読書案内

お薦めの本を紹介します

宇宙創成(下) 宇宙観測の歴史物語 

  宇宙創成(下)

     サイモン・シン

(訳)青木薫 新潮文庫

 

宇宙創成(下) (新潮文庫)

宇宙創成(下) (新潮文庫)

 

 

 下巻では、ビッグバン宇宙論が現在認められている状況になるまで、主にフレッド・ホイルを中心とした定常宇宙論陣営との論争にそって、決着をつけた重要な観測が紹介されています。
 その描かれかたが非常に面白いです。上巻から通して感じることは、理論がどれだけ立派でも、その理論から何かが予測されること、そしてそれを裏付ける観測結果がなければコンセンサスが得られず主流となる理論とは成り得ないという厳然とした事実です。
 気が遠くなりそうな銀河までの距離の測定の積み上げや、偶然ではあるものの妥協しない精神が発見にたどりついた宇宙背景放射の発見など、人間の知性と忍耐が獲得してきた知識の物語が非常に分かり易く、詳しく描かれています。現在理論が先行している最先端の宇宙理論(超弦理論、ブレーン理論等等)も実験や観測が追いつけば新たな宇宙像を見せてくれるでしょう。
 また、宇宙創成以来の元素の合成過程を予測したフレッド・ホイルは、その発見自体が自分が対峙しているビッグバン理論の裏づけにもなったことや「ビッグバン」の名付け親であったことなど、知らなかったことなので非常に面白いと思いました。
 ホイルは非常に優秀な物理学者でした。ビッグバン宇宙論の中心にいたガモフの性格などが対象的だったことも、これら両宇宙論の論争が傍目には面白く映る要因なのかもしれません。そのような、人物の詳細の描きかたは、相変わらず優れていると思いました。
 最先端の宇宙論までの紹介ではなく、ビッグバン宇宙論が現在の地位に上り詰めるまでの経緯を語っているのですが、このように登場する人間達が非常に魅力的に描かれているので、宇宙論の知識が無くても楽しめる本になっていると思います。

 内容紹介

悠久の過去に生まれた宇宙誕生の証拠を探せ―。古代から20世紀のその瞬間に至る天才たちの知的格闘の歴史、壮大なるドラマ。

人は宇宙を知るため、数限りない挑戦を続けてきた。太陽中心モデルを作り上げたアリスタルコスから、相対性理論アインシュタイン、宇宙誕生の瞬間を発見したNASAに到るまで。決闘で鼻を失った天文学者がいた。世界トップクラスの天体画像分析チームを率いた「メイド」がいた。数々のドラマの果てに、ついに科学者たちは……。人類の叡智の到達点を、感動的に描く圧巻の書。『ビッグバン宇宙論』改題。

著者等紹介

サイモン・シン(Simon Singh)

1964年、イングランド、サマーセット州生まれ。祖父母はインドからの移民。ケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学の博士号を取得し、ジュネーブの研究センターに勤務後、英テレビ局BBCに転職。TVドキュメンタリー『フェルマーの最終定理』(1996)で国内外の賞を多数受賞し、1997年同名書を書き下ろす。『暗号解読』『宇宙創成』『代替医療解剖』など、科学分野で世界中から高い評価を得ている。ロンドン在住。

青木 薫(あおき・かおる)
1956年生まれ。翻訳家。ポピュラーサイエンスの訳書多数。サイモン・シンフェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』『宇宙創成』『数学者たちの楽園:「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』、エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』、レナード・ムロディナウ『ユークリッドの窓』、アミール・D・アクゼル『無限に魅入られた天才数学者たち』など。著書に『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』がある。2007年度日本数学会出版賞受賞。

目次

第IV章 宇宙論の一匹狼たち
宇宙から原子へ/最初の五分間/宇宙創造の神の曲線/定常宇宙モデルの誕生
第IV章のまとめ
第V章 パラダイム・シフト
時間尺度の困難/より暗く、より遠く、より古く/宇宙の錬金術/企業による宇宙研究/ペンジアスとウィルソンの発見/密度のさざなみは存在するのか
第V章のまとめ
    エピローグ
謝辞
付録■科学とは何か?――What Is Science?
用語解説
訳者あとがき
文庫版訳者あとがき
 

参考図書

宇宙創成(上) (新潮文庫)

宇宙創成(上) (新潮文庫)

 

 

宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫)

宇宙創成はじめの3分間 (ちくま学芸文庫)

 

 

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

 関連サイト

【書評】サイモン・シン:宇宙創成 上・下【ブックレビューサイト・ブックジャパン

http://bookjapan.jp/search/review/200905/kodama_setsuro_03/review.html   › おすすめ本書評一覧
科学の本ではあるけれどワクワクするほど面白い。 元々『ビッグバン宇宙論』という親本の文庫化で、読んでみると『宇宙創成』の方が内容にふさわしい気がする。人間の知的発展・進歩、あるいは科学の進歩が宇宙を広げてきたのだ、という本である。
 
 

宇宙創生を解明する「インフレーション理論」 佐藤 勝彦 氏 - こだわりアカデミー

https://www.athome-academy.jp/archive/space_earth/0000000243_all.html 
宇宙・地球、佐藤 勝彦 氏、宇宙創生を解明する「インフレーション理論」 人間をも生み出した宇宙。その創成の謎に、「インフレーション理論」で迫る! ビッグバン─火の玉ができた謎を解く!! 宇宙も人間も「無」から生れた!? 宇宙創成論観測の時代に。
 
 

ガンマ線バーストで宇宙創成の謎と元素の起源に迫る ― 河合誠之 | 研究 ...

https://www.titech.ac.jp/research/stories/faces30_kawai.html 
vol. 30 理学院 物理学系 教授 河合誠之(Nobuyuki Kawai) 天文学における重要な分野となったガンマ線バースト 「2015年9月にブラックホール※1の合体によって発せられた重力波が世界で初めて観測され、いよいよ重力波天文学が幕を開けました。