<無人化>する戦争
ドローンの哲学
グレゴワール・シャマユー
[訳]渡名喜庸哲 明石書店
- 作者: グレゴワール・シャマユー,Grégoire Chamayou,渡名喜庸哲
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2018/07/31
- メディア: 単行本
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本書は、飛行するドローンの定義から始めて、その歴史的背景、戦術/戦略、政治的機能などを突き詰め、さまざまな議論を展開しています。著者はフランスの哲学者ですが、分析しながら各論をバッサバッサ切っていくところは読んでいてとても気持ちがいいです。
「人間の代わり」というかたちで、遠隔テクノロジーが導入されてゆくとき、代替してもらったほうの当の「人間」は、どうなるのだろうか。ロボットが人間の代わりをしてくれることで、人間は自由を手にするようになるのだろうか。人間の負担や犠牲が減るとともに、これまで負わされてきた責任も軽減されるのだろうか。
本書はロボットに組み込むプログラムやデザインの議論に立ち止まることはない。むしろ、その設定後の世界(というか人間)がどうなるかという話がメインです。なお、哲学的な議論も面白いが、一方で、あまり知られていない現実も紹介してくれています。
たとえば戦争で「キルボックス」なる戦術が使われ、国の閣僚レベルで行われる「恐怖の火曜日」なる殺人会議がある、具体的な監視システムの成り立ちにスポーツ中継が関係するなど、多くの人にとって十分に刺激的だと思われます。
本書の後半は、テーマとしては、心理・倫理的側面や戦争法や社会契約論の話につながっていきます。ドローンのよってどのような社会が生まれるのか、最終章が本書の真骨頂です。
そういえば、日本でも(ドローンの)軍事技術の開発/「ドローン等を用いた監視・検査の自動化・効率化」という構想が進んでいるらしい。昔から科学技術は軍事利用されてきたが、本書はそれがどのような言説においてまかり通るのか紹介しています(人を殺すために作られた軍事ドローンは、「他国民を殺すことで自国民の命を救う人道的武器だ」として正当化される!?)。
「訳者解題」に、全体の話の流れと論点が丁寧にまとめられているから、最初に読んでおくと便利です。
内容紹介
新しい技術が生まれたとき、わたしたちは、
それをどのように考えればよいのだろうか。
ドローンは、戦争を、わたしたちの社会をどのように変えるか、
フランスの哲学者が多角的に分析し、そこから見えてくる
テクノロジーと人間のありようは、誰も逃れられない現実だ。
本書は、これからの戦争を考えるための必読書である!
ドローンは世界中を戦場に変え、戦争は「人間狩り(マンハント)」となる。
その影響は軍事だけでなく、心理、地理、倫理、法律、政治など多方面において、
われわれの社会を大きく変えるだろう。
本書は、ドローンがもたらす帰結とは何か、「哲学」的に考察する
著者等紹介
グレゴワール・シャマユー(Grégoire Chamayou)
1976年生まれ。フランスの哲学者。現在、フランス国立科学研究所(CNRS)研究員。専攻は科学哲学。著書に『卑しい身体 18世紀から19世紀にいたる人体実験』、『人間狩り』がある。フランス語への翻訳として、クラウゼヴィッツ『戦争論』、カント『心身論集』、マルクス『フランスの内乱』、エルンスト・カップ『技術の哲学的原理』、ジョナサン・クレイリー『24/7 眠らない社会』、『KUBARK:CIA精神操作・心理的拷問秘密マニュアル』など多数。
渡名喜 庸哲(となき・ようてつ)
1980年生まれ。慶應義塾大学商学部准教授。専攻はフランス哲学、社会思想。著書に『対立する国家と学問』(共著、勉誠出版、2018年)、『終わりなきデリダ』(共著、法政大学出版局、2016年)、『カタストロフからの哲学』(共著、以文社、2015年)、訳書に『エマニュエル・レヴィナス著作集』(共訳、法政大学出版局、2014年〜2018年)、クロード・ルフォール『民主主義の発明 全体主義の限界』(共訳、勁草書房、2017年)ほか。
目次
プレリュード
序文
第1章 技術と戦術
1 過酷な環境での方法論
2 〈捕食者〉の系譜学
3 人間狩り(マンハント)の理論的原理
4 監視することと壊滅させること
5 生活パターンの分析
6 キル・ボックス
7 空からの対反乱作戦
8 脆弱性(ヴァルネラビリティ)
第2章 エートスとプシケー
1 ドローンとカミカゼ
2 「ほかの誰かが死にますように」
3 軍事的エートスの危機
4 ドローンの精神病理学
5 遠隔的に殺すこと
第3章 死倫理学
1 戦闘員の免除特権
2 人道的な武器
3 精緻化
第4章 殺害権の哲学的原理
1 心優しからぬ殺人者
2 戦闘のない戦争
3 殺害許可証
第5章 政治的身体
1 戦時でも平時でも
2 民主主義的軍国主義
3 戦闘員の本質
4 政治的自動機械の製造
エピローグ――戦争について、遠くから〔遠隔戦争について〕
訳者解題 〈無人化〉時代の倫理に向けて
注
参考図書