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アインシュタインの旅行日記ー日本・パレスチナ・スペイン

アインシュタイン

旅行日記

日本・パレスチナ・スペイン

 

アルバート・アインシュタイン

[編]ゼエブ・ローゼンクライツ

[訳]畔上司   草思社

 

アインシュタインの旅行日記: 日本・パレスチナ・スペイン

アインシュタインの旅行日記: 日本・パレスチナ・スペイン

 

 

 本書はアインシュタインが、義理の娘たちに読ませるためにつけていた日記をまとめたもので、日本・パレスチナ・スペインについての旅行記です。時代は1922年、大正デモクラシーのころで、関東大震災の1年前に、来日します。毎日さまざまな感動の連続で、リラックスしていてとても楽しそうです。
 本書には日記以外にも充実した文章が有り、それは講演原稿や土井晩翠等日本人との手紙のやりとりや、日本の改造社からのアインシュタインへの招聘依頼状などもそのまま載っていて面白いです。自分の子供たちに「ノーベル賞をとることになった!」と報告した手紙も載っていますが、それはちょうど京都に滞在していたころで、その中でも、自分は今までに会ったどの民族よりも日本人を気に入っていて、日本人は「物静かで、謙虚で、知的で、芸術的センスがあって、思いやりがあって、外見にとらわれず、責任感がある」と述べています。
 また、日本旅行記では、以下のような考察をしています。ドイツでは個人主義、競争社会があたりまえで、孤独も生存競争の当然の結果とみなされているが、日本ではまったく正反対。謙虚さと助け合いの精神で人々が結ばれている。使っている道具から服装から家から、何から何まで「愛くるしく」、そんな愛くるしい人たちが「絵のように美しい微笑みを浮かべ、お辞儀をし、座っているのです──そのすべてに感嘆するしかなく、(日本人以外はこの)真似はできません」「日本人は付き合いが陽気で気楽です──日本人は将来ではなく、今を生きているのです」。

日本人にはユーモアのセンスがたっぷりあって、その点でヨーロッパ人のあいだと差はない。しかし、「ここでも日本人の優しさに気づきます。日本人のジョークには皮肉がないのです」。
 一方でアインシュタインは、日本人が西欧化を急ぎ、自らの美質の貴重な価値に気づかず、ダメにしてしまうのではないかということを心配してもいるます。「芸術的な生活、個人的な要望の簡素さと謙虚さ、そして日本人の心の純粋さと落ち着き、以上の大いなる宝を純粋に保持し続けることを忘れないでほしい」と。

内容紹介

本書は二〇一八年にプリンストン大学出版局によって刊行された“The Travel Diaries of Albert Einstein:The far East, Palestine & Spain 1922-1923 ”の全訳です。アインシュタインが一九二二年十月から翌年三月までの間に日本とパレスチナ、そしてスペインを旅した際の日記が全編網羅されているだけでなく、本人が旅先から出した書簡や葉書、旅行中に各地で行なったスピーチ原稿なども収録されています。

 当時すでに世界的な名声を得ていたアインシュタインを日本に招聘したのは、数年後に「円本」を考案してブームを巻き起こすことになる改造社の社長・山本実彦で、二万ポンド(当時のレートで一万五千円強)という条件を提示して、「長いあいだ極東の人々の文化に関心を抱いていた」アインシュタインを極東に招くことに成功しました。アインシュタインノーベル賞(物理学賞)受賞の知らせを受けたのは、じつはこの旅の途中の上海でのことなのですが、興味深いことにアインシュタインノーベル賞について、自身の日記の中でまったく触れていません。

 本人に公表する意図がまったくなかったという事情もあり、この旅行日記においてアインシュタインは筆のおもむくままに各国の国民性について描写しています。たとえば途中で寄港した中国においては、「子どもたちでさえ無気力だし、鈍感に見える。もしこうした中国人が他の全人種を駆逐することになったら残念だ」と記すなど、その筆致はまことに手厳しいものがあり、差別的でもあります。それは本書の編者が指摘するように「知性に関するアインシュタインの明白なエリート意識」の表れであったのかもしれませんが、特筆すべきは、六週間にわたって滞在した日本についてはきわめて好意的な記述が多い、という点です。

「自分に課された役割を何の気取りもなく喜んで果たしているが、連帯感と国家には誇りを抱いている」「簡素で上品」「自然と人間が、ここ以外のどこにもないほど一体化しているように思える。この国から生まれるものはすべて愛くるしくて陽気で、決して抽象的・形而上的ではなく、常に現実と結びついている」「皮肉や疑念とはまったく無縁……純粋な心は、他のどこの人びとにも見られない。みんながこの国を愛して尊敬すべきだ」

 

 といった日記中の記述のほかに、息子たちに宛てた手紙や、友人の物理学者ニールス・ボーアへの手紙にも日本人の謙虚さ、責任感の強さなどへの称賛の言葉が並んでいるのです。二十世紀を代表する科学者が観察し、書き残した百年前のこの国の人々の姿は、「日本人とは何か」を考えるための格好の材料になるのではないでしょうか。

(担当/碇)

 引用元:草思社

 

著者等紹介

アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)
ドイツ生まれの理論物理学者。1879年3月14日生まれ。チューリッヒ工科大学を卒業後、ベルンで特許局技師として働きながら研究を続け、1905年に特殊相対性理論など画期的な3論文を発表。1916年には一般相対性理論を発表。1921年度のノーベル物理学賞を受賞。この時期から世界各国を訪問するようになり、1922年~1923年に訪日。ナチス政権の成立にともないアメリカに逃れ、以後はプリンストン高等研究所を拠点に研究を続ける。1955年4月18日死去。「20世紀最高の物理学者」「現代物理学の父」等と評される。

ゼエブ・ローゼンクランツ(Ze'ev Rosenkranz)
カリフォルニア工科大学アインシュタイン・ペーパー・プロジェクトのアシスタントディレクター。メルボルン出身。ヘブライ大学のアルバート・アインシュタインアーカイブと共同でアインシュタインアーカイブ・オンラインを設立。著書に“Einstein Before Israel: Zionist Icon or Iconoclast?”(未邦訳)などがある。


畔上 司(あぜがみ・つかさ)
1951年長野県生まれ。東京大学経済学部卒。ドイツ文学・英米文学翻訳家。共著に『読んでおぼえるドイツ単語3000』(朝日出版社)、訳書に『5000年前の男』(文藝春秋社)、『ノーベル賞受賞者にきく子どものなぜ?なに?』(主婦の友社)、『エンデュアランス号 シャクルトン南極探検の全記録』(ソニー・マガジンズ)、『アドルフ・ヒトラーの一族』(草思社)などがある。

 

目次

歴史への手引き

レバントおよびレバント人についてのアインシュタインの見解
インド人およびシンハラ族についてのアインシュタインの見解
中国および中国人についてのアインシュタインの見解 ほか
旅日記―日本、パレスチナ、スペイン 一九二二年一〇月六日~一九二三年三月一二日

日本人は自国と自国民を愛している
私の旅はシオニスト運動のために利用されようとしている
日本人の純粋な心は他のどこの人々にも見られない ほか
テキスト補遺

山本実彦より
アインシュタインの訪日旅行開始日(一九二二年九月二九日)に行われた会話についての報告
シンガポールでの歓迎会のスピーチ ほか

略語リスト

原注

参考文献

訳者あとがき

 

参考図書

 

ハンス・アルバート・アインシュタイン―彼の生涯と私たちの思い出

ハンス・アルバート・アインシュタイン―彼の生涯と私たちの思い出

 

 

 

関連サイト

アインシュタインの旅行日記: 日本・パレスチナ・スペイン』天才物理学者の ...
https://honz.jp/articles/-/45276
2019/07/07 - 日記には「下の町はまるで光の海。強烈な印象」「日本人は簡素で上品、とても好ましい」と綴っている。アインシュタイン特殊相対性理論と光量子仮説を発表したのは1905年。26歳のときだった。自身のノーベル物理学賞受賞を知ったのは ...
 
 
書評】『アインシュタインの旅行日記 日本・パレスチナ・スペイン - 産経ニュース
https://www.sankei.com/life/news/190714/lif1907140024-n1.html
2019/07/14 - 今も有効な日本人論本書を読みながら思い浮かべたのは、1920年代に駐日フランス大使を務めた詩人ポール・クローデルの《私が決して滅ぼされることのないようにと希(…