数学が生まれる物語
第1週
数の誕生
本書は、自然数や、分数、小数を扱った数学入門書です。数に性質というものがあるとわかると、数の見方が変わります。ペアノの公理についての話が面白いです。「‘指折り数える’という行為に関しては,数はどこからはじめても均質な様相を呈している.この均質さを崩さない限り,数は次から次へ続くというとぎれることのない連鎖によって,1からはじまって,どこまでもどこまでも,無限の彼方へと延び続けていくのである」
印象に残った箇所を以下挙げてみます。
大きい数は現実にあんまりない。小さい順に数字が現実でどう使われるかを考える。
1~10はよく使う。指も両手で10本だし。11~20はまぁ使う。買い物で購入するのもこのくらいの単位までだろう。21~100はあまりない。抽象的なものになる。この抽象的なものが当たり前に使われているが、数字がないと抽象的な物事は考えられない。そういう意味で数字は偉大だ。(4~12頁)
Mathematics
この言葉を作ったのはピタゴラス学派と言われている。「学ばれるもの」という意味です。(14頁)
10進法
進数は金勘定で考えるとわかりやすい。
10進法は1万円札、千円札、100円玉、10円玉、1円玉がそれぞれ何枚あるかを考える。(93~94頁)
2進法では2円玉、4円玉、8円玉、16円玉、32円玉…と2の乗数のおカネが何枚ずつ使われているのかを考えるのである。
フィロラオス(B.C.390頃)の格言
知ることのできるすべてのものは数を持つ。なぜなら、数無くしてなにものも想像したり認識したりすることはできないからである。(132頁)
内容紹介
さあ,楽しい数学の物語がはじまります.中学から高校初年級の数学をたくみな文と多数の挿絵によってやさしく説明します.学習テーマがたくさんでてきます.でもだいじょうぶ.一貫した構想でていねいに解説されていますから,数学がにがての人も「なるほど」と納得して,数学の勉強が楽しくなるはずです.
巨大な数から微小な数までを創造し、私たちの思考力や想像力を自由に働かせることができるようにしてくれる数。数とはいったい何でしょうか。第1週では、数学学習の第一歩として、まず自然数、分数、小数を学びます。楽しく学ぶうちに数が生み出されるしくみがわかり、だんだんと数学の考え方に慣れていきます。(全6冊)
■読者へのメッセージ
数学は,小学校6年間の算数の授業からはじまって,中学,高校とさらに6年間の授業を積み重ねていくことにより,基礎的な部分が大体完成するということになっています.小学校に入って最初の算数の授業は,身近なものを数えたり,並べたりするところからはじまったのですが,高等学校が終るときには微分・積分にまで達しています.数学の学習は12年間にわたる課程を通してかなりの高みに上がるといってもよいでしょう.現在のように,科学技術が社会の中心にあって,現実に私たちの生活のすみずみにまでその影響がおよぶようになると,いろいろなところで数学的な見方や考え方が求められるようになってきて,それに応じて,学校での数学教育の重要性が一層比重を増してきています.
しかし,数学の教育が学校を中心にして行なわれているため,数学は,教壇の上から先生によって与えられるもの,あるいはもう少し別のたとえでいえば,私たちにはあまりなじみのない数学という大地から,長い歳月をかけてみのった果実を,先生がもぎとってきて,これは方程式の果実,これは関数の果実として私たちに与えてくださるようなもの,というイメージが,一般の人にかなり行きわたってしまったようにみえます.もちろん,数学史のほうへ目を向けるならば,私たちがいまではごくあたりまえと思うような定理や証明も先人の長い努力があってできたものですから,数学の現在の完成された形を一種の実りとみるならば,このようなたとえも,当を得ているといってよいのかもしれません.
だが,学校というものをひとまず離れて,数学という主題のほうに中心をおいてみたら,どのようなことになるでしょうか.そのとき数学を育てる母胎は私たちの中にあり,私たちは私たちの中にある数学の種子とでもいうべきものから,小さな苗を育てるように,大切に数学を育てていることに気がつくでしょう.それはちょうど草花が,光と風を受けながら,大地から生まれ育ってくるようなものにたとえられます.私がここで展開していく物語は,私たちの中から数学が生まれ育っていく物語なのです.
幼時のころの追憶をたどってみると,私たちが言葉を話しはじめるころには,すでにものを数えたり,並べたりすることができるようになっていました.また,言葉を最初に覚えたと同じころに,ものを数える仕方や,数字を覚えましたが,そのとき私たちのやわらかな心に,ごく自然に数学の種子がまかれたといってよいのでしょう.その後,学校で算数や数学を学んだとき,先生の話の中に何か新しい考え方や術語がでてきても,それはフランス語やアラビヤ語のような異国語に接するときの感じとはまったく異なるものでした.そのことは私たちひとりひとりの中に,数学を学ぶ素地とでもいうべきものが十分備わっていたからであると考えてよいと思います.
私たちは,時にはじっと数学の問題を考えることがあります.意識を集中するにつれ,数学の考えは,私たちを私たち自身の中にある深みへとどんどん誘っていくような気がします.この深みへと目を向けるならば,数学は与えられるものではなく,私たちの中から生みだされ,創りだされていくものだという確信がひとりでに湧いてくるでしょう.私たちは,数学へ向けて動きだすある確かなものを,私たちの中にもっています.この確かなものは,あるときは数学の理解力となってはたらき,あるときは数学の創造力となってはたらきます.数学を支えているものは,数学が生まれるときにはっきりと感ずることのできる喜びであり,緊張感です.この物語を通して,読者が,数学誕生の息吹きを身近なものとして感じとっていただければありがたいと思います.
志賀浩二
著者紹介
志賀浩二(しが こうじ)
1930年生まれ.新潟県出身.1955年東京大学大学院数物系修士課程を修了.東京工業大学理学部数学科の助手となり,助教授,教授となる.その後,桐蔭横浜大学教授,桐蔭生涯学習センター長などを務め,現在,東京工業大学名誉教授.
著書として,専門の『多様体論』のほか,シリーズ「中高一貫数学コース」(全11冊,岩波書店)「数学30講シリーズ」(全10冊,朝倉書店)など,啓蒙書を多数執筆.また,『無限からの光芒』『数の大航海』(ともに日本評論社)など,数学の歴史を新たな視点でとらえた著作もある.
目次
読者へのメッセージ
第一週のはじめに
月曜日 小さな数から大きな数まで
火曜日 自然数
水曜日 倍数と約数
木曜日 分数
金曜日 小数
土曜日 分数と小数
日曜日 ピタゴラスの定理をめぐって
問題の解答
索引
参考図書