図書 

 

 

 

 関連サイト

1928年兵庫県篠山市生まれ。臨床心理学者。京都大学名誉教授。京都大学教育学博士。2002年2月から2007年1月まで文化庁長官(民間人からの文化庁長官就任は17年ぶり3人目)を務めた。 1952年京都大学理学部卒業後、アメリカ留学を経て、 ...
 
 
第1回と第2回で取り上げる『ユング心理学入門』は、河合隼雄が日本語で書いた最初の著作で、西洋で彼が学んだユング心理学を、日本の ... を用いてわかりやすく論じているのが特徴で、彼の人間観察力や生き生きとした描写には、刊行から半世紀を経た今も読むたびに驚かされます。 ... 人間の心を考える素材として、『古事記』や『源氏物語』、民話から現代的なファンタジー、子どもの本に至るまで、様々な物語を取り上げています。
 
 

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