心の起源
生物学からの挑戦
木下清一郎 中公新書
本書は、生物学の知見により、「記憶」を重要な要素として、「心とは何か」をアプローチするという内容になってます。また、本の構成上も工夫がなされてます。各章の冒頭に暗示的なブロローグがあり、各章末尾には、その章の「まとめ」があり、理解しやすくなってます。
生命の起源について科学的に解説した『生命からのメッセージ』の著者による心の起源を論理的に説明した教養書です。心が何であるかを知るためには、その起源を知るべきであると著者は考えています。
心がいつできたのかを問うために、物質が生物になる特異点を考え、心の入れ子(器)である脳の発生と進化を知ることが必要である。さらに、これらを心の発生の経緯と比較検証することが必要と考えて考察を試みています。しかし、脳の発達過程は科学的な検証が進んでいるのに対し、心については優れた実験系が乏しいために、データとデータの隙間が大きすぎて、これを埋め合わせる論理的考察がどこまで正しいか、客観性が高いかは非常に評価しづらいです。科学と言うよりは哲学によって定義されるような対象を述べる場合の弱点がここにあるために、途中の考察がまるで哲学書のような言葉遊びのように見えてしまい、非常に理解しづらい部分がいくつかあります。現時点でこの問題に挑戦するにはこれが限界かもしれないですが、人工知能に関する文献を参照することで、さらに緻密な検証ができるのではないかと思います。
内容紹介
心はどのようにして誕生したのか。この難問を解くキーワードは「記憶」。記憶を持つことで過去と現在の照合が可能となり、それまで瞬間のみを生きてきた生物が時間と空間を獲得した、と著者は仮説を立てる。さらには快・不快という原初の感情が芽生え、物事の因果関係を把握することで、本能によらず自らの意志で行動する自由を得たー。これまで人文科学の領域とされてきた「心」に、生物学の観点からからアプローチを試みる。
著者紹介
1925年(大正14年)、大阪府に生まれる。東京大学理学部動物学科卒業。東京大学理学部教授、同大学理学部付属臨海実験所長、埼玉医科大学医学部教授などを歴任。東京大学名誉教授、埼玉医科大学名誉教授。理学博士。専攻、発生生物学。
目次
はしがき
第一章 問題のありか
第ニ章 心の原点をたずねる
第三章 「世界」とは何か
第四章 心の働く場
第五章 心の世界を覗きみる
第六章 心の未来はどうなるか
あとがき
人名ノート
参考図書
- 作者: D.C.ギアリー,David C. Geary,小田亮
- 出版社/メーカー: 培風館
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 62回
- この商品を含むブログ (2件) を見る