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沈黙の春ー環境問題のバイブルー

沈黙の春

レイチェル・カーソン

[訳]青樹簗一 新潮文庫 

 

沈黙の春 (新潮文庫)

沈黙の春 (新潮文庫)

 

 

本書は、レイチェル・カールソンが綴った人間が作り出した物質による自然生態系破壊および人類自身の破滅への警告です。
農業の収穫量を向上させるための殺虫剤あるいは植物の病気を抑える農薬等が自然の生態系を壊し、河川を汚染し、対象となる昆虫や農作物あるいは植物以外の生物に多大な影響を与えると事を書き綴っています。
化学薬品が単なる人類という一生物のためだけに使用されているのは現在も過去も同じです。自然との共生と言いながら、つねに自然を利用し搾取しているのも人間です。

科学が人類のためだけにあるという思想が変わらないかぎり、著者の危惧は永久に解決しないように思います。そして今もなお薬剤耐性を示す昆虫や微生物が増えているとともに、人間が感染する細菌やウイルスに関しても薬品に対して同様に薬剤耐性をしめし、さらにその耐性病原体に効果を付与する薬剤開発という悪循環が続いているのです。

 内容紹介(新潮社より)

四十年前、癌におかされながら、残り少ない時間との闘いの中で書きあげられ、孤立無援のうちに衝撃的に出版された一冊の本。海洋生物学者としての広い知識と洞察力をもって、自然を破壊し、人体を蝕む化学薬品の乱用をいちはやく追及、指摘したものだった……現代にあってますます切実なものとなっている20世紀のロングセラー新装版。

 

書評

波 2001年7月号より 環境の破壊と荒廃にブレーキをかける書  レイチェル・カーソン沈黙の春

アメリカの作家で海洋生物学者でもあったレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(原題:Silent Spring)の改訂版が出版された。カバーは、メイン州在住の写真家エリオット・ポーター氏の可憐なゴゼンタチバナの花で飾られ、本文も一段組になって読みやすくなっている。

 この本は化学物質による環境汚染への警告の書である。人間がこのまま劇薬のような化学物質を無秩序・無制限に使い続けていると生態系が乱れてしまい、やがて春がきても鳥も鳴かずミツバチの羽音も聞こえない沈黙した春を迎えるようになるかもしれないという寓話ではじまる。私たちはこの本によって、はじめて環境の汚染と破壊について目を開かされたと言ってよい。

沈黙の春』は、アメリカでは一九六二年六月に雑誌「ニューヨーカー」に抜粋が掲載されるや賛否両論の議論が沸騰し、九月に単行本が出たときはその日のうちに一万部が売れたということだ。化学企業からの攻撃も熾烈で反カーソン・キャンペーンのためには多額の費用が投入された。アメリカでの論争はケネディ大統領の科学諮問委員会のウィズナー報告書が出るに及んでカーソンの評価はきまり政策もかわった。日本では、それほど激しい反応はなかったように思うが、研究者の間ではこの本は真剣に読まれていたのを覚えている。

 科学技術は二十世紀になって発展し、特に第二次世界大戦後に急速に発展した。人々は豊かさと便利さを手にすることができた。もっともこの豊かさはいわゆる先進国と言われる国々の人だけが享受できたのであったが。しかし発展のかげでは、環境汚染や自然破壊が進行してさまざまな環境問題が噴出してくるようになった。そうした状況のなかで『沈黙の春』は、環境を考える原点として読まれていった。

 レイチェル・カーソンの初期の著作は海洋生物学者らしく海に関する三部作『潮風の下で』(宝島文庫)『われらをめぐる海』(ハヤカワ文庫)『海辺』(平河出版、平凡社ライブラリー)があるが、いま年齢を越えて読まれているのが彼女の没後に出版された『センス・オブ・ワンダー』(新潮社)である。この本は、カーソンが姪の息子であるロジャーという幼子とメイン州の自然のなかで過ごした体験をもとに書かれたエッセイで、子どもにとって自然界の不思議さ神秘さに目をみはる感性すなわちセンスオブワンダーを培うことがどんなに大切かを静かに語りかけている。心の荒廃が大きな問題になっている現在、レイチェルのメッセージは多くの読者の共感を得ている。また最近『センス・オブ・ワンダー』は長編記録映画としてグループ現代によって映像化された。メイン州の森や海岸の自然を背景に原作を訳者である私が朗読するという朗読ドキュメンタリーという新しいジャンルの映画である。この本も映画化を機に装いを変えた。カバー、本文の写真をすべてロケに同行された自然写真家の森本二太郎氏がメイン州で写したものに入れ替えたのである。前のバージョンも同氏のものであるが今回はより本文に添ったものになった。因に『沈黙の春』のカバーの写真家エリオット・ポーター氏を森本氏は尊敬する先輩であると言っておられることも、この二つの作品を結びつける不思議な縁である。

 しゃにむに走り続けてきた二十世紀だった。カーソンは『沈黙の春』の最終章“べつの道”の冒頭でこう語る。“私たちは、いまや分れ道にいる。だが、ロバート・フロストの有名な詩とは違って、どちらの道を選ぶべきか、いまさら迷うまでもない。長いあいだ旅をしてきた道は、すばらしい高速道路で、すごいスピードに酔うこともできるが、私たちはだまされているのだ。その行きつく先は、禍いであり破滅だ。もう一つの道は、あまり《人も行かない》が、この分れ道を行くときにこそ、私たちの住んでいるこの地球の安全を守れる、最後の、唯一のチャンスがあるといえよう。とにかく、どちらの道をとるか、決めなければならないのは私たちなのだ”と言っている。四十年まえのこの先見性のある提言を私たちは生かして来なかったのではないだろうか。

沈黙の春』はこれからも環境汚染を、私たちの生き方を鋭く告発し警告を発し続けるだろう。また、『センス・オブ・ワンダー』は、感性を豊かにと願う親やすべての人達へ穏やかで説得力のあるメッセージを送り続けるだろう。破壊と荒廃へ突き進む現代にブレーキをかける役割を担う大切な二冊である。

(かみとお・けいこ レイチェル・カーソン日本協会理事長)

引用元:新潮社

 

著者紹介

レイチェル・カーソル(Carson Rachel)

1907年5月ペンシルヴェニア州生まれ。ペンシルヴェニア女子大学、ジョンズ・ホプキンズ大学に学んだ後、合衆国漁業局(現在の魚類野生生物局)に入る。1962年『沈黙の春』を出版。著書に『潮風の下で』『われらをめぐる海』『海辺』『センス・オブ・ワンダー』がある。1964年4月ワシントン郊外のシルヴァースプリングにて死去。

 

目次

明日のための寓話
負担は耐えなければならぬ
死の霊薬
地表の水、地底の海
土壌の世界
みどりの地表
何のための大破壊?
そして、鳥は鳴かず
死の川
空からの一斉爆撃
ボルジア家の夢をこえて
人間の代価
狭き窓より
四人にひとり
自然は逆襲する
迫り来る雪崩
べつの道

 

参考図書

センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー

 

 

われらをめぐる海 (ハヤカワ文庫 NF (5))

われらをめぐる海 (ハヤカワ文庫 NF (5))

 

 

レイチェル・カーソン―「沈黙の春」で地球の叫びを伝えた科学者

レイチェル・カーソン―「沈黙の春」で地球の叫びを伝えた科学者