錯覚の科学
クリストファー・チャブリス
+ダニエル・シモンズ
[訳]木村 博江 文春文庫
- 作者: クリストファーチャブリス,ダニエルシモンズ,Christopher Chabris,Daniel Simons,木村博江
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/08/06
- メディア: 文庫
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本書は、色々な実例を挙げながら、人間がおちいる錯覚について詳細に解説しています。本書によれば、錯覚には7種類あるといいます。すなわち、注意、記憶、自信、知識、経験、原因、可能性です。いずれの事例も我々の思い込みをことごとく打ち砕く事例ばかりです。
主な事例を挙げてみますと、①車を運転中に携帯電話を操作していても運転に支障はないという思い込みや、②普通の人は脳の潜在能力の10%しか使っていないという説、③サブリミナル効果は確かにあるという説――などが、次々に粉砕されていきます。
とりわけ強い印象をもったのは、、④モーツァルトの音楽を聴くと頭がよくなるという、いわゆるモーツァルト効果が嘘だと証明されていることです。
「モーツァルト効果に世間の関心が一気に高まったのは、1993年10月に、権威ある科学雑誌『ネイチャー』に、フランシス・ラウシャー、ゴードン・ショー、キャサリン・キイの研究報告が1ページにわたって掲載されたのがきっかけだった。標題は『音楽と空間認識能力』という、いたって穏やかなものだった。・・・彼(ショー)は音楽を聞くだけで脳の働きが活性化する――ただし、その音楽は適切なものにかぎる――という仮説を立てた。そしてモーツァルトが書いた曲は、『脳に内在する神経系言語ともっともよく響きあい』、脳をもっとも活性化させると考えた」。この仮説を実証するために行われた実験の化けの皮が剥がされていく過程は、実にスリリングです。人々がなぜモーツァルト効果を信じたのかの考察も興味深いものがあります
⑤脳トレーニングをすれば、呆けが防げる――という説がいかにいい加減なものかも明らかにされています。著者は、脳トレーニングよりも有酸素運動のような肉体を使うエクササイズのほうが脳に遥かに効果があることを示した上で、高齢者に毎週3日に1回、45分間のウォーキングを推奨しています。
錯覚を防ぐため本書では、次のように提案します〜日常的な錯覚について知ること、自分の認知能力をトレーニングで鍛えること、そしてテクノロジーに期待すること。ただこれらいずれも根本的な解決にはなりません。そう言う意味では、本書は人間の持つ不合理さを見つめ直すよい機会を与えてくれます。
内容紹介
ハーバード大学の俊才たちが、最先端科学実験で次々に明らかにする、あなたの記憶のウソ、認知の歪み、理解の錯覚。
本書では私たちに影響を与える日常的な六つの錯覚、注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性にまつわる錯覚を取り上げながら、人の感覚や知識がいかにあいまいで不十分なものか、具体例を挙げながら立証する。
サブリミナル効果などというものは存在しない。いくらモーツァルトを聴いても、あなたの頭は良くならない。レイプ被害者は、なぜ別人を監獄送りにしたのか?「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、目では船が見えていたのに、脳が船を見ていなかった。ヒラリーはなぜありもしない戦場体験を語ったのか。脳トレを続けても、ボケは防止できない。―日常の錯覚が引き起す、記憶のウソや認知の歪みをハーバードの俊才が科学実験で徹底検証。脳科学の通説を覆す衝撃の書!
原題は"The Invisible Gorilla"(見えないゴリラ)。2004年イグノーベル賞を受賞した心理実験「見えないゴリラ」を行った2人の心理学者による心理学ノンフィクション。
「見えないゴリラ」とは人が何かに熱中している際にはゴリラの着ぐるみが目の前にいても簡単に見逃してしまうことを示した心理実験。著者の2人はこの実験で大きな注目を浴び、イグノーベル賞を受賞した。
著者等紹介
チャブリス,クリストファー(Christopher Chabris)
心理学者。ニューヨーク・ユニオンカレッジ教授。1966年ニューヨーク生まれ。ハーバード大学にてコンピュータ・サイエンスを専攻。チェス王者たちの認知メカニズムの研究によりPh.D.取得(心理学)。ハーバード大学医学部等で人間の認知メカニズムや神経心理学の研究を重ねる。「見えないゴリラ」の実験は人間の認知メカニズムの陥穽を鋭くえぐり出し、心理学における最重要論文のひとつとなっている。『錯覚の科学』にてイグ・ノーベル賞受賞(2004年) 。
シモンズ,ダニエル(Daniel Simons)
心理学者。イリノイ大学教授。カールトン・カレッジにて認知科学を専攻後、1997年、コーネル大学にてPh.D.取得(心理学)。ハーバード大学医学部にて、人間の認識、記憶、意識の限界をテーマとした研究を重ねる。97年にハーバードでチャブリスと出会い、「見えないゴリラ」実験の共同研究者となる。イグ・ノーベル賞受賞(2004年)。2人の研究成果は、米国の人気ドラマ「CSI:科学捜査班」にもたびたび使われている 。
木村博江(きむら・ひろえ)
東京都生まれ。国際基督教大学卒。翻訳家。おもな訳書に『その科学が成功を決める』(リチャード・ワイズマン、文藝春秋)、『アンティキテラ 古代ギリシャのコンピュータ』(ジョー・マーチャント、文藝春秋)など。
目次
はじめに 思い込みと錯覚の世界へようこそ
実験1 えひめ丸はなぜ沈没したのか?―注意の錯覚
実験2 捏造された「ヒラリーの戦場体験」―記憶の錯覚
実験3 冤罪証言はこうして作られた―自信の錯覚
実験4 リーマンショックを招いた投資家の誤算―知識の錯覚
実験5 俗説、デマゴーグ、そして陰謀論―原因の錯覚
実験6 自己啓発、サブリミナル効果のウソ―可能性の錯覚
おわりに 直感は信じられるのか?
参考図書
選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)
- 作者: シーナアイエンガー,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/07/10
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