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日本海軍400時間の証言ー軍令部・参謀たちが語った敗戦ー

日本海軍400時間の証言

   軍令部・参謀たちが語った敗戦

  NHKスペシャル取材班 新潮文庫

 

 

本書は、 戦後、海軍関係者によって100回以上に渡って行なわれた「反省会」の録音テープを元に構成されたNHKの番組を、その制作経過を含めて書籍化したものです。
これまで、東京裁判との関係などのいくつかの理由で表に出てくることのなかった、当事者たちの真実を語る証言によって初めて明らかにされた戦争の実態は驚くべきものです。
番組は3部構成だったため、本書も大きく3つのパートに分かれています。反省会を録音したテープとの出会いの経緯を説明した1章に続く2章では開戦に至る経緯が取り上げられています。
海軍は海軍という組織のことしか考えず、「日米戦争に備えるため」を理由に予算を確保し、軍備を増強してきた手前、陸軍から「アメリカと戦争できないのか」と問われたときに「できない」とは言えず、海軍自身が開戦を主張せざるを得なくなった経緯が語られています。こんな理由で開戦に至ったのかと思う反面、真実は往々にしてこんなところにあるかもしれないとも思った。


海軍の体制についても驚くべき事実が書かれています。開戦と同時に一気に勢力範囲を中国、東南アジアから太平洋の島々まで拡げた後も、作戦立案は平時と同じわずか10人で行なっていました。これで補給も含めた綿密な計画を立てるのは不可能なはずで、補給を一切考えない無謀な作戦にはこのような背景があったことを知り、これで勝てるわけかないと思うと同時に、そんな指導部の元で悲惨な戦いを強いられた兵隊たちが可哀想でならないです。

第3章と4章では特攻を取り上げています。特攻を考え、推し進めたのは誰なのか?通説では、フィリピンにあった第一航空艦隊司令長官の大西中将ということになっているが、ゼロ戦による特攻が始まる前に回天などの特攻兵器をすでに開発していたというのである。軍首脳部の責任逃れのために大西中将に責任を押し付けたとも取れるが、これは次の戦犯裁判の話に繋がっていきます。

第5章の「戦犯裁判」では、海軍の上層部が一切罪に問われず、現場指揮官や下級兵に罪が押し付けられたのは、天皇が戦犯とされるのを避けるためであり、上層部の罪を認めてしまうと、彼らに形だけとは言え承認を与える立場にあった天皇にも責任が及ぶ可能性があり、海軍全体が口裏を合わせて上層部が有罪になるのを避けたからだと知りました。天皇の護持が戦争終結の絶対条件だったので驚きはしませんが、それによって単に上官の命令に従っただけの多くの下級兵が死刑に処せられたことは中々納得できるものではないです。また、この章の中で、捕虜や台湾の現地住民の虐殺を日本軍が行なっていたという証言があり、これにはかなりのショックを受けました。規律の正しさで有名な日本軍においても、戦時下ではそのようなことが起きるのかと、戦争の悲惨さを思い知らされました。

エピローグで東日本大震災による福島原発事故を取り上げ、原発安全神話ご形成される段階でも「やましき沈黙」があったのではないかと指摘しています。本書および元となったNHKスペシャルのテーマである「現代社会に通じる組織の問題点」そのものです。

 内容紹介

軍令部に在籍したかつての参謀を中心として戦後に開かれた「海軍反省会」。その録音が現存することが判明し、NHKスペシャルの企画はスタートした。発掘された元エリート軍人たちの赤裸々な発言が、開戦の真相、特攻作戦に至る道程、東京裁判の裏面史を浮かび上がらせる。やがて、彼らの姿は現代に生きる我々と重なってゆく。同名番組取材班6名による、渾身のノンフィクション。

 

太平洋戦争の本当の“戦犯”は誰なのか?彼らは何のために戦争を始めたのか?「伝えられている歴史があまりにも事実と違う」―戦後、日本海軍中枢のエリート、約40人が密かに集まり、語り合っていた内容が400時間分ものテープに残されていた。その告白をもとに、遺族、関係者への徹底した取材を行い、明らかになった驚愕の昭和秘史。

 

昭和55年。東京・原宿にある旧海軍将校のOB団体「水交会」に、日本海軍の中枢にいたエリートたちが集まった。元大尉から中将まで、参加者はのべ40人。月1回の会合は「反省会」と呼ばれ、平成3年まで130回以上、開かれた。「戦争の真実を語り残す」という目的のもと、「門外不出」を条件に、会はすべて録音されていた。開戦を巡り陸軍と海軍では水面下でどのような動きをしていたのか、特攻作戦の本当の発案者は誰でどのような理由で決行されたのか、戦後の東京裁判で海軍軍人を守るために、海軍はどのような手をうったのか----など、幅広いテーマが議論されたのである。録音されたテープは計400時間。時には出席者間で激論を交わし、戦時中は雲の上の存在だった上官に真実を厳しく追及する場面もあった。この貴重な記録を基に、証言者、その遺族、関係者や史・資料など、広範な関連・裏付け取材を行い、埋もれていた太平洋戦争の裏面史に光をあてる。

出版社からのコメント

2009年8月、3夜連続で放映されたNHKスペシャル『日本海軍400時間の証言』。あの戦争は誰が何の為に始めたのか? 海軍とはどのような組織だったのか? なぜ、"特攻"という無謀な作戦を考えたのか? 海軍中枢にいた当事者たちの告白記録は、大変な反響を呼びました。番組は、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞(2010年度)など、数々の栄誉に輝きました。本書は、放送された番組内容に加え、未放送となった取材内容を網羅し、番組が誕生するまでを克明に記したドキュメントです。衝撃の史実に向き合ったスタッフの苦悩や苦闘、そして一つでも多くの真相に迫ろうとする意欲。「あの戦争を二度と繰り返さないために」、番組スタッフが闘った魂の記録です。

目次

プロローグー藤木弘達
第1章 超一級資料との出会いー右田千代
第2章 開戦 海軍あって国家なしー横井秀信
第3章 特攻 やましき沈黙ー右田千代
第4章 特攻 それぞれの戦後ー吉田好克
第5章 戦犯裁判 第二の戦争ー内山拓
エピローグー小貫武

文庫版のためのあとがき

執筆者プロフィール 

 参考図書

 

[証言録]海軍反省会

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日本海軍と政治 (講談社現代新書)

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NHKスペシャル 日本海軍 400時間の証言 DVD-BOX

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 関連サイト

日本海軍、論理的に選択した致命的ミス|日経BizGate


https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3397215008082018000000 
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NHKスペシャル | 日本海軍 400時間の証言第一回開戦 海軍あって国家なし


https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20090809 
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