読書案内

お薦めの本を紹介します

読むこと、聴くこと、生きることー高度情報化社会における新たな可能性とは?

    読む力・聴く力

         河合隼雄 立花隆 

     谷川俊太郎 岩波現代文庫

 

本書は、河合 隼雄 ・立花 隆 ・谷川 俊太郎のお三方のシンポジウムである「絵本・児童文学研究センター」主催第10回文化セミナー「読む 聞く」(2005年11月20日小樽市民会館)を収録したものが基になってます。
 谷川さんは、講演せずにご自分の詩を紹介したようですが、他のお二方の講演は本書に掲載されています。そして、谷川さんは、シンポジウムのコーディネイターをつとめています。
 お三方とも、臨床心理家として、ジャーナリスト、詩人として聞(聴)くこと読(詠)むことを多年にわたり深く考えてきた人たちであるだけに内容は濃いです。聞く読む対象である言葉そのものについても考えさせられます。その際、取り上げられる話題も興味深いです。それらは、カウンセリング、モーツアルトベートーヴェンなどの音楽、フランス語(entendu?)、ロボットハンド、人工内耳、IO比率、クライアントとの関係、インターネット、ブログ等です。
 興味をもったのは、カウンセリングでクライアントの話を聴く河合隼雄さんと研究者から話を聴く立花隆さんとでは、聴き方が全然違います。河合さんは相づちを打つ程度で聴き、けれど勝負師のように気を張って聴くのだそうです。立花さんは相手にどんどん質問をぶつけながら相手の話を引き出すように聴きます。同じ聴くという活動でも様々なんだなと興味深く読みました。

 知識・情報の量が膨大なものになっている今日、全体を俯瞰するための経験に裏打ちされた知恵が必要だとの思いを強め、《「読むこと」「聴くこと」の背後に、「生きること」がある》のを、思い起こすため、ときどき本書をひもとくのはいいように思いました。

内容紹介

人間の精神活動の基本である「読むこと」「聴くこと」は,高度情報社会のいま,どれだけ人間の生き方や社会のあり方に関わる深い体験になっているのか.本書では臨床心理・詩・ノンフィクションの分野で日本を代表する三人が,それぞれの「読むこと」「聴くこと」についての体験を語り,現代におけるその意味を問い直す.


 インターネットの爆発的な進歩と普及によって,人間の「読む」「聴く」在り様も相当な変化をしつつある.立花さんが紹介されているような,会議の討論がそのまま世界に開かれていて,多くの人の同時参加により討論が発展してゆく,などというのもその一例である.立花さんは東京大学で現在そのようなことを試みておられ,臨場感にあふれるお話で非常に興味深かった.
このように,現代人にとって,「読む」「聴く」に際し,そこに流れこんでくる情報量は予想外の多いものになってきたし,それに対応する方法をよほどよく考えていないと,むしろ,情報の力によって人間が押し潰されてしまうことさえ起こりかねない.
結局,現代人の課題は一見相反するような2つの能力をいかに共存させバランスさせるか,ということになるようだ.
河合隼雄先生「あとがき」より)

高度情報化社会のいま,パソコン,スマートフォンタブレット端末の普及などによって人間の「読む」「聴く」という行為をめぐる環境は劇的に変わりつつあります.そのなかで,「読むこと・聴くこと」は,どれだけ人間の生き方や社会のあり方に関わる深い体験になっているのでしょうか.心理・ノンフィクション・詩の分野で日本を代表する三人が,それぞれの創作の現場での「読むこと・聴くこと」についての体験を語り,現代におけるその意味を問い直します.最初に,河合隼雄の臨床現場でのクライアントの話を「聴く」聴き方や,立花隆の取材における知りたいことを徹底的に「聞く」聴き方などそれぞれのプロとしての方法論などが語られる講演.次に,谷川俊太郎の「読むこと」「聴くこと」に関する味わい深い詩のアンソロジー.最後に三人の三つ巴のシンポジウムで展開される熱くて刺激的な議論.これを読めば,本を読むときや講演を聞くときの意識が変わること請け合いです.また「読むこと・聴くこと」は,人間が生きていくことに深くかかわっている,とう筆者たちの意見にも納得できるでしょう。

著者紹介

河合 隼雄(かわい・はやお)
1928年兵庫県生まれ.臨床心理学者.京都大学理学部卒業.日本初のユング派分析家資格取得.京都大学教授,文化庁長官などを歴任.2007年7月逝去.『河合隼雄著作集』(岩波書店)がある。

立花 隆(たちばな・たかし)
1940年長崎県生まれ.ノンフィクション作家.東京大学文学部卒業.著書多数.1983年菊池寛賞,1998年司馬遼太郎賞,2014年『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』で毎日出版文化賞書評賞受賞。

谷川 俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)
1931年東京生まれ.詩人.代表作『二十億光年の孤独』をはじめ,著書多数.『谷川俊太郎全詩集』(岩波書店 CD-ROM版)がある。

目次

はじめに
「読む聴く」の大切さ‥‥‥‥‥河合隼雄
生涯何冊本を読めるか‥‥‥‥‥立花 隆
言葉のほかにも‥‥‥‥‥谷川俊太郎

講演
読むこと・聴くこと・生きること‥‥‥‥‥河合隼雄
人間の未来と読むこと・聴くこと‥‥‥‥‥立花 隆

アンソロジー
小アンソロジー‥‥‥‥‥谷川俊太郎

シンポジウム
読む力・聴く力‥‥‥‥‥河合隼雄 立花 隆
司会 谷川俊太郎

あとがき‥‥‥‥‥河合隼雄

現代文庫版あとがき‥‥‥‥‥立花 隆

参考図書

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1928年兵庫県篠山市生まれ。臨床心理学者。京都大学名誉教授。京都大学教育学博士。2002年2月から2007年1月まで文化庁長官(民間人からの文化庁長官就任は17年ぶり3人目)を務めた。 1952年京都大学理学部卒業後、アメリカ留学を経て、 
 
 
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