陸軍特別攻撃隊 1
高木 俊朗 文春学藝ライブラリー
本書は、実際、現地に行って取材した軍事報道員である著者が、体験した事を基にして書かれた本です。当時、どのようにして特攻が行われていたかが克明に描かれています。
著者は昭和20年の沖縄作戦で陸軍の特攻隊基地だった鹿児島の知覧飛行場で特攻隊の報道に当たっていました。そのとき陸軍特別攻撃隊のことを書き残すべきだと思いましたが、敗戦後の混乱と深刻な生活の中では調査などはしておられず、それから29年たって、この本が刊行されました。
本書に出てくる、隊員たちは戦争狂いなんかではなく家族を愛し精一杯生きた人たちばかりで、こんな人たちを死なせてしまった戦争がとても愚かなことに感じられます。その隊員たちに命令していた上官たちは偉そうに命令するばかりで、戦争が終わったら責任を取らず、生き延びてしまう。何か失敗が有っても誰も責任を取らない今の日本社会はこのころとまったく変わっていないということを感じてしまいます。その中で一人の隊員(佐々木友次伍長)が自らの主張を貫き特攻死せず生き延びて帰還するの救いです。
本書では、体当たり攻撃が効果がないにも関わらず、参謀本部のたくらみで効果を誇張して宣伝し、特攻の実施計画を作り推進していった経緯を明らかにしてます。その例が、魁となった富嶽隊や万朶隊の隊員が、特攻用に改造された体当たり専用機に乗せられ、命令なのに志願したことにして、上層部へ責任が上がらないようにして戦死させられたことです。
以下、本書で印象に残ったところを挙げてみます。
「元来、陸軍の爆弾は、地上の攻撃に効果のあるように作られている。ことに、人馬殺傷のために、爆弾は早くこわれるようになっている。艦船を目標に爆撃演習をした時、陸軍の爆弾は、甲板に当って爆発する前に、弾体がこわれて黄色火薬が散乱してしまったほどであった。これでは、艦船の攻撃に使っても、効果のないのは当然であった」(22頁)。
「陸軍のえらい人は航空を知らない。歩兵の頭で考えるから、歩兵の突撃と体当りを同じことにしてしまう。これは陸軍の大きな欠点だな」(48頁)。
「ろくな兵器も作らない、その解決を、体当り攻撃に求めたことは、福島大尉にも、岩本大尉にも、許しがたい無責任としか考えられなかった」(162頁)。
「土井中佐は第三戦隊の白鉢巻を見て、まずいと思った。白鉢巻をする気持では、飛行機のような精密機械の操作はできないからであった。 ・・・ 土井戦隊長は、また、まずいと思った。<白鉢巻をした上に、皇居遥拝をしたのでは、隊員が堅くなるばかりだ。そうでなくても、初陣で、気持があがっている。もっとほぐしてやらないと、あぶないぞ>」(196頁)
「真珠湾の特殊潜航艇は、たかだか五隻の一小部隊である。それを主力の母艦航空隊を上回る報道をした。そればかりでなく、有力な勝利の戦術であるかのように伝えた。このため、元来、特攻を喜ぶ国民は、一層、これを歓迎し、期待するようになった」(357頁)。
「その結果、特攻攻撃が実力以上に評価され、過信されることになった。たちまちのうちに、これは万能絶対の威力をもつかのように思いこまれることになった。そして特攻隊が出さえすれば、勝利を得られるかのような、考え違いをおこさせた。こうしたことが、特攻隊の悲劇をさらに大きくさせる原因となった」(532頁)。
内容紹介
陸軍特別攻撃隊の真の姿を描き、鴻上尚史氏『不死身の特攻兵』に大きな影響を与えた菊池寛賞受賞作・全三巻。
陸軍特別攻撃隊の真実の姿を、当事者への膨大な取材と、手紙・日記等を通して描き尽くした記念碑的作品。なぜ現場の反対を押し切って、体当たり攻撃が決定されたのか。“死の触角”を持つ特攻機の実態は。最初の特攻隊「万朶隊」「富嶽隊」隊員らの行動と苦悩とは。菊池寛賞受賞作。(全3巻)
著者紹介
高木 俊朗(たかぎ・としろう)
1908(明治41)年‐1998(平成10)年。東京生まれ。1933年早稲田大学政治経済学部卒。松竹蒲田撮影所に入社。42年陸軍航空本部の映画報道班員として、マレーシア、インドネシア、タイ、仏印、ビルマなどに従軍。45年鹿児島県の知覧航空基地に転属。特攻隊員たちの苦悩に触れ、戦記作家として執筆活動をはじめる。54年映画「白き神々の座―日本ヒマラヤ登山隊の記録」(演出)でブルーリボン賞受賞。75年『陸軍特別攻撃隊』で菊池寛賞受賞。主な著書に『インパール』『抗命』『噴死』『全滅』『知覧』『戦死』『狂信』などがある。
目次
眠り草と特攻隊員―序章
死の触角
機動部隊のゆくえ
最初の陸軍特攻隊
永別の時
レイテ湾総攻撃
行く人送る人
体当り計画の発端
生還の秘策
岩本隊長は出発せしや
富嶽隊第一撃
消えた懐剣
万朶隊出撃
最初の生還
参考図書
不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)
- 作者: 鴻上尚史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: 新書
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