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お薦めの本を紹介します

元号「令和」に関する一節が収められている「万葉集」

    万葉集

   全訳注原文付(一)

中西 進  講談社文庫

万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

 

 

突然の万葉集ブームの中、令和の考案者と言われる中西進氏の書かれたものです。
ちなみに、この第1巻目の377ページが、該当箇所です。

    梅花の歌三十二首併せて序

天平二年正月十三日に、帥(そち)の老(おきな)の宅(いへ)(あつ)まりて、宴会を申(ひら)く。時に、初春(しょしゆん)(れいげつ)にして、気淑(よ)風く(やはら)ぎ、梅は鏡前(きやうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)(はいご)の香(かう)を薫(かをら)す。

[原文]

梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香

[訳]

天平二年正月十三日に、長官の旅人宅に集まって宴会を開いた。時あたかも新春の好き月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の如きかおりをただよわせている。

 

この序文は天平2年1月13日大宰帥大宰府の長官)である大伴旅人の、大宰府政庁近傍にある邸宅で催された宴の様子を表しており、「梅花の宴」とも呼ばれる。大伴旅人の邸宅は政庁の北西、現在の坂本八幡宮(現・福岡県太宰府市)付近と考えられている。

本書は、文庫で原文を載せているものは他にないので、最大の長所です。

言うまでもなく、万葉集は万葉仮名で書かれている。とは言っても、一音一文字ではなく、現代語が漢字とかな文字で書かれるのと同じく、漢字が意味を表わす場合と音を表わす場合がある。それをどう読むかが研究者により分かれる歌がある。また、読み方で意味の解釈が大きく異なることもある。頻出する記法に「将念」があるが、ある注釈者は「思はむ」と読み、別な注釈では「思ふらむ」である。同じく「不念」は「思はず」と「思はじ」の訓がある。

万葉集の解釈は鎌倉時代の仙覚に始まり、江戸の賀茂真淵、本居宣長ら、明治以来の学者たちが試みたが、未だに意見の一致を見ない歌も多い。未だに新しい解釈の仮説が登場する。添付された現代語訳にこだわる必要がない。原文が載っていることが大切なのです。

万葉集巻一の巻頭を飾るのは雄略天皇の御製です。

篭(こ)もよ み篭持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串持ち この岳(をか)に 菜摘ます児 家聞かな 名告(の)らさね そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居れ しきなべて われこそ座(ま)せ われこそは 告らめ 家をも名をも

本書に記載の原文は以下のとおり。

篭毛與 美篭母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑 名告紗根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師吉倍手 吾己曽座 我許曽者 告目 家呼毛名雄母

本書は西本願寺本を底本とするが、上記の「我許曽者」は底本に「我許背齒」とあるのを著者が誤記として訂正したと注釈にある。ちなみに、岩波の新大系、小学館の新編全集はいずれも底本に従い「われこそば」と濁音で読んでいる。


本書は万葉集の巻一から巻五までを収める。巻五の最後に長歌一首とその反歌二首がある。山上憶良の作と伝えられる。本書の解説によると事実を歌ったものではなく、創作だろうと言う。反歌の一つを記す。

稚(わか)ければ道行き知らじ賄(まひ)はせむ黄泉の使負ひて通らせ

これを読んで涙しない人はいないと思う。幼子を失った父親の歌である。幼いので黄泉の国へ行く道を知るはずがない。御礼をするから、どうか背負って連れて行ってくれ。という意味である。創作であったとしても、やはり人の心を打つからこそ、選者が載せたのだろう。


本書は、読み下し文と原文(漢文、万葉仮名)と、現代語訳を、一つのページに織り込んでいて、分かりやすいです。

 

 内容紹介

新元号の由来となった万葉集のすべてがわかります――中西進

『万葉集』は日本人の心の古典であり、貴族から庶民に至る各階層が、見事に謳いあげた、世界に比類なき民族詩の金字塔である。
いま、その万葉を、原典との照応が一目理解できるよう、原文、読み下し文、全訳、語注をそろえ、万葉学の第一人者である中西進博士がその蘊蓄を傾けて贈る。〈全4巻別巻1巻〉

編者

中西 進(なかにし・すすむ)

1929(昭和4)年東京生れ。東京大学大学院修了。文化功労者。1963年刊行の『万葉集の比較文学的研究』により読売文学賞、日本学士院賞受賞。日本文化の全体像を視野に納めた研究・評論活動で知られ、和辻哲郎文化賞、大佛次郎賞など受賞。『古代日本人・心の宇宙』『日本人の忘れもの』『ことばの風景』『中西進と読む「東海道中膝栗毛」』『中西進著作集』など著書多数。「万葉みらい塾」を開き万葉集の魅力を小中学生に教える。日本ペンクラブ副会長。

目次

凡例

解説

 一 書名

 二 成立

 三 構成

 四 表現の方法

 五 時代

 六 特質

 七 研究史

巻第一

巻第ニ

巻第三

巻第四

巻第五

参考図書

万葉集 全訳注原文付 4冊セット

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万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

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万葉の秀歌 (ちくま学芸文庫)

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万葉集事典 (講談社文庫)

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