明治維新とは何だったのか
世界史から考える
本書は、 博学の二人が、幕末から明治にかけての人物について対談し、何故、日本の文明開化が上手くいったのかについて説明し、ひいては、第二次世界対戦の敗北への道に繋がっていくことが分かる良書です。
本書の内容は半藤氏の従来の主張である「反薩長史観」(明治維新は薩長により美化された)に、出口氏の世界史的視点を追加して、明治維新を見直すものとなってます。以下、印象的に残った内容を説明します。
出口氏の視点で興味深いのは、開国のきっかけとなったペリー来航(1853年)をどう見るかです。従来の教科書的説明では捕鯨船の寄港を求めるためという説明ですが、実は植民地や交易国獲得でヨーロッパ諸国に出遅れたアメリカは、やむなく太平洋方面へ進出し、日本や中国との交易で国を富ますことを狙っていました。実際、南北戦争(1860-65年後)以降のアメリカのGDPシェアは急伸する(アンガス・マディソン『経済統計で見る世界経済2000年史』の興味深いデータが引用されています)。
出口氏の視点を敷衍すると、日米の衝突と因縁は実にこの1853年に始まり、日米戦争における日本の敗北とアメリカによる占領(1945年)、その後の日本の実質的な従米国家が現在に至るまで続くことになります。
本書では、幕末から明治における歴史的な人物の評価が興味深い。幕末の大老であった阿部正弘(1819-57年)は、「開国・富国・強兵」という日本の近代化のグランドデザインを描いた稀有な政治家でした。安倍がもっと長生きしていたら、明治維新という暴力革命なしで日本の近代化が可能であったかもしれないです。そもそも「明治維新」は後からの命名で、当時は「御一新」でした。その「御一新」とは、端的に言えば徳川幕府の下で冷遇されてきた薩長による「暴力革命」でした。首謀者は西郷隆盛と大久保利通です。薩長が幕府を倒すため、三条実美らの公家たちと共謀して様々な謀略がなされた。
西郷は本来理想主義者であり、現実主義者の大久保利通と対照的です。岩倉使節団が長期間日本を留守した間に、西郷はなすべき改革(廃藩置県、鉄道開業、太陽暦の採用、旧幕府の人材登用など)をほとんど実行してしまい、その後は薩摩に引っ込んでしまいました。その理由に現実主義者が多い明治政府から疎まれたことがあります。西南戦争は、西郷の夢が破れた後の暴力革命の仕上げです。
維新の三傑(木戸孝允・西郷隆盛・大久保利通)亡き後を引き継いだ伊藤博文と山縣有朋(いずれも長州)は、西郷や大久保に比較すると大変な小粒です。伊藤は実行力はあるが構想力がないので大久保が生前考えていたプランをそのまま実行しました。山縣はとんでもない軍事国家を作ってしまいました。この二人が自らの権力を正当化するために捻り出したのが「長州史観」です。山縣は薩長中心の軍事国家を作り上げ、その「悪しき伝統」は敗戦時まで続きました。半藤氏の持論は「薩長軍閥が始めた太平洋戦争は、旧賊軍出身者が終わらせた」と説明します。
内容紹介
◆知の巨人2人が、 世界史のなかの「幕末・維新」を語る!
あのとき、日本を動かしたのは龍馬でも松陰でもなかった!
明治維新最大の功労者は誰なのか? ・ペリーの黒船はなぜ日本に来たのか?
・老中首座・阿部正弘が描いた国の形
・「御一新」は革命か内乱か?
・吉田松陰は利用された?
・幕末の激変期を支えた、合理的思考リーダーとは?
・薩長が始めた太平洋戦争を「賊軍」が終わらせた
【巻末収録】半藤一利・出口治明選 明治維新をより深く理解する書籍ガイド
出版社からのコメント
『幕末史』『昭和史』の半藤さんと、『仕事に効く教養としての「世界史」』の出口さんが、明治維新を広く深く語り尽くしていただきました。世界史のなかの明治維新から見えてくること。昭和史への流れから見えてくること。この二つを兼ね備えた刺戟的でわかりやすい一冊です。
著者紹介
半藤 一利(はんどう・かずとし)
作家。1930年、東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを経て、作家となる。1993年に『漱石先生ぞな、もし』(文藝春秋)で新田次郎文学賞、98年に『ノモンハンの夏』(文藝春秋)で山本七平賞、2006年に『昭和史1926‐1945』『昭和史 戦後篇 1945‐1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2015年、菊池寛賞を受賞。
出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年、三重県生まれ。 京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。 ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。 東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務め、 還暦でライフネット生命を開業。社長・会長を10年勤める。2018年より現職。
目次
まえがき 出口治明
第一章 幕末の動乱を生み出したもの
ペリーの黒船はなぜ日本へ来たのか
市民戦争(南北戦争)後に急成長したアメリカ経済
いち早く開国を決意した阿部正弘の開明性
徳川幕府が「海禁(鎖国)」を選んだ本当の理由
勘定奉行は知っていながら止められなかった、金銀の交換比率
軍隊の近代化を進めた薩摩と長州
第二章 「御一新」は革命か内乱か
光格天皇が復活させた「天皇」の権威
薩長が徳川への恨みを晴らした「暴力革命」
錦の御旗に負けた徳川慶喜
戊辰戦争は東北諸藩の反乱ではなく「防衛戦争」
坂本龍馬と船中八策
県名、軍隊、華族に見る賊軍差別
岩倉使節団の留守中に西郷隆盛は何をしたか
「維新の三傑」亡き後を引き継いだ伊藤博文と山縣有朋
第三章 幕末の志士たちは何を見ていたのか
最初に「日本人」を自覚した勝海舟
西郷隆盛は毛沢東か?
幕府の権威を昔に戻そうとした井伊直弼
グランド・デザイナーとしての大久保利通
薩長同盟を実現させた桂小五郎の性格
最大の陰謀家・岩倉具視
伊藤博文と山縣有朋
自由民権運動の志士・板垣退助
西南戦争で薩摩が勝つと思っていたアーネスト・サトウ
第四章 「近代日本」とは何か
「脱亜入欧」を可能にした日本語による高等教育
西南戦争後にシビリアン・コントロールを外した山縣有朋
軍国主義の下地をつくった統帥権の独立はここで登場した
大日本帝国は薩長がつくって薩長が滅ぼした
日露戦争の講和は何が問題だったのか
「開国」というカードを捨てたのが近代日本の過ち
薩長が始めた太平洋戦争を「賊軍」出身者が終わらせた
明治維新の最大の功労者は誰か
半藤一利・出口治明選 明治維新 書籍ガイド
あとがき 半藤一利
年表
参考図書
維新史再考―公議・王政から集権・脱身分化へ (NHKブックス No.1248)
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- 出版社/メーカー: NHK出版
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関連サイト
5分でわかる明治維新!いつ何が起きたのか、流れをわかりやすく解説 ...
https://honcierge.jp/articles/shelf_story/5660