ヒトは「いじめ」をやめられない
脳科学者 中野 信子 小学館新書
本のタイトルが、ヒトは「いじめ」をやめられない、という刺激なことと、著者に魅かれて手に取りました。ショッキングなタイトルですが、「いじめ」という課題に、真剣に向き合っています。
この本を読むまえに、いつの時代でも、いじめは無くならないと思っていました。そして、本書を読んで、その原因のひとつが、人間という生物種が、生存率を高めるためにために、進化の過程で身につけた「機能」であると指摘されて、少しは納得しました。
本書は、決していじめを肯定しているわけではなく、いじめをなくすことがいかに困難であるかを科学的観点から解説し、より効果的な回避策を具体的に示しています。
ヒトにとって「いじめ」は、「生存戦略」であり、「快感」である。だから、なくなることはない。学校でいくら「いじめはよくない」「相手の気持ちを考えよう」と子どもたちに諭しても、そもそも子どもの脳は「共感」という領域が未発達なので、効果が見込めない。
大人の世界でも、男性は「派閥」を作りたがり、女性は「グループ」を作りたがる。そして仲間意識が高まるがために、排除行為、制裁行動が行われてしまう。いじめを起こさせないためには、「自分が誰かをいじめると、自分が損をする」というシステムを構築することが必要である。
内容紹介
学校だけでなく、企業やママ友グループ、スポーツチーム、地域コミュニティーといった集団の中で必ず起こりうる現象が“いじめ"だ。なぜなら、いじめという行為は、種を保存するための本能に組み込まれているから……。
脳科学者である著者は、いじめをなくすことより、この本能をどのようにコントロールするのかという方向に、いじめの回避策が見いだせる、と説いている。
本書は刺激的なタイトルではあるが、自身を客観視する能力である「メタ認知」を高め、自分のとるべき言動を判断して適度な距離を保ち、互いに傷つけ合わない“60%の仲"を目指すことや、相手に腹を見せる「アンダードッグ効果」の有効性などを指南。脳の性質やいじめの行動について、科学的な理解を深めながら読み進められる。
「子供のいじめ撲滅」に向けて、大人たちが尽力してる一方で、大人社会でも「パワハラ」「セクハラ」などによる事件が後を絶たない。このことは、「いじめは本来人間に備わった”機能”による行為ゆえ、なくすことは難しい」という一面があることを、脳科学者である著者は指摘します。
ならば、いじめに対するアプローチ法を変えて、その回避策を考えていくことが、良好な人間関係を維持するための最善策であるという。
本書では、子どもの仲間はずれやシカト、大人のパワハラ、セクハラなどの世代を問わない「いじめ」について、どのように防止・対応していけばよいのか、脳科学の観点から得たヒントが随所に有ります。
著者紹介
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、ニューロスピン博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授。著書に「心がホッとするCDブック」(アスコム)、「サイコパス」(文藝春秋)「脳内麻薬」(幻冬舎)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。
目次
はじめに
第一章 いじめの快感ー機能的・歴史的から考える(いじめのメカニズム)
第二章 いじめに関する脳内物質(オキシトシン、セロトニン、ドーパミン)
第三章 いじめの傾向を脳科学で分析する(いじめられやすい人の特徴、いじ
めがより深刻化するとき、男女のいじめの違い、学校現場のいじめの
現状)
第四章 いじめの回避策(大人のいじめの回避策、子どものいじめの回避策、
教育現場における環境的回避策)
主要参考文献
参考図書
関連サイト
「ももクロ」でいじめが起こりにくい理由 中野信子氏が分析|NEWSポスト ...
https://www.news-postseven.com/archives/20171010_619712.html