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お薦めの本を紹介します

渋沢栄一と資本主義

  渋沢栄一 

     上 算盤篇

       鹿島 茂  文春文庫

渋沢栄一 上 算盤篇 (文春文庫)

渋沢栄一 上 算盤篇 (文春文庫)

 

  

 渋沢栄一は、武蔵国榛沢郡血洗島村(現埼玉県深谷市血洗島)の豪農の家に生まれ長じて討幕志士の仲間に入ったが、心ならずも一橋慶喜に仕え武士となって幕末に慶喜の弟、徳川昭武の付き人としてパリ万博に参加する日本使節団の一員として渡仏します。


 渋沢がフランス滞在時期がナポレオン三世統治下の大改革時期であったことから国家システムというものの理想を、明晰な頭脳と眼力からたった一年半という短い期間に理解してしまいます。渋沢にとってまだまだ学びたいこともあったようでしたが、幕府政権が崩壊した報せがきたため昭武とともに急遽帰国することになってしまいます。


 その後静岡藩にて慶喜に仕えていたが明治新政府の要請で大蔵官僚として辣腕を振るうことになります。討幕を成し遂げた薩摩や長州から明治新政府の要職に就く人材は意外と少なく、旧幕臣に逸材が多く登用せざる終えなかったことが本書で再認識できます。前島密、杉浦愛蔵の二人は、もと渋沢の同僚であり、咸臨丸で渡米した赤松典良、二度までも渡欧使節団に加わった塩田三郎などはいずれも幕臣でした。その他、幕臣だった多くの逸材が維新後新政府で才能を活かして貢献したことはあまり知られていません。


 明治になってから新政府が幕政時代に功績のあった人物などを曲解したり、その功績なども歴史から消し去ってしまった事例も多くあります。
 本書では、渋沢がフランスで学んできた合本主義(サン・シモン主義)こそ近代国家建設に欠かせないシステムだとの信念に駆られ孤軍奮闘する姿が詳細に記述されています。巻末に、独占資本家の岩崎弥太郎と合本主義こそ理想だと主張する渋沢との死闘は、読んでいても興味が尽きることがありません。


 明治維新後に、渋沢栄一という巨人が日本に存在していたことが、如何に日本にとって幸いだったかを、本書を読了して知ることが出来ました。


 本書中「元勲たちの素顔」の章で渋沢が維新の三傑などの人物評価をしています。維新三傑の中でもっとも評価していたのが以外にも西郷隆盛でした。
 議論や論理よりも情や誠などの徳に価値を置く西郷と理詰めに考える性質の渋沢では、水と油で会うわけないという気がしますが、事実は、これと異なります。西郷と身近に接したことのある渋沢は、司馬遼太郎のいう「感情量の大きさ」にやはり圧倒されるものがあったようです(本書P353より)。渋沢は、西南戦争後、西郷の「仁愛」の深さから部下や門弟にたいして自己犠牲から遂に其の身を過らるゝに到つた、と語りながら西郷を惜しんでいます。


 渋沢の大久保利通にたいする評価は思いのほか低いです。大久保は、財政というものに疎いのにもかかわらず高圧的に自論を押し通すという不快な人物と評しています(本書P361)。その他、人事能力にたけた木戸孝允や自我を押し通す江藤新平などの人物評価も興味深く読めます。


 著者がフランス文学と歴史に通じていることから精査しながら書かれた本書は誠に素晴らしいです。

 内容紹介

あらゆる日本の近代産業の創設にかかわりながらも、後半生を社会貢献に捧げた生涯。日本人に資本主義のあり方を問い直す1冊です。

豪農の家に生まれた渋沢栄一は、一橋(徳川)慶喜に仕え武士となり、慶喜の弟・徳川昭武とパリ万博への参加を命じられる。そしてパリの地で「資本主義のシステム」の本質を見抜く。幕府が崩壊したためやむなく帰国、不本意ながら仕えることになった新政府で、「円」の導入など金融政策に次々関与する。明治六年、本当の国力をつけるためには民間の力が必要だと考えた渋沢は、大蔵省を辞め、「民」を育成するための生涯を送ることになる。


ドラッカーも絶賛した近代日本最高の経済人。彼の土台となったのは、論語と算盤、そしてパリ仕込みの経済思想だった。鹿島茂が描く!

著者紹介

鹿島 茂(かしま・しげる)

1949(昭和24)年横浜市生まれ。東京大学大学院修了。共立女子大学教授を経て、明治大学教授。専門は19世紀のフランス文学。91年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、2004年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。

目次

まえがき

第1章 渋沢なくして日本の奇跡はなかった

近代的資本主義へのジャンプ;武士にならなかった父 ほか
第2章 パリで西洋文明の本質を見抜く

「産業皇帝」ナポレオン三世の演説;フリュリ・エラールとの出会い ほか
第3章 大蔵官僚として「円」を造る

慶喜との再会;最初の「株式会社」商法会所 ほか
第4章 日本の資本主義を興す

「私」を結集せよ;三井入りを断る ほか

参考図書

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

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雨夜譚―渋沢栄一自伝 (岩波文庫)

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渋沢栄一――社会企業家の先駆者 (岩波新書)

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 関連サイト

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https://www.excite.co.jp/news/article/AllReview_00003104/ 
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2019/04/10 - 渋沢栄一上算盤篇』(文藝春秋)著者鹿島茂◇まえがき――渋沢栄一ドラッカーとサン=シモン主義ともう五、六年前のことになるだろうか、六本木ヒルズに住む若きリッチマン、リッチウーマンを集めて座談会をや...
 
 
渋沢栄一は1840(天保11)年2月13日、現在の埼玉県深谷市血洗島の農家に生まれました。 家業の畑作、藍玉の製造・販売、養蚕を手伝う一方、幼い頃から父に学問 の手解きを受け、従兄弟の尾高惇忠から本格的に「論語」などを学びます。 「尊王攘夷思想 ...
 
 

渋沢栄一こそ近現代で最強の経済人 500もの企業機関設立に携わる ...


https://bushoojapan.com/tomorrow/2019/02/13/69975 
 › 日本史データベース › 明治・大正・昭和時代
 
2019/04/14 - 天保十一年(1840年)2月13日は、元幕臣で後に官僚や実業家になった渋沢栄一の誕生日です。 概要だけでも結構スゴイ感じですが、詳しく見ていくとますますそのスゴさが身にしみてきます。 早速見ていきましょう。 目次 [とじる]. 勤皇派だった ...