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日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実ー凄惨な体験は何を語るのか

日本軍兵士

ーアジア・太平洋戦争の現実

吉田 裕

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

本書によると、アジア・太平洋戦争で亡くなった310万人の日本人のうち、80万人が民間人で、230万人が軍人・軍属です。その230万人のうち、戦闘で亡くなった兵士よりも、餓死や栄養失調による衰えと感染症等で死亡した兵士の方がはるかに多かったといいます。また、アジア人2000万余の犠牲をもたらしました戦争を美化することは絶対に許されない。

 本書は、近現代史、戦争史を専攻する著者ならではの力作です。そして、著者による調査、生存兵士の証言、公文書などの膨大な資料に基き兵士の置かれていた状況が詳細に描かれてます。

また、著者は次の三つの問題意識から本書を描いています。それは、戦後歴史学を問い直すこと、「兵士の目線」で戦場をとらえ直してみること、帝国陸海軍の軍事的特性との関連を明らかにすること、の三点です。そして、三つの問題意識を重視しながら「凄惨な戦場の現実」を歴史学の手法で描き出しています。

本書では、アジア・太平洋戦争を四つの時期に分けて、その中でも最も被害が多かった1944年8月から終戦に至る時期を「絶望的抗戦期」(310万に及ぶ日本人犠牲者の9割が1944年以降と推察される)として、その時期の日本軍兵士の実態を詳細に描かれてます。

当時の日本軍が精神主義的で暴力がはびこる場だったのは推察できましたが、歯科医療の貧弱さや、疲労を取るための覚せい剤への依存、部隊の足手まといになった傷病者の殺害、戦後も従軍中の病気等の副作用に苦しんだ人がいたということなどは、本書を読んで初めて知りました。
昨今、憲法第九条を改正を主張する人のなかには、戦争をできる体制を作ろうとする人たちがいます。そして、このような人たちは、自分たちは安全な場所にいて兵士に命令を下す立場を前提にしているようにみえるのですが、立場を変えて、消耗品として扱われる兵士の身でも戦争に賛成できるかを考えてみる必要があると思います。

本書は、戦争の凄惨な実態、無能な指導者がいかに大きな悲劇を人に強いるのかがよくわかります。そして、また悲劇を繰り返さないためにも是非多くの人に読んでほしい本です。

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内容紹介

310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏......。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を描く。アジア・太平洋賞特別賞、新書大賞受賞。

引用元:中公論新社

 著者紹介

吉田 裕(よしだ・ゆたか)

1954(昭和29)年生まれ。77年東京教育大学文学部卒。83年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。83年一橋大学社会学部助手、助教授を経て、96年より一橋大学社会学部教授。2000年より一橋大学院社会学研究科教授。専攻・日本近現代軍事史。日本近現代政治史。

目次

はじめに

序章 アジア・太平洋戦争の長期化(行き詰まる日中戦争
長期戦への対応の不備―歯科治療の場合 ほか)
第1章 死にゆく兵士たち―絶望的抗戦期の実態1(膨大な戦病死と餓死
戦局悪化のなかの海没死と特攻 ほか)
第2章 身体から見た戦争―絶望的抗戦期の実態2(兵士の体格・体力の低下
遅れる軍の対応―栄養不良と排除 ほか)
第3章 無残な死、その歴史的背景(異質な軍事思想
日本軍の根本的欠陥 ほか)
終章 深く刻まれた「戦争の傷跡」(再発マラリア―三〇年以上続いた元兵士
半世紀にわたった水虫との闘い ほか)

あとがき

参考文献

アジア・太平洋戦争 略年表

 

 

参考図書 

 

 

 

  

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