読書案内

お薦めの本を紹介します

池澤夏樹による科学についての随筆

   科学する心

         池澤 夏樹

集英社インターナショナ

 

科学する心

科学する心

 

 

 本書の基になっていたのは、新潮社の季刊誌「考える人」に連載していた科学エッセイでしたが、雑誌が無くなったために集英社の季刊誌「kotoba」に場を移して連載していたものをまとめたものです。
 本書では昭和天皇の生物学研究を再評価したり、グールドとドーキンスの進化論論争をふりかえってみたり、ファーブルの昆虫記の文学性について再考したり、原発事故を鋭く指弾したり、さまざまな話題がとりあげられています。いずれも専門の科学者ではない立場から語られており、親しみやすくわかりやすいです。

 特に印象に残ったのは、「なぜ人間はこんなに科学を発展させてしまったのか、いや商業目的に利用して来たのかという問いかけ。便利にはなったけれど、これが幸福とは一概には言えない。人間という生き物がどんどん資源を酷使して、他の動物にとっては迷惑千万。人間が世界の中心ではない、一つの場所を共同で利用する意識、自然の恩恵に感謝する。」本当にそう思います。

 内容紹介

科学者としての昭和天皇
絶滅種に対する愛惜、料理の科学……
科学と文学を橋渡しする珠玉のエッセイ

 

「科学についての自分の考えを少し整理し、
抽象と具象の中間を行く思索を試みたいと思っていた」
──本文より


大学では物理学部に籍を置いたこともある池澤夏樹。これまでも折に触れ、自らの作品にも科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、そして失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。科学者としての昭和天皇の素顔や、原子力の歴史を自らの人生と重ねて考えるなど、「科学ファン」を自認する作家の本領が発揮された一冊。

著者紹介

池澤夏樹(いけざわ なつき)
作家・詩人。1945年、北海道生まれ。『スティル・ライフ』(中公文庫)で芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』(新潮文庫)で谷崎潤一郎賞、『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』(河出書房新社)で毎日出版文化賞、朝日賞を受賞。その他、『知の仕事術』(インターナショナル新書)など著書多数。

目次

第一章 ウミウシの失敗
第二章 日時計と冪とプランク時代
第三章 無限と永遠
第四章 進化と絶滅と哀惜
第五章 原子力、あるいは事象の一回性
第六章 体験の物理、日常の科学
第七章 知力による制覇の得失『サピエンス全史』を巡って
第八章 『昆虫記』と科学の文学性
第九章 「考える」と「思う」の違い 三本のSF映画によるAI論
第十章 主観の反逆 あるいは我が作品の中の反科学
第十一章 パタゴニア紀行
第十二章 光の世界の動物たち 桑島からカンブリアへ

あとがき

参考図書

終わりと始まり (朝日文庫)

終わりと始まり (朝日文庫)

 

 

パレオマニア 大英博物館からの13の旅 (集英社文庫)

パレオマニア 大英博物館からの13の旅 (集英社文庫)

 

 

 

関連サイト

2019/04/07 - 池澤夏樹の新刊『科学する心』が発売されました! 人間にとって科学とは何かを広範囲なテーマから探り、季刊誌「考える人」や集英社クォータリー「kotoba」に連載してきたエッセーが一冊にまとまりました。 詳しくはこちらをご覧ください。
 
 

文学を語ることばで科学を語る。『科学する心』 - HONZ


https://honz.jp/articles/-/45224 
2019/06/02 - 池澤夏樹・著『科学する心』の帯に書かれた吉川浩満さんの推薦文です。文学者のことばで科学を語るエッセイ集として話題になっている『科学する心』。この本の刊行記念として、三省堂書店池袋本店の主催で行われた池澤夏樹さんと吉川浩満 ...
 

「科学とは知識ではなく、五感で自然に向き合う力」 科学と文学を ... - zakzak


https://www.zakzak.co.jp/lif/news/190602/lin1906020002-n1.html 
2019/06/02 - 池澤夏樹さん『科学する心』集英社インターナショナル(1800円+税). 硬質かつ美しい文体で語られる、この世を成り立たせているものの数々。生き物、宇宙、原子力とテーマは多岐にわたり、科学ファンはもとよりそうでなくても、読み終えるの ...
 
 

「科学する心」 文学で味付けされた自在な科学考|好書好日


https://book.asahi.com/article/12359366 
 › 書評
 
2019/05/11 - 大学で物理学を学び、作品に科学的題材を織り込んできた池澤夏樹。「科学する心」を持ち続けた作家が、人工知能、進化論、永遠と無限、日常の科学などを「文学的まなざし」を保ちつつ… 評者:黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月11日 ...