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「東京裁判」を読むー「日本がなぜ負けたのか?」の疑問を解き明かす

東京裁判」を読む

           半藤一利 保坂正康 井上亮

          日本経済新聞社

 

「東京裁判」を読む

「東京裁判」を読む

 

 

 本書は国立公文書館で新史料が公開されたことを契機として、日経新聞に連載された記事に加筆して単行本化したものです。内容のうち、半分が史料原文とその解説、半分が半藤・保阪・井上三氏の対談という形式になっています。
 公開された史料は最終的には公的な形で集められたものですが、そもそもは豊田隈雄ら復員局職員の「貴重な史料を散逸させてはならない」という篤志から動きだしたものだといいます。後世の我々は彼らに感謝しなくてはなりません。

 「東京裁判」は、勝者が敗戦国の戦争指導者を裁いた裁判です。「東京裁判」はナチスを裁いたニュルンベルク裁判に準拠した極東軍事裁判所条例に基づいています。ポイントは、侵略戦争を計画、実行した「平和に対する罪」を裁くことにあります。その法理論は共同謀議理論です。対象期間は、日中戦争開始(1928年)から敗戦(1945年)までです。この共同謀議理論は批判も多いですが、本書では、国家の意思に基づく戦争の責任を追及する上ではやむを得ない手法としています。戦勝国の「戦争犯罪」(たとえば一般市民の住宅を焼き尽くした空襲や原爆投下)は全く問われていないことは根本的な限界でもありました。

「日本はなぜ負けたのか?」の疑問にせまりましょう。

1.大義なき戦争
満洲を確保するために日中戦争を開始したが頑強な抗日戦により泥沼化し、その打開のために日米戦争を開始しました。「大東亜戦争」なるものは、アジア太平洋への戦争拡大の大義名分のための「後付け」であり、全体が侵略戦争として断罪されます。弁護側(被告を含む)からは、裁判官を納得させられるような「理論」はでませんでした。
2.責任が不明確な国家の意思決定機構
軍政から軍令を独立させた「統帥権の独立」が国家の意思決定が不明確になった根本原因でした。これは天皇の権威を隠れ蓑にして軍部が独走できる仕組みですが、天皇の裁可を得ている以上、軍部が最終責任を負う訳ではありません。一方、天皇の戦争責任を問わないことが「東京裁判」の前提となっていました。こうして、戦争の開始や遂行、そして終了することに関する国家の意思決定機構が不明確であることが改めて裁判で明らかになりました。
3.無能な国家指導者たちと組織間の争い
被告たちはすべてエリートであったが、大局から国家の安全を図るという意味での指導者としては無能であったということです。個人弁護において、ほとんどの被告が既に死亡した元同僚に罪を擦り付け、自らの責任を回避しました。自らの意思決定や行動の正当さを裁判官に筋道立てて論じ得た被告は一人としていません。外務省と軍部、陸軍と海軍間の連携の無さが改めて裁判で明らかになりました。
4.無謀な戦争と現地軍の残虐行為
そもそも国力が10倍のアメリカに戦争を仕掛けたのが無謀です。参謀本部が机上で立案し、兵站を無視した数々の作戦で、多くの将兵が餓死や病死した。また、無謀な作戦が将兵を統制の欠けた行動に追い込み、住民・捕虜への残虐行為の背景ともなっています。
 本書が明らかにしたように、「東京裁判」には、弁護側立証(裁判官が採用した資料は一部のみ)や個人弁護を通じて、「敗者の反論」も多く含まれています。勝者と敗者の議論を冷静に読み取ることで、アジア太平洋戦争とは何であったのかがよく分かります。現代に生きるわれわれは、先人が遺してくれたこの貴重な「歴史の書庫」から、これからの日本の将来に関する教訓を読み取らねばなりません。

 内容紹介

勝者の裁きだけでなく、敗者の反論も残されている国立公文書館資料は全国民必読の「歴史の書庫」。感情論も政治的解釈も越えて、史実で史観のゆがみを正す時。判決後60年、遂に現れた原資料昭和の戦争史はここから始まる。

判決から60年、日経がスクープした新発見文書を真摯に読み直す試み。勝者の裁きだけでなく、敗者の反論も残されている国立公文書館資料は国民必読の「歴史の書庫」。昭和史では第一人者の作家2人と日経専門記者が、知的興奮に満ちた昭和の戦争史へ読者を誘う。

著者紹介

半藤 一利(はんどう・かずとし)
1930年、東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋に入社。『週刊文春』『文藝春秋』編集長、専務取締役を経て作家に。『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、『ノモンハンの夏』で山本七平賞、『昭和史』で毎日出版文化特別賞を受賞 

保阪 正康(ほさか・まさやす)
1939年、北海道生まれ。同志社大学文学部卒。ノンフィクション作家。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。『昭和史講座』刊行などの昭和史研究で第52回菊池寛賞受賞 

井上 亮(いのうえ・まこと)
1961年、大阪生まれ。関西学院大学法学部卒業後、日本経済新聞社に入社。東京、大阪の社会部で警視庁、大阪府警宮内庁法務省などを担当。長岡支局長などを経て編集委員。皇室と昭和史をテーマに取材を続ける。元宮内庁長官の残した「富田メモ」報道で2006年度新聞協会賞受賞

 

目次

  1. 序 章 歴史の書庫としての東京裁判
    第1章 基本文書を読む
    第2章 検察側立証を読む
    第3章 弁護側立証を読む
    第4章 個人弁護と最終論告・弁論を読む
    第5章 判決を読む
    第6章 裁判文書余録
    あとがき
    参考文献

 

参考図書

東京裁判 (講談社現代新書)

東京裁判 (講談社現代新書)

 

 

東京裁判を正しく読む (文春新書)

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「東京裁判」を読む (日経ビジネス人文庫)

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