読書案内

お薦めの本を紹介します

天皇陛下のオックスフォード大の留学生活記ーテムズとともに

 テムズとともに

          英国の二年間

徳仁親王 学習院教養新書

テムズとともに -英国の二年間- (学習院教養新書 7)

「・・・再びオックスフォードを訪れる時は、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。
おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう。・・・」(pp.211,212)

冒頭に本文を載せましたが、著者はこの2年間の最後に、行き場のないような寂しさ、オクスフォードへの名残惜しさを書き記しています。
・・・もう二度と、自由な学生としてオックスフォードを見て回ることができない、この町は変わらないが自分は変わってしまう、ならばいっそ時間が止まってくれれば・・・と。

本書は、世界屈指の名門校であるイギリス、オックスフォード大学の大学院に留学した、著者のかけがえのない2年間について書かれた本です。

オックスフォードの町、また大学の歴史はもちろん、大学の寮生活、スポーツや芸術活動、国内旅行やヨーロッパ旅行、そして研究生活…まで幅広く丁寧に書かれています。
そこでは、著者から見たイギリスのオックスフォードや、著者から見た海外生活を垣間見ることができます。

著者はオックスフォードの大学院で「18世紀におけるテムズ川の水運」を研究テーマに据えてます。そもそも、著者は日本の大学や大学院でも中世の交通史を専攻していす。
留学先でもテムズ川の交通史を研究するわけですが、なぜ「交通史」なのか?その理由を著者は以下のように述べています。

「そもそも私は、幼少のころから交通の媒体となる「道」についてたいへん興味があった。ことに、外に出たくともままならない私の立場では、たとえ赤坂御用地の中を歩くにしても、道を通ることにより、今までまったく知らない世界に旅立つことができたわけである。私にとって、道はいわば未知の世界と自分を結び付ける貴重な役割を担っていたといえよう。・・・」(pp.149-150)


著者がオックスフォードでみたのは、「海外」というより、「外の世界」であったのではないかとこの本を読んで思いました。
明らかにその他の留学記とは違う、でもそこには留学中、誰もが感じるだろう驚きや発見、感動が書かれています。
是非、機会があったら、手にとって読んでみてください。

内容紹介

『テムズとともに -英国の二年間-』(テムズとともに えいこくのにねんかん)は、徳仁親王が1983年6月から1985年8月までのイギリスオックスフォードでの留学生活を回顧したエッセイである。1993年学習院の創立125周年記念の学習院教養新書として刊行された。2006年1月、元駐日イギリス大使、ヒュー・コータッツィ(Hugh Cortazzi)の翻訳で英訳され、イギリスで出版された。

学習院大学大学院で日本中世交通史を研究した徳仁親王は、1986年からオックスフォード大学のマートン・コレッジで2年間の研究生活を送り、ロンドン警視庁の警護官2人に代わる代わる身辺警護される以外は自ら洗濯を行い、買い物を行う生活を行った。学友とスポーツや室内楽の演奏を楽しみ、マサイアス教授のもとでテムズ川の水上交通史の研究を行った。それらの体験が淡々と記述されている。この書物の評する人々がよく引用するのは、イギリスを離れる前にオクスフォードの街をもう一度確認するために歩きながらの感想である。

「再びオックスフォードを訪れるときは、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたなどと考えてしまう。」

著者紹介

徳仁親王(なるひと・しんのう)

1960年生まれ。1982年学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。1983年10月英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。1988年学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。1992年4月学習院大学資料館客員研究員。

<主な著書・論文>

’The  Thames  as  Hightway'(Oxford,1989)、「『兵庫北関入船納長』の一考察」(『交通史研究』第8号,1982)、「室町前中期の兵庫関の二,三の問題」(『中世日本の諸相』吉川弘文館,1989)

目次

はじめに

1 大使公邸での十日間

2 ホール邸での生活

3 オックスフォード大学入学

4 オックスフォードについて

5 オックスフォードでの日常生活

6 オックスフォードでの芸術活動

7 スポーツ

8 オックスフォードでの研究生活

9 英国内外の旅

終章 二年間を振り返って

あとがき

参考文献 巻末

 

参考図書

The Thames and I: A Memoir by Prince Naruhito of Two Years at Oxford

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