読書案内

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考古学の歴史に思いを馳せる

    若い読者のための

   考 古 学 史

ブライアン・フェイガン

[訳]広瀬 恭子 すばる舎

若い読者のための考古学史 (Yale University Press Little Histories)

若い読者のための考古学史 (Yale University Press Little Histories)

 

 

本書は、イェール大学出版局による人類学・考古学者の著作で、 40のチャプターから構成される考古学本です。考古学者その他、関係するキーパーソンの来歴なども交えて考古学に関するエッセイを綴っています。

本書は、3つ特色を備えています。第1は、世界の考古学の歴史が、さまざまな考古学者のエピソードを辿ることで、すんなりと頭に入ってくることです。第2は、40の章のいずれもが短くまとめられており、内容が簡にして要を得ていることです。第3は、各章に想像力を掻き立てる挿し絵が添えられていることです。

 

本書で特に印象に残った章をあげます。


古代エジプトを読み解く」の章では、古代エジプトヒエログリフを解読したジャン・フランソワ・シャンポリオンと並んで、エジプト学の基礎を固めたジョン・ガードナー・ウィルキンソンが登場します。「ウィルキンソン古代エジプト人の姿を心に残るやり方で描写してみせたことで、世界最古の文明に関する本格的な研究に光があたった。ナイル川流域での十把ひとからげの破壊は、より規律ただしい研究に少しずつとってかわられていった」。

「牛だよ(トロース)! 牛(トロス)!」の章では、スペインのアルタミラ洞窟の壁画発見の瞬間が活写されています。「帰国した(サウトゥオラ)侯爵は発掘を決断した。9歳になる娘のマリアがいっしょに行きたいとねだった。父と娘が見守る前で、作業員たちがつるはしやシャベルを使って洞窟内の地面を掘りかえし、彫り細工の遺物をざっと探してまわった。そのどろんこ遊びを見物していたマリアはすぐに退屈し、洞窟の奥のほうへ遊びに行ってしまった。突然、天井の低い支洞のほうから叫び声が響いた。『トロース! トロス!(牛だよ! 牛!)』」。クロマニョン人が描いたバイソンなどの動物たちが、少女の叫び声によって15,000年ぶりに甦ったのです。

「すばらしいもの」の章では、ツタンカーメン王墓を発見したハワード・カーターの活躍が語られているが、彼のライヴァル考古学者、セオドア・デイヴィスについて、このような一節が記されています。「デイヴィスは自制心と潤沢な資金をたよりに、思うような成果のないまま何シーズンも発掘を続けた。1912年までねばったあと、王家の谷は掘りつくしたと宣言して手をひいた。盗掘をまぬかれたツタンカーメンの王墓入口までわずか2メートルというところだった」。この2メートルがライヴァルたちの明暗を分けたのです。

「年代を測定する」の章では、1949年にウィラード・リビーが考案した放射性炭素年代測定法によって5万年も前の遺跡や遺物の年代決定が可能になったこと、さらに、カリウム・アルゴン年代測定法によって300万年以上前にまで遡れるようになったことが綴られています。そして、「見えないものに光を」の章では、地中レーダーやLIDAR(光検出測距)といったリモートセンシングによって、鬱蒼たる広大な森に覆われたアンコール・ワットの全体像が明らかになった事例が紹介されています。

 内容紹介

「歯切れよく、ぐっと引きこまれ、わかりやすい。ブライアン・フェイガンは、明快でしっかりとしたメッセージを一般読者に届けることができる、現代考古学界きっての著者だ。この本もまた例外ではない」
————ジェレミー・A・サブロフ(米国サンタフェ研究所・前所長/『Archaeology Matters』著者)

人類学や地質学と連係しつつ発展してきた、グローバルで時空をこえた知的探求のあゆみ

一瞬にして火山灰に埋もれたポンペイの町はどのように発見され、発掘されたか。
氷河時代の洞窟内に描かれた壁画の作者は?


密林の奥にたたずむ古代遺跡、世界各地に現存する巨石モニュメントの謎など、コンパクトな40章で、考古学が誕生した18世紀から衛星画像や遠隔探査の技術が進歩した現代まで、世界先史学の権威がテンポよく案内する、地球規模の考古学の発展史。

出版社からのコメント

考古学はヨーロッパと地中海沿岸で誕生した。その探求はいまや、世界規模となっている。考古学者はアフリカでもモンゴルでも、パタゴニアでもオーストラリアでも活動している。1世紀前までの無遠慮な穴掘りは、きびしく管理され綿密に計画された発掘にとってかわった。
いまでは個々の遺跡だけでなく、古代の景観全体を解明することに力が注がれている。
レーザーや衛星写真、地中レーダーを使った遠隔探査などの力を大いに借りて遺跡を発見し、かつての発掘作業の1日分にも満たない量の土を1か月かけて除去する。

イギリスには、素人考古学者たちがプロの研究者たちと連携して大発見を果たした事例もある。イングランド中部スタッフォードシャーで、アングロ=サクソン人が残した西暦700年ごろのものとみられる金銀財宝3500点を掘りあてたのだ。これがお宝ではなく情報を求めて調査と発掘を行う、現代の科学的考古学の姿だ。

では、なぜ考古学が重要なのか。それは考古学が、何百年、何千年という長い時間をかけて人間社会がどのような変化をとげてきたのかを知る唯一の方法だからだ。
なににもまして、考古学はわたしたち人類の本質的な特徴を定義する。
人類共通の祖先はアフリカで誕生したことを明かし、わたしたちの共通点や相違点を教えてくれる。考古学者は、ありとあらゆる場所に住む、すばらしく多様な人々を研究する。

考古学の進歩は、19世紀と20世紀の学術研究きっての大勝利のひとつだ。この物語を語りはじめたとき、だれもがわたしたち人類の歴史はわずか6000年と思っていた。それがいまでは300万年前までのび、さらに昔へさかのぼりつつある。どれほど学識ゆたかな人でも、驚異的でときに予想外の考古学的発見が過去を鮮やかによみがえらせるたびに、驚嘆の念に打たれるものだ。
たとえば、井戸掘りの最中に見つかった中国秦の始皇帝兵馬俑
火事で一瞬のうちに焼きつくされて、土器のなかに手つかずの食事が残っていたイングランド東部の3000年前の村。こういった発見に、わたしたちの血はたぎる――しかも、新たな発見は毎日ある。

さあ、役者が全員、舞台に揃った。そろそろ幕が上がるころだ。
歴史劇のはじまり、はじまり! 
(本書の第1章「うしろ向きの好奇心」より抜粋)

 著者紹介

ブライアン・フェイガン

考古学者、人類学者、作家。ケンブリッジ大学ペンブルツク・カレッジで考古学と人類学の博士号取得。アフリカ、いまのザンビアでの博物館勤務などを経て、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で2003年まで36年間、教授として人類学を教える。現在は研究と執筆活動に専念し、考古学を学生および一般読者に、わかりやすく届けることに情熱を注ぐ。編著書に『人類と家畜の世界史』『海を渡った人類の遥かな歴史』『水と人類の1万年史』( 以上河出書房新社 )、『ビジュアル版 氷河時代』( 悠書館 )、『考古学のあゆみ』( 朝倉書店 )など多数。

目次

1/「うしろ向きの好奇心」 2/ロバとファラオ 3/古代エジプトを読み解く 4/ニネヴェを発掘する 5/粘土板とトンネル掘り 6/あばかれたマヤ 7/斧とゾウ 8/大きな転換点 9/三つの時代 10/凍てつく石器時代の狩人たち 11/時をこえて 12/土塁の建設者たちの神話 13/「未知の世界への一歩」 14/牛だよ!牛! 15/ホメーロスの英雄たちを探して 16/「体系化された常識」 17/ぱっとしない小さなもの 18/ミノタウロスの宮殿 19/「男の仕事」じゃない 20/日干しれんがと洪水 21/「すばらしいもの」 22/首長の大御殿 23/東と西 24/貝塚、プエブロ、年輪 25/火を吐く巨人 26/川の曲がり目で 27/年代を測定する 28/生態学と世界先史学 29/「かわいい坊や!」 30/最初の農耕民 31/皇帝を護る 32/水中考古学 33/入植者との出会い 34/アイスマンと有名無名の人々 35/モチェの神官戦士 36/宇宙へのトンネル 37/チャタルホユック 38/景観のなかで 39/見えないものに光を 40/考古学の現在と未来
訳者あとがき/索引

参考図書

考古学のあゆみ―古典期から未来に向けて (科学史ライブラリー)

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海を渡った人類の遥かな歴史 (河出文庫)

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人類と家畜の世界史

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 関連サイト

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