謎とき日本近現代史
野島 博之 講談社現代新書
本書は、主に高校生を対象に書かれた本ですが、歴史に興味のある人なら誰でも歴史のおもしろさとして、歴史的事件の背景等を学ぶことができます。 それでは、日本近現代史の重要な九つのことを考えていきます。
日本はなぜ植民地にならなかったか?
日本が植民地にならなかったのは、日本が独立を維持できる程度の実力を持ってくれることが、東アジアと北西太平洋の貿易と国防を考える当時最大の帝国イギリスにとって好都合だったからです。
武士はなぜみずからの特権を放棄したか?
ヨーロッパの特権階級と異なり、近世の武士は官僚的な性格を強めており、彼らはまたそのルーツからくる、国家の存続と国内の平和を維持する責任意識を持っていました。幕末においては、幕府が合議を重んじる共同体ではなく、利己的な私心を持つものと見られたため彼らは特権を放棄しました。“総辞職”という感覚に近かったのではないか。明治以降、武士の多くはその知識と学問を活かせる中央と地方の官僚となったが、藩閥だけではなく民権運動家たちも対外的危機感を共有していました。
明治憲法下の内閣はなぜ短命だったか?
明治期の内閣の平均寿命は16ヶ月でした。明治憲法下では首相は国務各大臣の一人にすぎず、他の大臣の指揮や罷免の力がなかったため、内閣不一致による総辞職に追い込まれることが多いでした。また、「宮中・府中の別」により天皇は自らの政治的権限を先頭に立って行使しない存在であり、枢密院、軍部などの諸国家機関においての矛盾や対立を調整し解決していく制度上のメカニズムがありませんでした。
戦前の政党はなぜ急成長し転落したか?
藩閥内閣は政党に攻撃され、政党内閣は非政党勢力に攻撃されました。1921年には普通選挙法が成立し、民本主義、天皇機関説のバックアップにより、政党は官僚組織からの人材受け入れにより国家機関への影響力を増大させました。しかし、度重なる政治汚職スキャンダル、1920年代の不況と恐慌の中、テロ行為を辞さない軍部への国民の期待が熱していました。1935年、国体明徴運動が盛り上がり、天皇機関説が否定され、1938年には国家総動員法が成立し衆議院は脳死状態になりました。ナチズムや共産主義の華やかな成果を見せつけられた日本は、一党独裁と計画経済こそ人類の理想というテーマを追求するようになり、政党はすべて解党しました。
日本はなぜワシントン体制をうけいれたか?
1921年、ベルサイユ体制に代わるワシントン体制が確立しました。これは、急激に勢力を拡大している日本を押さえ込むのがその目的でしたが、イギリスは世界最大の帝国の地位を失い、アメリカは巨額の軍事費が負担になっていました。日本の対米輸出依存度は40%超になっており、日本は国家にとってワシントン条約がプラスになると判断しこれを受け入れました。
井上財政はなぜ「失敗」したか?
人工的な不況の生成による脆弱な経済体質を吹き飛ばし、経済を再生しようとした蔵相井上準之助による1930年の金解禁は、巨大なアメリカ市場を前提としていました。しかし1929年アメリカは世界恐慌に見舞われ、日本は恐慌に突入します。犬養内閣の高橋是清によって金輸出が再禁止されますが、これは財閥の巨額の為替差益を生み、血盟団事件、五・一五事件につながって行きます。
関東軍はなぜ暴走したか?
ソビエトは急速な成長と軍事力の増強を行って脅威となり、また中国では北伐が起こり国家の統一が目指されるようになりました。関東軍は満蒙をものにすれば中国の要求には根拠がなくなり、また国民の不満を解消することもできると判断しました。また満蒙を資源供給地かつ市場とし、恐慌と人口急増にも対応したいと考えましたが、世界恐慌によって気力を失っていたアメリカもこのワシントン体制への敵対的行動に沈黙すると判断しました。これらの要因が関東軍を暴走させました。
天皇はなぜ戦犯にならなかったか?
アメリカ国内の世論やオーストラリアの主張に反し、天皇が戦犯にならなかったのは日本の現実に向き合わざるを得ないマッカーサーらの政治的判断が大きいからです。また、アメリカ政府は天皇を死刑にした場合の、日本への大量の軍隊、行政官の駐留、物資補給体制の確立に国内世論は反発必至と考え、むしろ天皇の存在を統治の円滑化に結びつける方向に占領初期に転換しました。
高度経済成長はなぜ持続したか?
日本の高度経済成長期は1955年から73年までで、年平均10%の成長をしました。占領開始当初の、農地改革、財閥解体、労働改革の経済改革と、冷戦によるアメリカの占領政策の変換、朝鮮戦争、プレトン・ウッズ体制への参加という要因がありました。国内要因としては、技術革新、貯蓄率の高さによる財政投融資、エネルギー・消費革命、日本国憲法下で軍事費の突出を避け多方向の経済政策の実施が挙げられます。また、プレトン・ウッズ体制による固定相場が大きいでした。しかし、この高度成長も1960年代からのアメリカ経済の失速と第一次石油危機により終焉し、1974年には戦後初のマイナス成長となりました。
内容紹介
正しい歴史観をみがくための「なぜ?」 ●日本はなぜ植民地にならなかったか●武士はなぜみずからの特権を放棄したか●明治憲法下の内閣はなぜ短命だったか●戦前の政党はなぜ急成長し転落したか●日本はなぜワシントン体制をうけいれたか●井上財政はなぜ「失敗」したか●関東軍はなぜ暴走したか●天皇はなぜ戦犯にならなかったか●高度経済成長はなぜ持続したか
正しい歴史観をみがくための9つの「なぜ?」
関東軍はなぜ暴走したか?昭和天皇はなぜ戦犯にならなかったか?
関東軍はなぜ暴走したか――関東軍は、なぜ1930年代の初頭に満州事変をひきおこしたのでしょうか。もともとそうした侵略性をそなえていたのだといった類いの解説は、歴史上のあらゆることの説明に転用しうる便利さをもってはいるものの、運命論者以外の人の説得には役だちません。また、組織的な軍隊が中央の命令もないまま行動するには、少なくとも現場の指揮官に、十分な動機と高いレヴェルの決意が必要なはずです。あらためて述べるまでもないことですが、日本の戦争がもたらした惨禍を考えれば、到底、関東軍の行動を高らかに称賛したり全面的に正当化したりすることはできません。ただ、実は正直なところ、自分が現場にいたら指揮官の決断に同意したのではないか、あるいはひょっとすると似たようなことを指向したのではないか、と感じているのです。――本書より
著者紹介
野島 博之(のじま・ひろゆき)
1959年、三重県生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は日本近現代史。現在、駿台予備学校日本史科講師。「なぜ」を考えることが「歴史」の面白味と説く。主な著書に、『日本史重要人物101』(共著)――新書館、『日本近現代史問題集』――山川出版社――などがある。
目次
はじめに
第一の問い 日本はなぜ植民地にならなかったか
第二の問い 武士はなぜみずからの特権を放棄したか
第三の問い 明治憲法下の内閣はなぜ短命だったか
第四の問い 戦前の政党はなぜ急成長し転落したか
第五の問い 日本はなぜワシントン体制をうけいれたか
第六の問い 井上財政はなぜ「失敗」したか
第七の問い 関東軍はなぜ暴走したか
第八の問い 天皇はなぜ戦犯にならなかったか
第九の問い 高度経済成長はなぜ持続したか
おわりに
関連年表
参考図書
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