「司馬遼太郎」で
学ぶ日本史
磯田 道史 NHK出版新書
磯田氏は難解な歴史資料を多読し、日本史に造詣の深い学者です。それにもかかわらず、本書は、非常に読み易く、間違いなく歴史の勉強になります。まず、序章では、司馬作品を中心に歴史小説の読み方、分析等が語られます。
第一章は、濃尾平野に端を発する斎藤道三の下剋上と戦国時代の検証、ここでは織田・豊臣・徳川の三英傑の人物対比が面白いです。中でも、三人の女性の好みの違いはなるほどなと思わせます。しかも、この3人のステップはしっかり日本史の転換点になっているから興味深いです。このような生き方は現代にも参考に出来る部分があるので、司馬作品は庶民にも愛され所以です。
第二章は、幕末期の動乱についてです。ここでは、磯田氏は長州閥の『狂』の行動(過剰な尊王思想)が、後の昭和陸軍の暴走の原型になったと指摘していますが、確かにそういう側面もないとは言えないと思いますけど、もっと複雑な背景があった様にも思います。
明治維新までの幕藩体制では、各藩の独立心が強く、日本人の民族意識はむしろ希薄であり、その後、例えば、明治政府の賊軍だった人々の中に後に新政府で活躍する人が出てきたりするのは、近代化を成し遂げた日本が外に敵を見出し、内輪揉めを解消し、皆が協力する時代に変化したと考える方が自然だと思います。
坂本龍馬を世に広めたのが司馬遼太郎というのは分かります。また、司馬作品が脇役を丁寧に描き、陸軍創設者の大村益次郎や、緒方洪庵の様な医者が無私に徹した合理主義を貫いている点を評価するのも分かります。
第三章では、明治の理想について。江戸時代の遺産・果実として、明治政府が各藩の多様な人材を獲得し、また、東京帝国大学を配電盤にして、東京から知識や文明のモデルを築き、日本中に広めていったという下りは痛快です。
これを可能にしたのは徹底したリアリズムと合理主義なのだと言います。現代人との比較の部分は考えさせられます。こういう精神の自立性の高さは先人達から学ばなければいけない点だと思います。
第四章では、昭和初期を『鬼胎の時代』と位置付け、あの戦争を検証しています。明治期にドイツ式の軍隊を作り、日露戦争の成功体験が軍部の膨張主義をさらに増長させ、昭和の頃には軍の『統帥権』がコントロール出来ないくらいにまで大きくなってしまったという下りは、未来への教訓になると思います。
内容紹介
戦国時代の下剋上、幕末維新の大転換、明治から昭和への連続と断絶……歴史のパターンが見えてくる
いかに歴史をつかむのか
当代一の歴史学者が、日本人の歴史観に最も影響を与えた国民作家に真正面から挑む。戦国時代に日本社会の起源があるとはどういうことか? なぜ「徳川の平和」は破られなくてはならなかったのか? 明治と昭和は本当に断絶していたのか? 司馬文学の豊穣な世界から「歴史の本質」を鮮やかに取りだし、日本の歴史と日本人について深く考えさせる意欲作。
著者紹介
磯田 道史(いそだ・みちふみ)
1970年、岡山市生まれ。2002年、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。専攻は日本近世社会経済史・歴史社会学・日本古文書学。現在、国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』『殿様の通信簿』『日本人の叡智』『龍馬史』『歴史の愉しみ方』『無私の日本人』『天災から日本史を読みなおす』など著書多数。
目次
はじめに
序章 司馬遼太郎という視点
第1章 戦国時代は何を生み出したのか
第2章 幕末という大転換点
第3章 明治の「理想」はいかに実ったか
第4章 「鬼胎の時代」の謎に迫る
終章 二一世紀に生きる私たちへ
おわりに
司馬遼太郎 略年譜
参考図書
日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)
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天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)
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関連サイト
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