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読書は脳をどのように変えるのか? プルーストとイカ

プルーストとイカ

     読書をどのように変えるのか?

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

 本書は、小児発達学、認知神経科学の教授で、言語と読字とディスレクシアの研究者であると同時にディスレクシアの子どもを持つ母親でもある著者メアリアン・ウルフが「文字を読む」ことと「脳」の関係について、一般の読者を対象として書いた本です。

まず、人間がどうやって文字を生み、読字能力を手に入れたかの歴史を紐解くところから始まります。著者によれば、そもそも人間の脳は文字を読むためには作られていないということです。読字能力は「遺伝子レベルにはいまだに組み込まれていない」というわけです。だから本来は別の用途に使われていた脳のいろいろな機能を援用して、読むということを可能にしていったとのことです。

文字が読めない、読めても理解できない──。ディスレクシア(読字障害)は、トム・クルーズがこの障害を抱えていたことを告白して注目されました。また、米国では1割を超える人々が程度の差こそあれディスレクシアであるとも言われてます。

文字を読み、理解するという基本的な能力が、自然に身につくものではないことを著者は詳細に書いてます。

人間の子どもがどうやって読字を習得していくかを、ディスレクシア(読字障害)の研究から判明した研究結果を用いながら解説していきます。遺伝子レベルに組み込まれていない以上、すべての子どもは、数千年かけて人類が「文字を読む」という能力を得たのと同じプロセスをたどって、読字を習得するわけです。我々にとっては何気ないことになっている「文字を読む」ということが、これほどダイナミックなものかと感心します。
子どもが文字を読むようになると、脳はシステムを組み替え劇的な変化を遂げるそうです。そして、5歳までにどれだけ文字に親しんだかがきわめて重要だといいます。眠りにつくまでのほんの短いひとときでも、絵本を開いて子どもに読んで聞かせることが良いといいます。そして、それらの事が、その後に永くつづく一生の“読書脳”の発達を決めてしまうそうです。子どもたちには可能な限り豊かな読書体験をさせたほうがよさそうです。
本書の中で著者は意味深なことを述べています。「文字という単なる記号の連なりを読み、意味を理解し、ときには感動できる」ことを「奇跡のような体験」と表現しています。読書の好きな人には是非読んでもらいたい一冊です。 

内容紹介

文字・読書は、脳を劇的に変える!
古代の文字を読む脳から 、ネットの文字を読む脳まで、
ディスレクシア(読字障害)から 、読書の達人まで、
脳科学 x 心理学 x 教育学 x 言語学 x 文学 x 考古学 をめぐり、解き明かす。

**「マーゴット・マレク賞」受賞作、 待望の刊行!**
**邦訳版は「日本語と脳・読字障害との関わり」など、独自のオリジナル・テキストを追補

::主な内容:: 
 ・古代の文字は、どのように脳を変えたのか?
 ・脳は成長につれて、どのように読み方を学ぶのか?
 ・熟達した読み手の脳とは?
 ・ネット・リテラシーの進展によって、何が失われるのか?
 ・ディスレクシアの4つの原因と早期発見の方法・最新教育とは?
 ・英語・外国語はいつから、どのように教えるべきか?
 ・日本語脳・英語脳・中国語脳の違いとは?
 
・・優れた業績により数々の賞を受賞した著者が、その卓抜な成果を凝縮させた1冊

  引用元:インターシフト

 著者等紹介

著者

メアリアン・ウルフ(Maryanne Wolf)
タフツ大学のエリオット・ピアソン小児発達学部教授、読字・言語研究センター所長。専門は認知神経科学、発達心理学、ディスレクシア研究。とくにディスレクシア研究では、国際的な第一人者である。
その優れた業績により、アメリカ心理学会、国際ディスレクシア協会、アメリカ国立小児保健・人間発達研究所などより数々の賞を受賞している。本書も、読字に関する最良図書としてマーゴット・マレク賞を受賞。米・マサチューセッツ州ケンブリッジ在住。日本LD学会によるシンポジウムでも招聘講演(2007年)を行っている。

訳者

小松淳子(こまつ・じゅんこ)
翻訳者。訳書に『インナー・ウォーズ―免疫細胞たちの闘い』(ニュートンプレス)、『グレン・グールド 写真による組曲』(アルファベータ)、『オシムが語る』(集英社インターナショナル)、『別冊日経サイエンス:脳から見た心の世界』、『同:進化する脳』、『同:脳と心のミステリー』(日経サイエンス/共訳)など。

目次

はじめに 
献辞 

Part I 脳はどのようにして読み方を学んだか? 
第1章 プルーストとイカに学ぶ 
文字を読む脳とニューロンのリサイクリング 
口承の文化から文字の文化へ、文字の文化から新たな文化へ 
読み方を学ぶ幼い脳――生後五年間の環境が将来を左右する 
ディスレクシア(読字障害)と情報インテラシー 

第2章 古代の文字はどのように脳を変えたのか? 
“読むこと”の始まり 
人類が初めて口にした言葉? 
文字の起源――シンボルと認知の飛躍的向上 
楔形文字――ロゴシラバリーの登場と脳内回路の拡張 
現代の最先端を既に実践していたシュメールの読字教育 
シュメール語からアッカド語へ 
ヒエログリフが育んだ活発な脳 
竜骨・亀甲・結縄――他の古代書記体系に見られる興味深いサイン 

第3章 アルファベットの誕生とソクラテスの主張 
初期アルファベットとその特徴 
アルファベットの成り立ち 
  口承文化とギリシャ・アルファベットの誕生
  フェニキア語の娘か妹か
アルファベットを読む脳は、優れているのか? 
  第一の主張――アルファベットは効率性であらゆる書記体系を凌いでいる
  第二の主張――斬新な思考を生み出すことにかけてアルファベットに勝るものはない
  第三の主張――アルファベットは音声に対する意識を高め、読字の習得を促進する
ソクラテスはなぜ書き言葉の普及を非難したのか 
  第一の反対理由――書き言葉は柔軟性に欠ける
  第二の反対理由――記憶を破壊する
  第三の反対理由――知識を使いこなす能力を失わせる

Part II 脳は成長につれてどのように読み方を学ぶか? 
第4章 読字の発達の始まり――それとも、始まらない? 
小児期を分ける二つのシナリオ 
第一のシナリオ ――早期リテラシーの大切さ 
  名前の気付きと認知システムの大きな変化
  物語は他人を理解する能力を養う
  書物がもたらす豊かさ
  対象物の命名と文字の音読
  幼児にはいつから文字を読ませたらよいか――早過ぎると逆効果も
  字を書き始めるきっかけ――型破りな規則
  グース・音素の認識と賢いマザー ――音楽的トレーニングの可能性
  幼稚園は読字の前段階を統合する場所
第二のシナリオ ――恵まれない読字環境 
  語彙の貧困と“夕食時の語らい”
  中耳炎が言語発達におよぼす影響
  バイリンガルな脳と外国語学習への準備

第5章 子どもの読み方の発達史――脳領域の新たな接続 
私の“マドレーヌ”を探して 164
文字を読む発達のプロセス ――それは奇跡のような物語 
読字発達にかかわる五つのタイプ 
まだ文字を読めない子ども 
読字初心者の段階 
  音韻・音素の認識の発達
  自動化できるようになる表象への変換
  “虫”がスパイになれる! 読字初心者の語意味の発達
    意味の理解――読字指導における最大の誤り
    意味を引き出す力、文脈を把握する力
    意味の多義性への理解
  読字初心者の脳――単語解読の基盤
“解読に取り組んでいる読み手”の段階 
  “サイト・ワード”と“サイト・チャンク”が重要
  “解読”から、“流暢な読み” の段階へ
  与えられた情報を踏み越え、考える時間が始まる
  感情は読解力を伸ばす

第6章 熟達した読み手の脳 
アメリカの子どもの四〇パーセントは“学習不振児” 
“流暢な解読者”から“戦略的な読み手”へ 
  皮質の旅――脳の経路の切り替え
熟達した読み手の脳とは? 
  500ミリ秒までのあいだになされること
    最初の0ミリ秒〜100ミリ秒――注意の神経回路網の方向付け
    50ミリ秒〜150ミリ秒――文字の認識・セル、アセンブリとサッカードの働き
    100ミリ秒〜200ミリ秒――文字と音、綴りと音素の接続
    200ミリ秒〜500ミリ秒――意味ネットワークの活性化
  意味知識と語形情報の連携
  熟達した読み手の脳では、言語システムが大活躍する

Part III 脳が読み方を学習できない場合 
第7章 ディスレクシア(読字障害)のジグソーパズル 
ディスレクシアを見直す 
ディスレクシアになる四つの原因 
  第一の原理――古くからある構造物の欠陥
  第二の原理――自動性獲得の失敗(処理速度の不足)
  第三の原理――構造物間の回路接続の障害
  第四の原理――異なる読字回路の使用
  厄介な原理――言語によって異なる、障害の表れ方
遺伝子原因説の検討 
ディスレクシアの歴史からわかること 

第8章 遺伝子と才能とディスレクシア 
エジソン、ダ・ヴィンチ、アインシュタインもディスレクシアだった 
複数の遺伝子座の関与 

第9章 結論――文字を読む脳から“来るべきもの”へ 
“より多く、より速い”はよいことか? 
オンライン・リテラシーの進展によって何が失われるのか? 
知的潜在能力を伸ばせているか? 
“超越して思考する時間”という贈り物 
読者へ――最後に考えていただきたいこと 

謝辞 
転載の許諾 
注・参考文献 
解説(本書出版プロデューサー 真柴隆弘)