フォン・ノイマンの哲学
人間のフリをした悪魔
高橋昌一郎 講談社現代新書
本書は、 ハンガリー出身のユダヤ系科学者で、アメリカで原爆を共同開発し、投下決定に関わり、戦後はコンピューター開発に取り組み、ゲーム理論や気象予測の生みの親となり、1957年に白血病で亡くなったフォン・ノイマン(1903年~1957年)について書かれた評伝です。
フォン・ノイマンの特徴は、数学と量子物理学から始まって、数理分野を中心に150を超える分野を自由自在に行き来した、とてつもない天才であるということです。
本書の構成は、フォン・ノイマンの生涯や業績の概略を紹介し、その後に時代背景なども合わせて彼の業績や哲学をより詳しくまとめています。この構成により、最初に概要を掴むことができますので、その後が読み進めやすいです。
また、数学や科学の用語が頻出しますが、イメージしやすい例を用い、平易な言葉で解説されているので、科学の素養がなくても読めます。ノイマンの私生活にも触れ、天才だけど運動や車の運転は苦手だったりと、人間性がわかる側面も描かれており、楽しく読めます。
本書で印象的だったのは、原爆開発の箇所です。「科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことにしてもだ」というノイマンの言葉は悪魔的に聞こえます。
また、「より悲惨な結末を防ぐため、毒ガス、原爆の使用など非人道的な手段の行使は許容されるべき」という考えには、第二次世界大戦の背景にあったドイツより先に原爆を完成させる必要があり、戦時中ではやむを得なかったのかもしれないが、人類にとっての科学のありかたについて考えさせられます。
出版社の内容紹介
21世紀の現代の善と悪の原点こそ、フォン・ノイマンである。彼の破天荒な生涯と哲学を知れば、今の便利な生活やAIの源流がよくわかる!
「科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなければならない。それがどんなに恐ろしいことにしてもだ」
彼は、理想に邁進するためには、いかなる犠牲もやむを得ないと「人間性」を切り捨てた。
<本書の主な内容>
第1章 数学の天才
――ママ、何を計算しているの?
第2章 ヒルベルト学派の旗手
――君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!
第3章 プリンストン高等研究所
――朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!
第4章 私生活
――そのうち将軍になるかもしれない!
第5章 第二次大戦と原子爆弾
――我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
第6章 コンピュータの父
――ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
第7章 フォン・ノイマン委員会
――彼は、人間よりも進化した生物ではないか?
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ノイマンがいかに世界を認識し、どのような価値を重視し、いかなる道徳基準にしたがって行動していたのかについては、必ずしも明らかにされているわけではない。さまざまな専門分野の枠組みの内部において断片的に議論されることはあっても、総合的な「フォン・ノイマンの哲学」については、先行研究もほとんど皆無に等しい状況である。
そこで、ノイマンの生涯と思想を改めて振り返り、「フォン・ノイマンの哲学」に迫るのが、本書の目的である。それも、単に「生涯」を紹介するだけではなく、彼の追究した「学問」と、彼と関係の深かった「人物」に触れながら、時代背景も浮かび上がるように工夫して書き進めていくつもりである。
――「はじめに」より
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ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。
ノイマンは、表面的には柔和で人当たりのよい天才科学者でありながら、内面の彼を貫いているのは「人間のフリをした悪魔」そのものの哲学といえる。とはいえ、そのノイマンが、その夜に限っては、ひどく狼狽(うろた)えていたというのである。クララは、彼に睡眠薬とアルコールを勧めた。
――第5章「第二次大戦と原子爆弾」より
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人類史上 最恐の頭脳!
著者紹介
高橋 昌一郎(たかはし しょういちろう)
一九五九年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。現在は、國學院大學教授。専門は、論理学・科学哲学。主要著書に『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』などがある。
目次
はじめに 人間のフリをした悪魔
第1章 数学の天才
――ママ、何を計算しているの?
――獅子は爪跡でわかる!
第2章 ヒルベルト学派の旗手
――フォン・ノイマンに恐怖を抱くようになりました!
――君も僕もワインが好きだ。さて、結婚しようか!
第3章 プリンストン高等研究所
――ジョニーはアメリカに恋していた!
――朝食前にバスローブを着たまま、五ページの論文で証明したのです!
第4章 私生活
――ゲーデルを救出すること以上に、重大な貢献はありません!
――そのうち将軍になるかもしれない!
第5章 第二次大戦と原子爆弾
――どうして自分には、彼にできたことが見通せなかったのか!
――我々が今生きている世界に責任を持つ必要はない!
――我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!
第6章 コンピュータの父
――ようやく私の次に計算の早い機械ができた!
――もし彼を失うことになれば、我々にとって大きな悲劇です!
――彼は少し顔を出しただけで、経済学を根本的に変えてしまったのです!
第7章 フォン・ノイマン委員会
――明日爆撃すると言うなら、なぜ今日ではないのかと私は言いたい!
――彼は、人間よりも進化した生物ではないか?
おわりに
参考文献