あの戦争になぜ負けたのか
文春新書
本書は、半藤一利氏(作家)、保坂正康氏(ノンフィクション作家)、中西輝政氏(京都大学教授)、戸高一成氏(呉市海事歴史科学館長)、福田和也氏(文芸評論家、慶応義塾大学教授)、加藤陽子氏(東京大学助教授)という六人の人たちの対談の第一部「あの戦争はなぜ負けたのか」と、第二部「あの戦争に思うこと」の二部で構成されてます。
第一部は半藤氏が最年長で「文藝春秋」の編集長でもあったことから司会者的存在として話を進めていき、8つの観点から日本の敗因を探る。敗因はそれぞれを深く追求するのではなく、考えられることをみんなからどんどん挙げてもらうという形にしています。第二部は座談会が終わった後に言い足りなかったことやテーマにはならなかったが重要な視点を付け足す形で出席者がそれぞれ書いたことを載せています。
太平洋戦争で体験した悲惨から平和の尊さを学ぶのは当然として、われわれの先祖がなぜかくも無謀な戦いに突入したのか、多方面からの分析がなければ反省を現在に生かすことができない。
本書にはその点に関して有益な情報が満載されており、その中のいくつかは多くの人を目から鱗が落ちる思いにさせます。太平洋戦争の悲惨をより大きくした要因は、重大な判断を下すべき局面で、正確な情報と正しい論理を置き去りにして、曖昧で情緒に流された、希望的観測に基づく判断を繰り返してきたことによるものです。
われわれにとって他人事でないのは、同様のメカニズムが根っこのところで現在の日本にも、生きているということです。すでに情緒的な日本人に必要なのは、情緒ではなく、正確な情報をもとに、論理的に、正しく判断できる能力を身につけることだと思う、その意味では、本書はあの戦争での失敗を現在の教訓にするための良書です。
内容紹介
「対米戦争の目的は何だったのか」、「陸軍エリートはどこで問違えた」等、戦後六十余年、「あの戦争」に改めて向き合った六人の論客が、参戦から敗戦までの疑問を徹底的に掘り下げる。「文藝春秋」読者賞受賞。
担当編集者より
「文藝春秋」2005年の読者賞を受賞した座談会が新書として登場。対米戦争の目的は何だったのか? 陸軍エリートはどこで間違えた? その他、特攻、玉砕、戦艦大和など、20世紀日本最大の失敗を、最高のメンバーが論じつくしました。詳しい注が付いているので、歴史をあまり知らない人でも大丈夫。「あの戦争」をもう一度考え直してみるうえで、格好の導入書となりました。(KY)
著者紹介
半藤 一利(はんどう・かずとし)
1930(昭和5)年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」編集長、「文藝春秋」編集長、専務取締役等を歴任。『漱石先生ぞな、もし』(新田次郎文学賞)『ノモンハンの夏』(山本七平賞)ほか、著書多数
保阪 正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年生まれ。ノンフィクション作家。「昭和史を語り継ぐ会」主宰者。同志社大学文学部卒業。近現代史をテーマとする作品を多数発表。平成16年、菊池寛賞受賞
中西 輝政(なかにし・てるまさ)
1947(昭和22)年生まれ。京都大学総合人間学部教授。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。主な著書に『大英帝国衰亡史』(毎日出版文化賞)等
戸高 一成(とだか・かずしげ)
1948(昭和23)年生まれ。呉市海事歴史科学館館長。多摩美術大学美術学部卒業。国立公文書館アジア歴史資料センター委員、総務省一般戦災データベース委員等
福田 和也(ふくだ・かずや)
1960(昭和35)年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授。文芸評論家。慶應義塾大学文学部卒業。主な著書に『日本の家郷』(三島由紀夫賞)『甘美な人生』(平林たい子文学賞)『地ひらく』(山本七平賞)等(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
加藤 陽子(かとう・ようこ)
1960(昭和35)年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。著者に『徴兵制と近代日本ー1868-1945』『戦争の日本近現代史』等がある。
目次
第1部 座談会・あの戦争になぜ負けたのか
1 対米戦争の目的は何だったのか
2 ヒトラーとの同盟は昭和史の謎
3 開明派・海軍が持つ致命的欠点
4 陸軍エリートはどこで間違えた
6 新聞も国民も戦争に熱狂した
空しかった首脳会議 半藤一利
八月九日の最高戦争指導会議 保坂正康
私の太平洋戦争観 中西輝政
果たされなかった死者との約束 戸髙一成
戦わなかった戦争から学ぶこと 福田和也
戦争を決意させたもの 加藤陽子
参考図書